EBPTワークシート
第14回「腰椎椎間板ヘルニア摘出術後早期からの積極的理学療法の効果」

医療法人社団 我汝会えにわ病院 リハビリテーション科 宮城島 一史
小玉 裕治

基本情報

年齢 28歳
性別 男性
診断名 腰椎椎間板ヘルニア(左L5/S1 Subligamentous extrusion type)
手術名 内視鏡下ヘルニア摘出術(microendoscopic discectomy;MED)
現病歴 4ヶ月前より左下肢症状出現し、徐々に症状悪化し、当院受診。
手術目的にて入院の運びとなる。
既往歴 なし
職業 元工場作業員(立ち仕事)
スポーツ歴 なし
術前X線評価 腰椎前弯角40.6° 仙骨傾斜角34.3°

理学療法評価概略(術前評価時)

疼痛 VAS 腰痛71mm(立位・歩行時) 左腰背部
下肢痛47mm(前屈時・座位時) 左下肢後面・外側
しびれ62mm(常時) 左下肢後面・外側
 
神経学的評価 反射 左アキレス腱反射減弱
感覚 S1領域軽度鈍麻
SLR 右45°/左30°p(下肢後面痛)
股関節柔軟性評価 股関節屈曲 右100°/左95°
膝窩角 右130°/左120°
殿部踵距離 右0cm /左0cm
腰椎可動性評価 MMST(Modified –Modified Schober test) 屈曲18.5cm/伸展13.0cm
MMT 股関節屈曲5/5 膝関節伸展5/5 足関節背屈5/5 足関節底屈5/4
母趾伸筋5/5 足趾伸筋5/5 母趾屈筋5/5 母趾伸筋5/5
姿勢 胸椎後弯・腰椎平背・骨盤後傾位(Flat back posture)
歩行 左逃避性跛行
ODI(Oswestry Low Back Pain Disability Questionnaire) 68.2%
SF-36(MOS 36-Item Short-Form Health Survey) PF45.0  RP12.5  BP30.0  GH35.0  VT50.0  SF37.5  RE33.3  MH55.0
※SF-36は許可を得て使用した。
 

理学療法評価概略(術後評価時)

疼痛 VAS 腰痛34mm(立位・歩行時) 左腰背部
下肢痛36mm(前屈時・座位時) 左下肢後面
しびれ34mm(常時) 左下肢後面
神経学的評価 反射 正常
感覚 L5領域軽度鈍麻
SLR 右60°/左30°p(下肢後面痛)

ステップ1. PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient (患者) 腰椎椎間板ヘルニア手術後の症例
Intervention (介入) 術後早期から積極的に運動療法を開始すると
Comparison (比較) 介入しない症例と比較して
Outcome (効果) 疼痛やQOLの改善が得られるか

ステップ2. 検索文献

(☑一次情報 ・ □ 二次情報
検索式 Pubmedにてキーワード「rehabilitation after lumbar disc surgery」limits;「randomized controlled trial:published in the last 5 years」で検索した結果、22件ヒット。その中から本症例のPICOに近く、介入の参考となる文献と判断した下記の論文を選択した。
論文タイトル Effectiveness of physical therapy and rehabilitation programs starting immediately after lumbar disc surgery.
著者 Ozkara GO, Ozgen M, Ozkara E,et al
雑誌名 Turk Neurosurg.2015;25(3):372-379
目的 腰椎椎間板ヘルニア術後早期のリハビリテーションの効果
研究デザイン ランダム化比較試験(RCT)
対象 適応基準
・18~60歳
・MRIにて腰椎椎間板ヘルニアの診断を受け、初回の鏡視下ヘルニア摘出術を受けた30例

除外基準
・脱出型椎間板ヘルニアを有する例
・脊椎疾患既往や脊椎手術歴がある例
・すべり症や狭窄症など、他の腰椎変性疾患の共存している例
・心疾患、呼吸器疾患、高血圧、糖尿病、認知症、パーキンソン病を有する例
・術後感染例

割り付け
・治療介入群15例と非介入群15例を封筒法にてランダムに割り付けた。
介入 介入群
術後1日目に運動療法を開始。
術後1日目からは自主トレを中心としたpelvic tiltや腹筋運動、等尺性大腿四頭筋筋力増強運動、等尺性下肢伸筋筋力増強運動を行った。
術後1週後からは背筋のストレッチ、SLRテスト、ハムストリングストレッチ、股関節周囲筋のストレッチ、大腿四頭筋等張性筋力増強運動を追加した。
術後6週後からは他動、自動腰椎伸展運動、背筋強化、等張性股関節伸筋筋力増強運動を追加した。
各運動を1日2セットで毎日行い、12週間実施した。

