年齢 | 28歳 |
性別 | 男性 |
診断名 | 腰椎椎間板ヘルニア(左L5/S1 Subligamentous extrusion type) |
手術名 | 内視鏡下ヘルニア摘出術(microendoscopic discectomy;MED) |
現病歴 | 4ヶ月前より左下肢症状出現し、徐々に症状悪化し、当院受診。 手術目的にて入院の運びとなる。 |
既往歴 | なし |
職業 | 元工場作業員(立ち仕事) |
スポーツ歴 | なし |
術前X線評価 | 腰椎前弯角40.6° 仙骨傾斜角34.3° |
疼痛 | VAS 腰痛71mm(立位・歩行時) 左腰背部 下肢痛47mm(前屈時・座位時) 左下肢後面・外側 しびれ62mm(常時) 左下肢後面・外側 |
神経学的評価 | 反射 左アキレス腱反射減弱 感覚 S1領域軽度鈍麻 SLR 右45°/左30°p(下肢後面痛) |
股関節柔軟性評価 | 股関節屈曲 右100°/左95° 膝窩角 右130°/左120° 殿部踵距離 右0cm /左0cm |
腰椎可動性評価 | MMST(Modified –Modified Schober test) 屈曲18.5cm/伸展13.0cm |
MMT | 股関節屈曲5/5 膝関節伸展5/5 足関節背屈5/5 足関節底屈5/4 母趾伸筋5/5 足趾伸筋5/5 母趾屈筋5/5 母趾伸筋5/5 |
姿勢 | 胸椎後弯・腰椎平背・骨盤後傾位(Flat back posture) |
歩行 | 左逃避性跛行 |
ODI(Oswestry Low Back Pain Disability Questionnaire) | 68.2% |
SF-36(MOS 36-Item Short-Form Health Survey) | PF45.0 RP12.5 BP30.0 GH35.0 VT50.0 SF37.5 RE33.3 MH55.0 ※SF-36は許可を得て使用した。 |
疼痛 | VAS 腰痛34mm(立位・歩行時) 左腰背部 下肢痛36mm(前屈時・座位時) 左下肢後面 しびれ34mm(常時) 左下肢後面 |
神経学的評価 | 反射 正常 感覚 L5領域軽度鈍麻 SLR 右60°/左30°p(下肢後面痛) |
Patient (患者) | 腰椎椎間板ヘルニア手術後の症例 |
Intervention (介入) | 術後早期から積極的に運動療法を開始すると |
Comparison (比較) | 介入しない症例と比較して |
Outcome (効果) | 疼痛やQOLの改善が得られるか |
検索式 | Pubmedにてキーワード「rehabilitation after lumbar disc surgery」limits;「randomized controlled trial:published in the last 5 years」で検索した結果、22件ヒット。その中から本症例のPICOに近く、介入の参考となる文献と判断した下記の論文を選択した。 |
論文タイトル | Effectiveness of physical therapy and rehabilitation programs starting immediately after lumbar disc surgery. |
著者 | Ozkara GO, Ozgen M, Ozkara E,et al |
雑誌名 | Turk Neurosurg.2015;25(3):372-379 |
目的 | 腰椎椎間板ヘルニア術後早期のリハビリテーションの効果 |
研究デザイン | ランダム化比較試験(RCT) |
対象 | 適応基準 ・18~60歳 ・MRIにて腰椎椎間板ヘルニアの診断を受け、初回の鏡視下ヘルニア摘出術を受けた30例 除外基準 ・脱出型椎間板ヘルニアを有する例 ・脊椎疾患既往や脊椎手術歴がある例 ・すべり症や狭窄症など、他の腰椎変性疾患の共存している例 ・心疾患、呼吸器疾患、高血圧、糖尿病、認知症、パーキンソン病を有する例 ・術後感染例 割り付け ・治療介入群15例と非介入群15例を封筒法にてランダムに割り付けた。 |
介入 | 介入群 術後1日目に運動療法を開始。 術後1日目からは自主トレを中心としたpelvic tiltや腹筋運動、等尺性大腿四頭筋筋力増強運動、等尺性下肢伸筋筋力増強運動を行った。 術後1週後からは背筋のストレッチ、SLRテスト、ハムストリングストレッチ、股関節周囲筋のストレッチ、大腿四頭筋等張性筋力増強運動を追加した。 術後6週後からは他動、自動腰椎伸展運動、背筋強化、等張性股関節伸筋筋力増強運動を追加した。 各運動を1日2セットで毎日行い、12週間実施した。 非介入群 術後状態にあわせて座位、立位、歩行練習のみ実施した。 |
主要評価項目 | ODI、VAS、Beck Depression Inventory scale、SF-36を術前、術後12週時に評価した。 |
結果 | VAS、ODI、SF-36(PF、BP、SF)で介入群は有意な改善がみられた。 |
結論 | 腰椎椎間板ヘルニア術後早期の運動療法により、非実施群に比較して早期の疼痛改善、QOL改善が期待できる。 |
具体的な介入方針 | 対象は、腰椎椎間板ヘルニアにより当院にて初回ヘルニア摘出術を予定している患者で、術後早期から運動療法が可能な症例とした。採用論文に基づき、除外基準を満たした症例を条件とした。 |
方法 | 術後1日目より、理学療法介入を開始した。腹部引き込み運動による腹横筋強化、歩行練習を実施した。 術後5日目からは股関節を中心とした下肢のストレッチ、腰椎持続伸展運動、Curl Upによる腹筋運動、下肢筋力強化を術後10日の自宅退院まで理学療法士監視下およびセルフエクササイズにて実施した。また、椎間板へのメカニカルストレスがかからないように、過度な腰椎前屈・回旋の禁止、生理的前弯位保持、座位時間の制限(長くても30分~1時間で姿勢を変える)をADLで行うように指導し、退院後も継続するように指導した。 術後1ヶ月後からは段階的な腰椎伸展運動、背筋強化、脊柱安定化運動を追加した。 各運動1日最低2セットを毎日行い、退院後もセルフトレーニングとして12週間実施した。 評価項目は、VAS(腰痛・下肢痛・しびれ)、ODI、SF-36とし、術前、術後1ヶ月、術後3ヶ月時に評価を行った。 |
注意事項 | 症状の増悪がない強度で運動療法を実施し、入院中および定期検診時(術後1ヶ月時。術後3ヶ月時)に理学療法士の監視下にて運動内容を確認した。 |
術前 | 術後1ヶ月 | 術後3ヶ月 | |
VAS(mm)腰痛 | 71 | 10 | 0 |
VAS(mm)下肢痛 | 47 | 0 | 0 |
VAS(mm)しびれ | 62 | 0 | 0 |
ODI(%) | 68.2 | 9.8 | 1.0 |
SF-36(点) PF | 45.0 | 85.0 | 100 |
SF-36(点) RP | 12.5 | 81.3 | 93.8 |
SF-36(点) BP | 30.0 | 77.0 | 100 |
SF-36(点) GH | 35.0 | 77.0 | 97.0 |
SF-36(点) VT | 50.0 | 75.0 | 87.5 |
SF-36(点) SF | 37.5 | 75.0 | 87.5 |
SF-36(点) RE | 33.3 | 83.3 | 100 |
SF-36(点) MH | 55.0 | 85.0 | 95.0 |
2016年08月15日掲載