EBPTワークシート
第21回「入院中の高齢患者に対する漸増抵抗運動の効果」解説

藤森病院  唐澤 俊一

ステップ1.の解説: PICOの定式化

症例は開腹手術後の患者ですが、術後から24病日が経過しており、廃用症候群の改善が目的であったことから、Patient(患者)の疾患は限定せず、入院中の高齢患者として、限られた期間内で実施される漸増抵抗運動の効果を明らかにするためにIntervention(介入)とComparison(比較)を設定しました。Outcome(効果)は筋力強化と歩行能力の変化を確認するために、等尺性膝伸展筋力とTUGや10m歩行テストなど臨床的に有用な歩行能力の評価指標を設定して検討しました。
 

ステップ2.の解説: 検索文献

PEDroのAdvanced searchにてキーワード「Hospital、functional outcome」、Therapy:strength training、Problem:frailty、Subdiscipline:gerontology、Methods:Clinical trial、Publish since:2013で検索した結果、7件の論文がヒットしました。その中から本症例のPICOに適合した論文を選択しました。また、PEDro scaleは6/10点であり、研究の内的妥当性が良好である点も選択の理由となりました。
 

ステップ3.の解説:検索文献の批判的吟味 

対象の採用基準、除外基準は明確に示されていました。対象者は、封筒法により無作為に治療群と対照群に割り付けられていました。ベースラインの比較により群間に有意差はなく、類似性は確保されていました。盲検化については、評価者のみに対象の情報を伏せる一重盲検が行われていました。サンプルサイズについては、検定力分析が行われており、power = 0.9、p = 0.05と十分であると判断しました。適切なフォローアップの実施については、21%と多くの対象がドロップアウトしていました。研究の限界にも記載されていましたが、開始時に身体機能の低い者が多く含まれていた可能性があり、選択バイアスのリスクがあると考えられました。また、治療企図解析(intention to treat analysis)は実施されておらず、解析の方法によっては、結果に影響が出る可能性があると考えられます。

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

「臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない」、「自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる」の2点について検討が必要でした。まず、1点目について、症例は筋骨格系疾患の既往を有しており、抵抗運動の実施が疼痛増悪に繋がる可能性があります。しかし、論文内で設定された運動強度によって有害事象が発生した症例はいなかったと記載されていること、筋力増強運動や有酸素運動による疼痛軽減効果については、数多くの報告がされており、その有用性は明らかであることから、セラピストの監督下で疼痛増悪に注意して介入することで安全に実施することが可能と判断しました。次に、2点目について、当院では負荷調整可能な段差昇降マシン(Power-step)を保有していないことから、同様のプログラムの実施は困難と思われました。通常の段差や階段を使用した段差昇降運動では負荷調整が困難であることから、運動の種類は異なりますが、レッグプレスマシンを使用した抵抗運動を行うことにしました。
 
 

ステップ5.の解説:適用結果の分析

今回、臨床的に理学療法を行う頻度の高い入院中の高齢患者を対象とした漸増抵抗運動について、論文を参考に介入を行い、その効果を検討しました。入院中という限られた期間であっても下肢筋力強化や歩行能力、日常生活動作能力の向上が認められ、適切な運動強度や頻度の設定に基づく運動処方の重要性を実感することができました。しかし、介入中に発症した偽痛風については、危険因子である変形性膝関節症の既往と、抵抗運動による関節への機械的・物理的ストレスが関連した可能性は否定できないと考えられました。エビデンスに基づく効果的な介入であると同時に、症例の個々の状態に即した運動処方を行うことができるよう、EBPTワークシートを用いた今回の介入の経験を今後に生かしていきたいと思いました。
 

2019年04月10日掲載

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