EBPTワークシート
EBPTワークシート 第12回「介護予防事業における下肢筋力の向上」解説

訪問リハビリステーションあすみ
関 裕也

ステップ1.の解説: PICOの定式化

 Patient(患者)は、下肢筋力と歩行速度に低下を認める地域在住の高齢者としました。介護予防事業の参加者を対象にしたので、身体に障害を来すような疾患を有さず、ご自宅で生活を営んでいる高齢者を想定しています。そして、介護予防事業の場で強い強度の運動負荷をかけることは、過負荷や運動の拒否につながると考え、Intervention(介入)を低負荷の筋力トレーニングとしました。Comparison(比較)には、高負荷の筋力トレーニングとしました。Outcome(効果)としては、低負荷でも高負荷に近い下肢筋力の向上が得られるかと考えて設定しました。
 


ステップ2.の解説: 検索文献

 PubMedのLimits機能を用い、キーワードを「older people, resistance training, muscle strength, mobility」とし、Randamized controlled trail, Free full text, 5yearsの3つの制限をかけて検索したところ、12件がヒットしました。その中から、本ケースのPICOと合致した文献を採用しました。Free full textのチェックは、無料で手に入る文献のみを表示したい場合、とても有用です。
 

ステップ3.の解説: 検索文献の批判的吟味

 対象者の選定基準と除外基準は、明確な記載がありました。選定された対象者は、低負荷群と高負荷群にランダムに振り分けられていました。各群のベースラインには差がありませんでした。盲検化〔→盲検法(ブラインディング)〕は一重盲検で行われていました。途中脱落者はおらず参加者全員が効果判定の対象となっていました。対象者数〔→サンプルサイズ〕は、検索文献の研究の限界として「small sample sizes」との記述がありました。そのため、「患者数は十分に多い」の項目にはチェックをつけませんでした。また、「脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している」〔→治療企図解析(ITT解析)〕にはチェックをつけませんでしたが、途中脱落者がいなかったことから参加者すべてが解析に含まれていました。
 


ステップ4.の解説: 臨床適用の可能性

 7つの項目のうち「自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる」について、当施設には1RMを正確に測定する機器がないため、チェックをつけませんでした。今回の検討では、反復回数から40〜70%1RMを推測しました。高齢者の場合、無負荷でも70%1RMに相当することがあるため、自重を負荷とすることもありました。評価は検索文献でも用いていたSPPBを用いました。SPPBは特別な機器を必要としないので、臨床でも適用しやすい評価だと思います。自治体の介護予防事業は、3ヶ月を1クールとして週1回の頻度で行われるため、検索文献のような頻度(週2回を16週間)で実施することができませんでした。
 


ステップ5.の解説: 適用結果の分析

 検索文献の条件に当てはまる参加者5名で検討を行うことができました。5名中4名で良い結果(SPPB10点以上)が得られ、介入の効果を実感できました。しかし、1名で十分な効果を得られませんでした。しかし、そのようなケースの分析を行い、新たな疑問を見つけ、それに対してEBPTの手順を実践していくことができれば、理学療法の質を発展させていくことができると考えます。今回のケースを例にすれば、「高齢者の自己効力感と運動機能の向上」という疑問が発見できたので、新たにEBPTの手順を実践していきたいと考えています。
 

2016年06月15日掲載

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