EBPTワークシート
第3回 「肩関節周囲炎における関節可動域制限に対するプログラム」 解説

信州大学医学部附属病院
高橋友明

ステップ1. の解説: PICO の定式化

Patient (患者)は、肩関節周囲炎(五十肩)の診断をうけた患者で、肩関節可動域と肩関節痛の改善をテーマに記載しました。肩関節周囲炎(五十肩)の運動療法において、一般的に行われている肩甲上腕関節の運動に加え肩甲胸郭関節の運動を組み合わせて併用したらどの程度、肩関節可動域と肩関節痛の改善に効果があるのかを知りたいという目的にて、Intervention(介入)とComparison(比較)を設定しました。Outcome (効果)は、臨床的に評価が可能である肩関節痛(VAS)、肩関節可動域(屈曲、外旋、内旋の3方向)の2項目を主な項目として設定しました。

ステップ2. の解説: 検索文献

PubMedでの検索は、キーワードを「frozen shoulder・physical therapy・range of motion」Limits「randomized controlled trial・published in the last 10 years」で検索した結果、39件ヒット。その中から、本症例のPICOと合致できる文献(下記参照)で介入などの面で参考にできると判断して採用しました。特に、肩甲上腕関節の運動に加え肩甲胸郭関節の運動に関する具体的な運動メニューの記載がされており、臨床に即した内容であり、PICOと合致できる文献でありました。肩甲胸郭関節の運動に関する具体的な運動メニューについては、ゴムバンドを利用した肩甲骨後退運動や立位での肩甲骨挙上。内転運動、壁を利用した腕立て伏せ運動、壁での運動ボールを利用したプッシュ運動などの記載がありました。

ステップ3. の解説: 検索文献の批判的吟味

今回の文献では、対象者の除外基準を予め定めた上で募集し、ランダムに2群に振り分けられていること、各群のベースラインが近いことが研究デザインとして良い点と感じました。しかし、対象者については十分に多いとは言えないものでありました。盲検法(ブラインディング)は、患者と治療者にはされておらず評価者のみでしたので、一重盲検にチェックを入れました。また、割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている」については、両群とも脱落者についての記載がなかったためチェックを入れませんでした。また、「脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している」という項目についても、記載がなかったためチェックを入れませんでした。

ステップ4. の解説: 臨床適用の可能性

7つの項目全て確認したところ問題なくチェックが入りました。介入方針においては、PICOと合致できる文献を参考にして、評価時期や評価項目などを参考にして介入方針を決定しました。特に介入に際しては、文献中に肩甲胸郭関節の運動を追加する目的に適合する事項がなく、セラピストサイドにて肩甲胸郭関節の可動性が制限されているかどうかを他動的に肩甲骨を動かし、左右差の可動性を比較することで確認しました。その結果をもとに、肩甲上腕関節の運動に加え肩甲胸郭関節の運動を施行しました。また、理学療法士による肩甲上腕関節の他動・自動運動が施行される際、肩関節痛が増悪しないような強度で施行し、運動メニューにおいても可動域制限を有している患者に施行するため、現在の可動域を考慮して施行する運動メニューのやり方を指導しました。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

EBPTの手順のステップ1から4まで実際に行ったプロセスを振り返ってみると、今回は、肩関節周囲炎への理学療法で一般的に行われている肩甲上腕関節の運動に加え、肩甲胸郭関節の運動を組み合わせて併用したらどの程度、肩関節可動域と肩関節痛の改善に効果があるのかを知りたいという目的にてPICOを設定し、ステップ2ではその視点で設定したPICOと合致した文献を検索しました。ステップ3では、大きな問題なく批判的吟味を施行することができました。そのため、ステップ4・5では検索文献で示された介入方法にほぼ則して具体的介入の成果を確かめることができました。肩関節周囲炎への理学療法において、肩甲上腕関節の動きだけではなく、肩甲骨の動きも含めた複合関節としての治療が重要であると実感できました。

第3回 「肩関節周囲炎における関節可動域制限に対するプログラム」 解説 目次

2012年03月23日掲載

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