EBPTワークシート
第5回「乳がん術後の肩関節可動域制限に対するアプローチ」 解説

信州大学医学部附属病院 リハビリテーション部
川崎桂子

ステップ1. の解説: PICO の定式化

Patient (患者)は、乳がんに対して手術を施行された患者で、肩関節可動域制限に対するアプローチをテーマに記載しました。乳がん術後の運動療法において、肩甲骨の位置や肩甲胸郭関節の運動を行うことは、肩関節可動域の改善に効果があるのかを知りたいという目的にて、Intervention(介入)とComparison(比較)を設定しました。Outcome (効果)は、臨床的に評価が可能である肩関節可動域(屈曲、外転、外旋、内旋、水平伸展の5方向)を主な項目として設定しました。

ステップ2. の解説: 検索文献

PubMedでの検索は、キーワードを「Breast canser・Physical therapy・Shoulder」、Limits:「randomized controlled trial・published in thelast 10 years」で検索した結果、24件ヒット。その中から、本症例のPICOと合致できる文献(下記参照)で介入などの面で参考にできると判断して採用しました。特に、乳がん術後の運動プログラムで、肩甲骨位置に注目した運動内容が記載されており、臨床に即した内容であり、PICOと合致できる文献でありました。肩甲骨位置に注目した運動に関する具体的なメニューについては、肩甲骨周囲筋のストレッチ、輪ゴムを用いた肩甲骨周囲筋運動およびボールを用いた肩甲胸郭関節の運動などの記載がありました。

ステップ3. の解説: 検索文献の批判的吟味

今回の文献では、対象者の除外基準を予め定めた上で募集し、ランダムに3群に振り分けられていること、各群のベースラインが近いことが研究デザインとして良い点と感じました。しかし、患者数については十分に多いとは言えないものでありチェックを入れませんでした。盲検化は、患者にはされておらず評価者のみでしたので、一重盲検にチェックを入れました。また、「割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている」については、両群とも脱落者がおり、どちらも運動終了後には85%未満の対象となっていたため、チェックを入れませんでした。また、「脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している」という項目については、介入後に脱落者を除いた統計学的解析を行っているため、チェックを入れませんでした。

ステップ4. の解説: 臨床適用の可能性

6つの項目は確認したところ問題なくチェックが入りました。介入方針においては、PICOと合致できる文献を参考にして、評価時期や評価項目などを参考にして介入方針を決定しました。「臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない」の項目においては、肩筋力測定にBiodexを用いて評価を行うにあたり、身体機能について肩関節痛の有無や肩関節可動域制限の有無や骨転移の有無、測定条件について設定角度など適応条件についての記載がなく、当院でBiodexを用いて肩筋力測定に適用してよいかどうか不明であったためチェックを入れませんでした。
介入に際しては、文献中に肩甲骨の位置に関する比較がされていなかったため、セラピストサイドにて肩甲骨の位置について、視診所見、肩甲骨下角の高さと肩甲骨下角と脊椎の距離で確認しました。肩甲骨位置に注目した運動を実施の際には、理学療法士が実施内容を確認し、術創部に疼痛が生じない範囲内で行うよう指導し、監視下にて実施しました。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

第5回「乳がん術後の肩関節可動域制限に対するアプローチ」 解説 目次

2012年07月17日掲載

PAGETOP