EBPTワークシート
第4回 「両側上肢の交互運動による脳卒中麻痺側上肢の運動機能改善」

鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院
須江慶太

基本情報

患者氏名
 
年齢
70代後半
性別
女性
診断名
脳梗塞
障害名
右片麻痺、構音障害
合併症
高血圧症
現病歴
歩行障害を生じて救急病院へ救急搬送。発症後23日で当院転院。

理学療法評価概略

12段階片麻痺グレード
上肢7、手指5、下肢9
感覚
軽度の右表在覚鈍麻
麻痺側上肢
肩関節の前方、水平挙上の分離運動は可能。 握力0Kg 廃用手
移動能力
病棟内は車いす使用自立。歩行は短下肢装具を使用し見守り。
FIM
80(126点中)

ステップ1. PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient(患者)
麻痺側上肢に運動麻痺が残存する脳卒中右片麻痺患者
Intervention(介入)
両側上肢の交互運動を実施することは
Comparison(比較)
従来の麻痺側上肢の運動と比較し
アウトカム
麻痺側上肢の運動機能に改善が得られるか

ステップ2. 検索文献

検索式
PubMedで検索。キーワードは「stroke bilateral arm training」とした。両側上肢の交互運動に関する研究では必ずしもその効果に肯定的ではないものもあり、Limitsでreviewを選択し検索した結果、19件がヒット。発行年数が最も新しい、meta-analysisを実施しているなどの点から下記の文献を選択した。
論文タイトル
Bilateral movement training and stroke motor recovery progress:A structured review and meta-analysis
著者
James.H.Cauraugh, Neha.Lodha, Sagar.K.Naik, Jeffery.J.summers
雑誌名
Human Movement Science.2010;29(5)853-870
目的
両側上肢の交互運動は脳卒中後の上肢の運動機能の改善に有効であるか
研究デザイン
A structured review and meta-analysis
方法
両側上肢の交互運動に関する文献は、ISI web of Knowledge、PubMed Central、Cocharn Collabolation of systematic reviewの3つのデータベースで、キーワード「stroke、hemiplegia、hemiparesis、bilateral arm training、motor recovery/function、upper extremity/limb、bimanual coordination、neurorehabilitation、coupling, protocols」で検索し48件ヒット。そのうちケーススタディ、reviewやmeta-analysis、データ抽出の問題があるもの、関連性のない評価指標が用いられているものが除外された。最終的には、17件のRCT、8件のpre-post designの計25件の文献となり、急性期から慢性期の脳卒中患者で,両側上肢の交互運動を実施した366名を対象として、reviewの作成とmeta-analysisを実施。meta-analysis は、25文献のbilateral arm trainingに用いられた標準的な評価スケール(Fugel-Mayer Assessmentの上肢スコア,Box and Block test manual dexterity test,Modified motor Assessment scale,Action Research Arm Test, Modified Ashworth scale,FIM)のeffect sizeを算出し実施。さらに、主な4つの介入方法(リズミカルな音刺激を用いた交互運動、電気刺激を併用した運動、機械的なアシストを用いた自動/他動運動を行ったもの、純粋な両側上肢の交互運動を行ったもの)のeffect sizeを算出し、各々を比較した。
結果
meta-analysisの結果より、両側上肢の交互運動の実施は、麻痺側上肢運動機能は有意に改善すると示された。また4つの介入の比較ではリズミカルな音刺激を用いた交互運動、電気刺激を併用した運動で大きな治療効果、機械的なアシストを用いた自動/他動運動を行ったもので中等度の治療効果、純粋な両側上肢の交互運動を行ったものに関しては治療効果が小さいとの結果であった。
考察
十分な対象者数で厳密な除外基準を設けたこと、さらにmeta-analysisを行う際、適切な手順を踏めたことで今回のmeta-analysisの信頼性は高い。過去の研究から考えると両側上肢の交互運動という動作主体の運動は、脳卒中後の脳の可塑性を促す効果があるのではないかと考えられる。特に音や電気刺激などその運動を補助する手段を用いることは脳卒中後の障害を軽減させる有用な手段であると考えられた。
結論
両側上肢の交互運動は脳卒中後の上肢機能の改善に有用であり、特に音刺激や電気刺激を併用することによりその効果は大きいと結論づけた。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

今回は、二次情報であるためステップ3のチェック項目は確認せずにステップ4へ進むと考えられる。結果と考察との論理的整合性については、両側上肢の交互運動の効果がなぜ生じるかという点に関して記載が少ない、今回のmeta-analysisの信頼性は高いとしているがRCTのみで行っていないという2点に問題があると感じた。以上のことから、全ての項目にチェックをしなかった。

ステップ4. 臨床適用の可能性

  • エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
  • 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
  • 倫理的問題はない
  • 自分の臨床能力として実施可能である
  • 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
  • カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
  • エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
  • その他
両側上肢の交互運動は、当院が保有する上肢用ペダリング機器を用いて等速性で実施する。
具体的な介入方針
文献に引用されていたWallerら(2008)のプロトコルを参考に本人が無理なく参加できるように介入頻度を改良し、1日10分、週6回以上7週間を予定。等速性運動の速さは本人の好みの速さとした。
注意事項
麻痺側手指の握力弱く運動中ペダルから落ちてしまうため、ゴム製のバンドで手部とペダルを固定した。

ステップ5. 適用結果の分析

介入頻度は計画通り実施できた。介入前後における評価結果を下記に示す。Fugel-Mayer Assessmentの上肢スコアに改善が得られた。部位別に見ると特に肩/肘/前腕の部分で改善幅が大きかった。上肢ペダリング運動は肩/肘の運動が主であるため、同部位の改善が促されやすかったと考えられた。上記の運動機能が改善したことにより、麻痺側上肢は廃用手から低補助手へと改善しADL場面での使用頻度が増えた。
  介入前(病日75日) 7週間後
Fugel-Mayer Assessment上肢スコア 35/66 48/66
内訳
A 肩/肘/前腕
B 手関節
C 手指
D 協調性
 
25/36
0/10
7/14
3/6
 
32/36
3/10
8/14
5/6

第4回「両側上肢の交互運動による脳卒中麻痺側上肢の運動機能改善」 目次

2012年05月24日掲載

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