EBPTワークシート
第19回「脊椎手術後疼痛症候群患者に対するDynamic Lumbar Stabilization Exerciseの介入効果」解説

苑田会苑田第三病院  遠藤敦士

ステップ1.の解説: PICOの定式化

 Patientは、脊椎手術後疼痛症候群(Failed back surgery syndrome:以下FBSS)患者としました。脊椎疾患に対する手術療法はADLや痛みを改善させる効果があります。しかし、手術により画像所見上の問題が解決されているにもかかわらず、改善が得られない症例が存在します。このような症例をFBSSといい、生活の質が大きく低下することから社会的な問題となっています。Interventionは、Dynamic Lumbar Stabilization Exerciseとしました。Stabilization exerciseは、腰痛に対して臨床的によく用いられる運動療法であり、その効果が示されている論文も数多くみられます。しかし、脊椎術後患者を対象とした論文は少ないです。Comparisonは、通常の外来理学療法としました。OutcomeはADL、痛み、筋力としました。脊椎疾患の術後のADLや痛みに背筋群の筋力が関連するという報告もあるため、筋力は体幹伸展筋力を測定しました。
 

ステップ2.の解説: 検索文献

 PubMed toolsの「clinical queries」を使用するとランダム化比較試験とシステマティックレビューだけを検索することができます。キーワード「Failed back surgery syndrome, exercise」で検索し、その中から設定したPICOに最も近いランダム化比較試験の論文を選択しました。この論文では、記載した主要評価項目以外にも、柔軟性や精神面の評価も行っています。
 

ステップ3.の解説:検索文献の批判的吟味 

 研究デザインは4群の無作為化比較試験です。ベースラインの属性やアウトカムは分散分析がかけられており、群間に差がないことが示されています。評価者は盲検化されていますが、治療者と対象者は盲検化されていません。患者数(サンプルサイズ)は先行研究のModified ODIのデータを参考に決定しています(効果量などの記載はなし)。10%脱落することを予測して計画しているので患者数は十分多いといえます。4群とも脱落者が存在しますが、85%以上が判定対象となっています。脱落者のデータは代入せず、統計処理に含んでいません。統計解析は、正規性の検定にKolmogorov-Smirnovテストを行っています。次に、介入方法と時間経過の2要因における反復測定の分散分析を行っています。事後検定では、Bonferroniの修正を使用して群間比較を行っています。それぞれの解析方法は妥当と考えます。統計結果からIEとDLSがFBSS患者に対して同等の効果であり、ADLや痛みに対して有効と考察されていることから、結論には論理的整合性があると判断しました。
 

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 対象者の年齢は論文よりも高いですが、脊椎術後に長期間の痛みを有している点において類似していると考えます。禁忌条件、合併症のリスクファクターや倫理的な問題はありませんでした。DLSは特別な機器や技術が必要ない介入方法であり、臨床適用に優れているといえます。実施するにあたり、介入の初期計画に対して医師の同意を得ました。また初期計画と見込める効果を患者に対して説明し、同意を得た上で実施しました。
 

ステップ5.の解説:適用結果の分析

 今回評価したODIとVASは選択した論文と同じアウトカムでしたが、体幹伸展筋力とPILEは検査機器がないため別の測定方法で代替しました。体幹伸展筋力は、選択した論文ではダイナモメーターを使用して3種類の角速度での体幹伸展トルクを測定していました。しかし今回は端座位で第7胸椎の高さの背部に設置したハンドヘルドダイナモメータのセンサーを押すParkら1)の方法で測定しました。
 
 この方法は簡便で臨床的であり、最小可検変化量も算出されているため、治療効果の判定にも優れています。パフォーマンステストはCS30を使用しました。CS30はADLの中でも基本的な動作である立ち上がり・着座によって、下肢の筋力を評価するパフォーマンテストです。
 今回の結果からFBSS患者に対するDLSは、対象者が高齢であっても体幹伸展筋力に有効ということがわかりました。しかしODIやVASの改善は小さく、今回の介入期間と介入頻度では不十分だった可能性がありました。
 脊椎術後の介入研究の対象者は若年齢者が対象であることが多く、地域や病院によっては患者層が異なり、選択した論文の結果と同等な結果が得られない場合もあります。選択した論文と異なる点も踏まえて介入方法とその効果を吟味することがエビデンスに基づいた理学療法の実施においては重要と考えます。
 
 

2019年03月20日掲載

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