EBPTワークシート
第29回 「ギランバレー症候群患者に神経筋電気刺激を併用した理学療法」

   埼玉県総合リハビリテーションセンター 小川 秀幸

基本情報

年齢 40代後半
性別 男性
診断名 ギランバレー症候群
現病歴 発熱と水様便の先行感染歴あり、○月△日起床時から脱力を自覚した。脳MRIで異常なく、経過観察目的で入院となる。2病日目には急速に遠位筋優位の四肢麻痺が進行した。明らかな顔面神経麻痺や球麻痺、感覚障害の出現はないが、四肢の末梢神経障害と腱反射の消失を認め、ギランバレー症候群と診断された。3病日目より免疫療法(血液浄化療法、ステロイドパルス療法、大量免疫グロブリン静注療法)が開始された。わずかに筋収縮が可能となったものの日常生活は全介助レベルであり、さらなるリハビリテーション継続目的のため、31病日目に当センター回復期病棟に転院となった。
既往歴 高血圧症、高尿酸血症、脂質異常症

理学療法評価概略

GBS disability score grade 4 (ベッド上あるいは車椅子に限定)
疼痛 四肢の他動運動による筋の伸張痛や筋腹を把持することで圧痛が強く生じる(NRS:10)
感覚 表在・深部共に正常
深部腱反射 膝蓋腱反射・アキレス腱反射共に消失
筋緊張 MAS 0レベル
関節可動域
(右/左)
股関節 屈曲;70P/70P、伸展;0/0、外転;20P/20P、内転;20/20、外旋;20/20、内旋;15P/10P、SLR;10P/15P
膝関節 屈曲;80P/70P、伸展;0/0
足関節 背屈;10P/10P、底屈;40/40
筋力MMT
(右/左)
股関節 屈曲;1/1、伸展;0/0、外転;0/0、内転;1/1、外旋;0/0、内旋;0/0
膝関節 屈曲;0/0、伸展;1/1
足関節 背屈;0/0、底屈;0/0
動作能力 起居動作;全介助、座位保持;全介助、移乗;リフター使用して3人介助
FIM 運動項目;13点、認知項目;34点、合計;47点

ステップ1. PICO の定式化

Patient (患者) ギランバレー症候群患者に対して
Intervention (介入) 神経筋電気刺激療法(neuromuscular electrical stimulation: NMES)を併用した理学療法介入は
Comparison (比較) 介入前後で
Outcome (効果) 筋力強化の効果は得られるか

ステップ2. 検索文献

(☑一次情報 ・ □二次情報
検索式 検索データベース:PubMed
検索用語:(Guillain-Barre Syndrome[MeSH])、(muscle strength))、(Neuromuscular Electrical Stimulation)、3つの用語を用いてAND検索を実施。
 
論文選択基準:
[対象者]ギランバレー症候群患者であること
[研究デザイン]ランダム化比較試験または、システマティックレビュー
[介入]神経筋電気刺激治療を実施していること
 
