EBPTワークシート
第2回 「脳卒中片麻痺患者の痙縮による足関節背屈制限」 解説

ステップ1. の解説: PICO の定式化

Patient (患者)は、脳卒中片麻痺で特に足関節の痙縮をテーマに記載しました。また、一般的に行われているストレッチに加えて、当院で実施可能な物理療法の中で超音波を併用したら実際にどの程度効果があるかを知りたいと考え、Intervention(介入) とComparison(比較)を設定しました。Outcome(効果)は、臨床的に評価可能である、modified Ashworth scale(MAS)と足関節背屈角度を主な項目としてあげました。

ステップ2. の解説: 検索文献

PubMedでの検索は、キーワードを「ultrasound spasticity ankle」とLimits機能にてランダム化比較試験(RCT)に限定したところ、PICOの内容に近い文献が2件ヒットしました。発症からの経過が、文献では1年以上であるのに対して、本症例は2か月であることが異なりましたが、介入内容や評価項目が合致し、他に文献が見当たらないため採用しました。
今回は、3つのキーワードで2件に絞られましたが、「ultrasound」のキーワードを入れると、超音波画像診断などもヒットしますので、物理療法として行う場合には「ultrasound therapy」や「therapeutic ultrasound」と入れると目的とする文献がヒットしやすいと思います。ちなみに、Reviewを検索するために「ultrasound spasticity」の2つのキーワードとすると18件ヒットしましたが、ボツリヌス注射の効果や小児、脊髄損傷などの疾患に対するものであり、参考になりそうな文献は見当たりませんでした。

ステップ3. の解説: 検索文献の批判的吟味

今回の文献では、対象者を発症期間、MASの点数を予め定めた上で募集し各群に無作為に割り付けていること、そして各群のベースラインに差が無いかを統計にて確認をしていることが良い点と感じました。患者数については、サンプル数の検定をしたという記載はなく、群間に有意差がなかったことの理由としても考察されていませんでした。盲検化は、患者と治療者にはされておらず、評価者については記載がなかったためチェックを入れませんでした。また、「割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定となっている」については、両群とも数名脱落者がいたものの85%以上は満たしていました。脱落者を含めるITT解析は行われていませんでした。

ステップ4. の解説: 臨床適用の可能性

7つの項目全て確認したところチェックが入りました。超音波療法を感覚が鈍麻している片麻痺の症例に実施する際の注意点として、文献には、異常感覚がないこと、必ずジェルを使用して超音波を照射することの記載がありました。それらに加えて、症例の自覚症状や皮膚の発赤などの異常がないか確認し、介入による弊害がない範囲の強度で実施することが重要と考え注意しました。具体的な介入方針では、文献では超音波を行ってから、背臥位で15秒ストレッチを実施するとの記載があったのですが、考察にてストレッチをしながら超音波を照射するとより効果があるのではとの記載があったため、起立台にて行うこととしました。その他、実施時間、頻度、超音波の設定は、文献の内容を参考にして行いました。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

自分の疑問に即したPICOに近い1つの文献を入手し、介入後の効果を検証しました。今回の文献では、本症例が抱える足関節背屈制限に対して超音波療法を行った方が良いという結果が明らかでなかったため、実際に介入するべきかどうか悩みました。それでも、年齢が若く歩行量が多い片麻痺症例の足関節背屈角度の維持または向上に苦慮することが多い中、今回の症例では介入後背屈角度の向上が得られたので、文献を参考により効果的な方法を考えて実践して良かったと感じました。今回は、物理療法の中で超音波療法を選択して調べましたが、他にも足関節底屈筋の痙縮が軽減すると言われているTENSやFESなどの電気刺激療法についても調べていく必要性を感じました。

第2回 「脳卒中片麻痺患者の痙縮による足関節背屈制限」 解説 目次

2012年02月16日掲載

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