EBPTワークシート
第13回「むち打ち関連障害における早期運動療法の効果」

医療法人社団おると会 浜脇整形外科リハビリセンター
葉 清規
独立行政法人国立病院機構 関門医療センター
楫野 允也

基本情報

年齢 70歳代
性別 女性
診断名 頸椎捻挫
現病歴 自家用車の、後部座席に乗車中、信号停車から発進直後に後方から追突され受傷
既往歴 腱板断裂修復術の既往あり(本疾患受傷時に症状はなし)

理学療法評価概略

※受傷4日目の評価
疼痛 (安静時)後頭部、左右後頸部、左右肩甲骨周囲  VAS 48mm(全部位)
(運動時)頸部伸展時 疼痛増悪
頸部可動域(°) 屈曲55 伸展55 右側屈33 左側屈30 右回旋57 左回旋60
Neck Disability Index(NDI) 15.6%
※10項目を0~5 点で評点し、合計点/50×100=障害程度(%)で評価した値を算出した。値が高いほど頸部痛による日常生活における機能障害が重度であることを示す。
SF8 Health Survey(SF-8) 身体的サマリースコア(Physical component summary:PCS)47.7点
精神的サマリースコア(Mental component summary:MCS)58.5点
※国民標準値は50点。SF-8の使用については(株)iHope Internationalより使用承諾を得ている

ステップ1. PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient (患者) むち打ち関連障害を有する患者に対し
Intervention (介入) 早期の運動療法開始は
Comparison (比較) 受傷後安静期間を設けることと比較して
Outcome(効果) 痛みや機能改善が得られるか?

ステップ2. 検索文献

(☑ 一次情報 ・ □ 二次情報
検索式 PubMedにてkeywordを「whiplash-associated disorders、 early intervention、 exercise」で検索すると3件ヒットした。そのうち本症例に対するPICOに適合する下記論文を選択した。
論文タイトル Early Intervention in Whiplash-Associated Disorders: A Comparison of Two Treatment Protocols
著者 Mark Rosenfeld、 Ronny Gunnarsson、 Peter Borenstein
雑誌名 Spine. 2000; 25: 1782-1786.
目的 急性むち打ち症患者に対する、活動的治療と標準的治療との効果の比較と、治療開始を早期もしくは遅延した場合の比較を調査すること。
研究デザイン ランダム化比較試験(RCT)
対象  南西部スウェーデンのエルフスボリ郡の南半分の地に在住する者で、かかりつけ医、救急病院、民間診療所を受診した患者を調査対象とした。包含基準は、自動車衝突事故に起因する急性頸椎捻挫とした。
 除外基準は頸椎骨折、頸椎脱臼、頭部外傷、慢性頸部障害の既往、アルコール依存、認知症、重篤な精神疾患、調査期間内の死亡が予測されるものとした。
 上記を満たし、研究の同意を得た患者を、外傷後96時間以内に4群(①外傷後96時間以内に活動的治療を開始する:早期活動群、②96時間以内に標準的治療を開始する:早期標準群、③外傷後14日経過後に活動的治療を開始する:遅延活動群、④14日以降に標準的治療を開始する:遅延標準群)にランダム化し、6ヶ月後に経過観察できた解析対象は88名(①21名、②23名、③22名、④22名)であった。
介入 ○活動的治療
 マッケンジー法を取り入れたエクササイズと姿勢矯正を施行した。
 頸部を最初は小さい可動範囲での自動運動で、1方向の運動から、その後に他方向の運動を行っていく。1時間に10回の反復運動とし、可動範囲は快適な最大範囲まで行う。症状の憎悪がある場合は、運動頻度、強度等を調整した。受傷20日以後疼痛が持続する場合は、マッケンジー法により評価し、頸部リトラクション、伸展、屈曲、回旋、側屈運動、またそれらを組み合わせた運動を行う。

○標準的治療
 パンフレットによる説明(病態、活動範囲、姿勢矯正)。
 最初の数週間は頸部の安静 およびソフトカラーの使用を推奨し、数週間後に1日2-3回程度の肩の拳上や肩甲骨のリトラクション、頭部の屈曲、回旋の自動運動を行う。
主要評価項目 測定時期:受診時(ランダム化前)、受傷6ヶ月後
評価項目:
○頸部関節可動域(ROM):屈曲+伸展、側屈、回旋
○疼痛(VAS):頭痛、頸部痛、肩痛
統計解析
〇初回評価時の群間比較:Kruskal-Wallis検定およびχ2検定
〇6ヶ月後の治療方法及び開始時期での改善値比較:二元配置分散分析
結果 ○初回評価の群間比較
年齢、性別、VAS、ROM、追跡期間に有意な差はみられなかった。

○6ヶ月後の治療方法における改善値の比較
活動群は標準群に対して、VASの値が有意に減少していた(P<0.001)。

○6ヶ月後の治療開始時期における改善値の比較
早期群と遅延群では結果に影響はなかった。
活動群においては早期群に有意な改善がみられ、標準群においては遅延群に有意な改善がみられた(痛みの減少:P=0.04、頸部屈曲ROM:=0.01)。
結論 自動車衝突事故に起因するむち打ち症患者に対して、早期にマッケンジー法を取り入れた活動的な治療(高頻度最大下自動運動)を行うことは、安静やソフトカラーの使用、段階的にホームエクササイズを開始するよりも、疼痛の軽減に効果的である。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である ( ☑ ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
□ 盲検化〔→盲検法(ブラインディング)〕されている (□ 一重盲検 ・ □ 二重盲検)
□ 患者数は十分に多い〔→サンプルサイズ
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している〔→治療企図解析(ITT解析)
☑ 統計的仮説検定は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他
具体的な介入方針
 介入は受傷後96時間以内に医師の処方のもと、早期理学療法を開始した。医師の指示による通院時の肩甲帯ストレッチ、電気治療と併用して運動療法(ホームエクササイズを含む)を実施した。運動療法はマッケンジー法での評価より、頸部リトラクション(上位頸椎屈曲、下位頸椎伸展)の反復運動を開始した。ホームエクササイズは頸部リトラクションの反復運動を、運動範囲は最大可動範囲、2時間おきの運動頻度で実施するよう指導した。また、姿勢矯正についても自己で行うよう指導した。通院頻度は週2回とし、評価および運動指導を主として実施した。
 
注意事項
 ホームエクササイズや日常生活における疼痛増悪時の対処、日常生活における注意点等も
指導し、安全に実施できるよう配慮した。
 

ステップ5. 適用結果の分析

 通院頻度はほぼ予定通りであったが、ホームエクササイズの運動頻度は2時間おきの実施を指導していたことに対して、本人より実際は1日5セット程度の実施ということであった。介入における評価結果を以下に示す。
 疼痛については1ヵ月後より改善が得られた。可動域については初回みられた伸展時痛は軽減したが、ROMに著変はみられなかった。NDIについては、1週間後にサブスケールである「身の回りのこと」、「レクリエーション」の点数増大(症状悪化)による影響で、総合スコアも増大した。以上のことから、今回選択した運動療法は受傷3ヵ月後では疼痛の軽減には効果的であるものの、頸部痛による日常生活制限の明らかな改善までは得られなかった。この原因については運動頻度が文献よりも低いことや運動強度の調整が不十分であったこと、治療期間が十分でないことが影響した可能性を考える。また、SF-8の獲得点数が低下傾向にあることから、事故後の経過で日常生活活動に心理的要因が影響を与えた可能性を考えた。
 

第13回「むち打ち関連障害における早期運動療法の効果」目次

2016年07月15日掲載

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