年齢 | 70歳代 |
性別 | 女性 |
診断名 | 頸椎捻挫 |
現病歴 | 自家用車の、後部座席に乗車中、信号停車から発進直後に後方から追突され受傷 |
既往歴 | 腱板断裂修復術の既往あり(本疾患受傷時に症状はなし) |
疼痛 | (安静時)後頭部、左右後頸部、左右肩甲骨周囲 VAS 48mm(全部位) (運動時)頸部伸展時 疼痛増悪 |
頸部可動域(°) | 屈曲55 伸展55 右側屈33 左側屈30 右回旋57 左回旋60 |
Neck Disability Index(NDI) | 15.6% ※10項目を0~5 点で評点し、合計点/50×100=障害程度(%)で評価した値を算出した。値が高いほど頸部痛による日常生活における機能障害が重度であることを示す。 |
SF8 Health Survey(SF-8) | 身体的サマリースコア(Physical component summary:PCS)47.7点 精神的サマリースコア(Mental component summary:MCS)58.5点 ※国民標準値は50点。SF-8の使用については(株)iHope Internationalより使用承諾を得ている |
Patient (患者) | むち打ち関連障害を有する患者に対し |
Intervention (介入) | 早期の運動療法開始は |
Comparison (比較) | 受傷後安静期間を設けることと比較して |
Outcome(効果) | 痛みや機能改善が得られるか? |
検索式 | PubMedにてkeywordを「whiplash-associated disorders、 early intervention、 exercise」で検索すると3件ヒットした。そのうち本症例に対するPICOに適合する下記論文を選択した。 |
論文タイトル | Early Intervention in Whiplash-Associated Disorders: A Comparison of Two Treatment Protocols |
著者 | Mark Rosenfeld、 Ronny Gunnarsson、 Peter Borenstein |
雑誌名 | Spine. 2000; 25: 1782-1786. |
目的 | 急性むち打ち症患者に対する、活動的治療と標準的治療との効果の比較と、治療開始を早期もしくは遅延した場合の比較を調査すること。 |
研究デザイン | ランダム化比較試験(RCT) |
対象 | 南西部スウェーデンのエルフスボリ郡の南半分の地に在住する者で、かかりつけ医、救急病院、民間診療所を受診した患者を調査対象とした。包含基準は、自動車衝突事故に起因する急性頸椎捻挫とした。 除外基準は頸椎骨折、頸椎脱臼、頭部外傷、慢性頸部障害の既往、アルコール依存、認知症、重篤な精神疾患、調査期間内の死亡が予測されるものとした。 上記を満たし、研究の同意を得た患者を、外傷後96時間以内に4群(①外傷後96時間以内に活動的治療を開始する:早期活動群、②96時間以内に標準的治療を開始する:早期標準群、③外傷後14日経過後に活動的治療を開始する:遅延活動群、④14日以降に標準的治療を開始する:遅延標準群)にランダム化し、6ヶ月後に経過観察できた解析対象は88名(①21名、②23名、③22名、④22名)であった。 |
介入 | ○活動的治療 マッケンジー法を取り入れたエクササイズと姿勢矯正を施行した。 頸部を最初は小さい可動範囲での自動運動で、1方向の運動から、その後に他方向の運動を行っていく。1時間に10回の反復運動とし、可動範囲は快適な最大範囲まで行う。症状の憎悪がある場合は、運動頻度、強度等を調整した。受傷20日以後疼痛が持続する場合は、マッケンジー法により評価し、頸部リトラクション、伸展、屈曲、回旋、側屈運動、またそれらを組み合わせた運動を行う。 ○標準的治療 パンフレットによる説明(病態、活動範囲、姿勢矯正)。 最初の数週間は頸部の安静 およびソフトカラーの使用を推奨し、数週間後に1日2-3回程度の肩の拳上や肩甲骨のリトラクション、頭部の屈曲、回旋の自動運動を行う。 |
主要評価項目 | 測定時期:受診時(ランダム化前)、受傷6ヶ月後 評価項目: ○頸部関節可動域(ROM):屈曲+伸展、側屈、回旋 ○疼痛(VAS):頭痛、頸部痛、肩痛 統計解析: 〇初回評価時の群間比較:Kruskal-Wallis検定およびχ2検定 〇6ヶ月後の治療方法及び開始時期での改善値比較:二元配置分散分析 |
結果 | ○初回評価の群間比較 年齢、性別、VAS、ROM、追跡期間に有意な差はみられなかった。 ○6ヶ月後の治療方法における改善値の比較 活動群は標準群に対して、VASの値が有意に減少していた(P<0.001)。 ○6ヶ月後の治療開始時期における改善値の比較 早期群と遅延群では結果に影響はなかった。 活動群においては早期群に有意な改善がみられ、標準群においては遅延群に有意な改善がみられた(痛みの減少:P=0.04、頸部屈曲ROM:=0.01)。 |
結論 | 自動車衝突事故に起因するむち打ち症患者に対して、早期にマッケンジー法を取り入れた活動的な治療(高頻度最大下自動運動)を行うことは、安静やソフトカラーの使用、段階的にホームエクササイズを開始するよりも、疼痛の軽減に効果的である。 |
2016年07月15日掲載