EBPTワークシート
第7回「造血幹細胞移植後の四肢筋力低下に対するアプローチ」 解説

信州大学医学部附属病院リハビリテーション部
三澤加代子

ステップ1. の解説: PICO の定式化

Patient(患者)は、急性骨髄性白血病に対して臍帯血移植を施行された患者で、四肢筋力低下に対するアプローチをテーマに記載しました。造血幹細胞移植後において有酸素運動に四肢筋力強化練習を加えた運動プログラムを自宅退院後に実施することで、四肢筋力低下の改善やADL障害の改善にどの程度効果があるのかを知りたいという目的にて、Intervention(介入)とComparison(比較)を設定しました。Outcome(効果)は臨床的に評価が可能で患者自身が変化を感じることができ、日常生活での動作に即した、握力、30秒椅子立ち上がりテスト、ベッドからの起き上がり時間、段差昇降時間を評価項目として用い、これらの評価は文献的に上下肢筋力と相関が高いと言われている項目でもあり、四肢筋力の指標として設定しました。

ステップ2. の解説: 検索文献

PubMedでの検索は、キーワードを「bone and marrow transplantation、exercise」 Limits:randomized controlled trial、published in the last 10 yearsで検索した結果、11件ヒット。その中から、本症例のPICOと合致できる文献で介入などの面で参考にできると判断して採用しました。
特に、造血幹細胞移植後の運動プログラムで、特別な機器を必要とせず、セラバンドを用いており、臨床実践が容易な内容でした。筋力強化練習に関する具体的メニューについて、セラバンドを用いた運動は、肩関節水平屈曲、肩関節水平伸展、肘関節屈曲、肘関節伸展、肩甲骨の挙上、肩関節屈曲、肩関節外転、膝関節屈曲、および膝関節伸展運動で、自重を用いた運動としては、壁に向かっての腕立て伏せ、スクワット、ベッドでの起立-着座運動の記載がありました。

ステップ3. の解説: 検索文献の批判的吟味

今回の文献では、対象者の除外基準を予め定めた上で募集し、ランダムに2群に振り分けられていること、各群のベースラインが近いことが研究デザインとして良い点と感じました。しかし、患者数については十分に多いとは言えないものでありました。
また、「割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている」については、最終的な対象者数が割り付け時の89.5%であったため、チェックを入れました。また、「脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している」という項目については、介入後に脱落者を除いた統計学的解析を行っているためチェックを入れませんでした。

ステップ4. の解説: 臨床適用の可能性

7つの項目については確認したところ、問題なくチェックがはいりました。介入方針においては、PICOと合致できる文献を参考にして、評価時期や評価項目などを参考にして介入方針を決定しました。
「臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない」の項目においては、文献中に、筋力強化練習時の肢位の指定や転倒への配慮についての記載はありませんでしたが対象症例の状態を悪化させる内容は含まれていなかったため、チェックをいれました。
安全性を考慮して、座位で出来る運動を中心に選択しました。立位での運動に関してはセラピスト監視下で実施する時のみ行なってもらい、週2回の自主トレーニングでは、座位での筋力強化練習のみ実施してもらいました。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

造血幹細胞移植後の理学療法において、自宅退院時に筋力低下を認めた症例や退院後に転倒したりADL障害を認めた症例を経験したことから、有酸素運動に四肢筋力強化練習を加えた運動プログラムを自宅退院後に実施することで、四肢筋力低下の改善や起居・移動動作能力の改善にどの程度効果があるのかを知りたいという目的にてPICOを設定しました。ステップ3では大きな問題なく批判的吟味を行うことができました。そのため、ステップ4・5では検索文献で示された介入方法にほぼ則して、具体的介入の成果を確かめることができました。造血幹細胞移植後の理学療法において、有酸素運動に加えセラバンドを用いた筋力強化練習を継続することで四肢筋力の改善だけでなく、起居・移動動作能力の改善にもつながることが実感できました。

第7回「造血幹細胞移植後の四肢筋力低下に対するアプローチ」 解説 目次

2012年09月25日掲載

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