上記の用語を用いて検索した結果、1件の論文が該当した。
本文を確認し、本患者の介入に適している論文であると判断し選択した。
論文タイトル Neuromuscular electrical stimulation in early rehabilitation of Guillain‐Barré syndrome: A pilot study
著者 Harbo T, Markvardsen LK, Hellfritzsch MB, et al.
書誌情報 MUSCLE & NERVE. 2019; 59: 481-484.
目的 急性期ギランバレー症候群患者における神経筋電気刺激の有用性および安全性を検討すること
研究デザイン ランダム化比較試験(RCT)
割付け:右または左大腿のいずれかでNMESを受ける側をランダム化した。
非刺激側をコントロール群とした。
対象 対象者:17名
包含基準:Medical Research Council(MRC)スケールで股、膝、足関節のいずれかが4以下であり、脱力の発生から2週間以内(急性期)であること
除外基準:活動性の癌、重大な心臓病、妊娠による運動機能障害、18歳未満
介入 20分間の筋繊維刺激療法(muscle fiber stimulation: MFS)を実施し、その後40分間のNMESを実施
頻度:週5回 期間:急性期退院まで(平均37.1日)
[介入詳細]
MFS :対称性二相波形、周波数1Hz、パルス幅250ms、オン/オフ比:3/6
NMES:5分10Hz、15分40Hz、15分60Hz、5分3Hz、パルス幅:0.3 ms、強度:0〜100 mAの最大許容レベル
主要評価項目
・大腿四頭筋の横断面積(Cross-sectional area: CSA)
・膝伸展の最大等尺性筋力
・24時間の尿中クレアチニン排泄量から推定された全身骨格筋量
結果 ・有害事象発生の有無:無し
・GBS disability scoreの中央値は4であった。
・大腿四頭筋CSAの平均変化は、p値が 0.08で有意差は認めなかった。
・膝伸展の最大等尺性筋力の変化は、p値が0.45で有意差は認めなかった。
結論 ・未治療の対照群を設定できていないため、大腿四頭筋の横断面積と膝伸展の最大等尺性筋力は統計的有意差を認めなった。
・GBSの標準的なリハビリテーションを補助する治療法として、神経筋電気刺激は安全に実現可能であった。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である (☑ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
□ 盲検化されている (□一重盲検 ・ □二重盲検)
□ 患者数は十分に多い
□ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
□ 統計的解析方法は妥当である
□ 結果と考察との論理的整合性が認められる
 

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他:  
 
具体的な介入方針  疼痛の軽減や可動域拡大に伴い筋出力の改善も認めた。さらなる筋出力向上を目指しNMES実施を検討した。まずは電気刺激治療の禁忌事項を確認し、ギランバレー症候群患者での治療報告があるかを確認した。採用論文の包含基準と除外基準、安全性について主治医に報告し、NMES実施の指示を得た。また、患者に説明と同意を得てから開始した。
 採用論文は、20分間のMFSを実施し、その後40分間のNMESを実施していた。しかし、処方単位の中で可動域拡大や神経筋促通、筋力強化運動、基本動作練習などの理学療法を実施する必要があり、実現可能である20分間のNMESを週5回実施することとした。
 NMESの設定は、採用論文を参考に調整し運動神経刺激レベルを設定した。
時間:20分、周波数:40Hz、パルス幅:0.3 ms、強度:0〜100 mAの最大許容レベル
実施期間:6週間
注意事項 ・電気治療の禁忌事項を確認すること。
・開始前後に電極を貼付した部位の皮膚に異常がないことを確認する。

ステップ5. 適用結果の分析

GBS disability score grade 4 (ベッド上あるいは車椅子に限定)
疼痛 ADLに支障となる疼痛なし
感覚 表在・深部共に正常
深部腱反射 膝蓋腱反射・アキレス腱反射共に消失
筋緊張 MAS 0レベル
関節可動域
(右/左)
股関節 屈曲;95/90、伸展;0/0、外転;30/30、内転;20/20、外旋;30/30、内旋;20/20、SLR;50/55
膝関節 屈曲;120/120、伸展;0/0
足関節 背屈;5/10、底屈;40/40
筋力MMT
(右/左)
股関節 屈曲;3-/3-、伸展;2/2、外転;2/2、内転;2/2、外旋;1/1、内旋;1/1
膝関節 屈曲;2/2、伸展;3-/2
足関節 背屈;1/1、底屈;2/2
動作能力 起居動作;一部介助、座位保持;自立、移乗;腋窩把持で1人介助
FIM 運動項目;26点、認知項目;35点、合計;61点
膝伸展の最大等尺性筋力(両脚の平均) 計測:ハンドヘルドダイナモメーター(HOGGAN社製、MICRO FET2)を使用した。
介入開始時(147病日)2.50kgf、最終評価時(190病日)7.53kgfと介入後に筋力が改善していた。
介入開始時と最終評価時の左右の膝伸展等尺性収縮力(表1)
表1 左右の膝伸展筋力の変化
  介入開始時 最終評価時
右下肢筋力 (Kgf) 2.82 8.19
左下肢筋力 (Kgf) 2.17 6.86
 

2020年09月01日掲載

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