非介入群
術後状態にあわせて座位、立位、歩行練習のみ実施した。
主要評価項目 ODI、VAS、Beck Depression Inventory scale、SF-36を術前、術後12週時に評価した。
結果 VAS、ODI、SF-36(PF、BP、SF)で介入群は有意な改善がみられた。
結論 腰椎椎間板ヘルニア術後早期の運動療法により、非実施群に比較して早期の疼痛改善、QOL改善が期待できる。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である ( ☑ ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
☑ 盲検化〔→盲検法(ブラインディング)〕されている ( ☑ 一重盲検 ・ □ 二重盲検)
□ 患者数は十分に多い
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
☑ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している〔→治療企図解析(ITT解析)
☑ 統計的仮説検定は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他
具体的な介入方針 対象は、腰椎椎間板ヘルニアにより当院にて初回ヘルニア摘出術を予定している患者で、術後早期から運動療法が可能な症例とした。採用論文に基づき、除外基準を満たした症例を条件とした。
方法  術後1日目より、理学療法介入を開始した。腹部引き込み運動による腹横筋強化、歩行練習を実施した。
 術後5日目からは股関節を中心とした下肢のストレッチ、腰椎持続伸展運動、Curl Upによる腹筋運動、下肢筋力強化を術後10日の自宅退院まで理学療法士監視下およびセルフエクササイズにて実施した。また、椎間板へのメカニカルストレスがかからないように、過度な腰椎前屈・回旋の禁止、生理的前弯位保持、座位時間の制限(長くても30分~1時間で姿勢を変える)をADLで行うように指導し、退院後も継続するように指導した。
 術後1ヶ月後からは段階的な腰椎伸展運動、背筋強化、脊柱安定化運動を追加した。
 各運動1日最低2セットを毎日行い、退院後もセルフトレーニングとして12週間実施した。
 評価項目は、VAS(腰痛・下肢痛・しびれ)、ODI、SF-36とし、術前、術後1ヶ月、術後3ヶ月時に評価を行った。
注意事項 症状の増悪がない強度で運動療法を実施し、入院中および定期検診時(術後1ヶ月時。術後3ヶ月時)に理学療法士の監視下にて運動内容を確認した。

ステップ5. 適用結果の分析

 予定していた計画通りに、評価・治療プログラムを実施できた。自宅退院は計画通り術後10日目であり、実際に介入した期間は10日間であった。
 各時期における評価を下表に示す。経過とともに、VAS、ODI、SF-36の改善がみられた。石田らの報告1)では、術後5日目からの腰椎伸展運動により疼痛、アライメントの改善が得られるとされており、本症例も採用論文よりも早い腰椎持続伸展を実施した。その結果、症状の悪化なく、採用論文と同等の結果が得られた。採用論文の結果にはないが、腰椎伸展可動性が重要との報告2,3)もあり、股関節の柔軟性や体幹・下肢の筋力に加え、腰椎伸展可動性の向上が一要因になると考えられた。腰椎椎間板ヘルニアガイドライン改定第2版4)では、早期からの積極的なリハビリテーションを行う必要性が認められないとされている。しかし、今回の結果から何らかの効果をもたらす可能性を示唆した。今後は疼痛やQOLが改善された要因を検証していく必要がある。
 
  術前 術後1ヶ月 術後3ヶ月
VAS(mm)腰痛 71 10 0
VAS(mm)下肢痛 47 0 0
VAS(mm)しびれ 62 0 0
ODI(%) 68.2 9.8 1.0
SF-36(点) PF 45.0 85.0 100
SF-36(点) RP 12.5 81.3 93.8
SF-36(点) BP 30.0 77.0 100
SF-36(点) GH 35.0 77.0 97.0
SF-36(点) VT 50.0 75.0 87.5
SF-36(点) SF 37.5 75.0 87.5
SF-36(点) RE 33.3 83.3 100
SF-36(点) MH 55.0 85.0 95.0
※1 ODI
腰痛疾患に対する患者立脚型疾患特異的評価法であり、得点が低いほど重症度が減少する。
 
※2 SF-36
36項目から8つの下位尺度(※3)の得点を算出し、0~100点の範囲で得点が高いほど良い健康度を表す。
 
※3 SF-36の8つの下位尺度
(1)PF(Physical functioning)=身体機能
(2)RP(Role physical)=日常役割機能
(3)BP(Bodily pain)=体の痛み
(4)GH(General health)=全体的健康感
(5)VT(Vitality)=活力
(6)SF(Social functioning)=社会生活機能
(7)RE(Role emotional)=日常役割機能
(8)MH(Mental health)=心の健康
 

参考文献

  1. 石田和宏,対馬栄輝,他:腰椎椎間板ヘルニア摘出術後の早期理学療法.PTジャーナ ル.2014;48:780-786.
  2. Mannion AF, Dvorak J, et al:A prospective study of the interrelationship between subjective and objective measures of disability before and 2 months after lumbar decompression surgery for disc herniation. Eur Spine J.2005;14:454-465.
  3. Kjellby-Wendt G, Styf J:Early active training after lumbar discectomy.a Prospective, randomized, and controlled study. Spine. 1998;23:2345-2351.
  4.  日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン改訂第2版.南江堂,東京,2011,pp.89-91.

第14回「腰椎椎間板ヘルニア摘出術後早期からの積極的理学療法の効果」目次

2016年08月15日掲載

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