EBPTワークシート
第4回 「両側上肢の交互運動による脳卒中麻痺側上肢の運動機能改善」 解説

鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院
須江慶太

ステップ1. の解説: PICO の定式化

今回は「脳卒中患者の麻痺側上肢機能の改善」をテーマにして記載しました。「脳卒中ガイドライン2009」では、麻痺側上肢に対して特定の治療法を積極的に行うことが推奨されています。今回はその中の一つである両側上肢の交互運動の効果を明らかにするためにIntervention(介入)とComparison(比較)を設定しました。Outcome(効果)は麻痺側上肢の運動機能の変化がわかる評価としてFugel-Mayer Assessmentの上肢スコアを挙げました。

ステップ2. の解説: 検索文献

Pub Medでの検索はキーワード「stroke bilateral arm training」としました。両側上肢の交互運動に関する研究では必ずしもその効果に関し肯定的でないものもあります。そのため複数の研究を比較して検討する必要があると考えられました。そこでLimit機能でreviewを選択して検索した結果、19件がヒットしました。Limit機能でreviewを選択した場合には、システマティックレビュー以外にもいわゆる総説も含まれていました。今回引用した文献が2次情報であることから、ステップ3では結果と考察との論理的整合性の項目が重要と考え、ステップ2において考察を記載することとしました。

ステップ3. の解説: 検索文献の批判的吟味

今回は、二次情報であるためステップ3のチェック項目を、1つ1つ確認はしませんでしたが、結果と考察との論理的整合性についてのみ批判的吟味を行いました。ちなみに、このreviewに対する批評を行った文献が、Pollockら(2010)によって報告されています。その文献の中では、今回のreviewはRCTのみでmeta-analysisが行われていないことや、比較対象群が明確ではないことなどの問題点が挙げられており、“両側上肢の交互運動には明確な効果がある”という結論を過大評価している部分があるのではないかと意見しています。以上より、今回のreviewにはいくつかの問題がありますが、効果ありとする文献が多く存在することも事実であるため、両側上肢の運動を本症例に取り入れる方針としステップ4に進みました。

ステップ4. の解説: 臨床適用の可能性

7つの項目中,「自分の施設の理学療法機器」に関し方法の検討が必要でした.reviewでは「リズミカルな音刺激を用いた交互運動」、「電気刺激を併用した運動」との2つの方法が推奨されていましたが、当院が保有する機器の台数の制約から上記2つの運動の継続実施が難しいと思われました.そこで比較的いつでも利用可能な上肢のペダリング機器を用いた「機械的なアシストを用いた自動/他動運動」を選択し、両側上肢の等速性交互運動を行うことにしました。実施の際は、なるべく麻痺側・非麻痺側を同じように運動するように意識してもらいました。その他の6項目については問題なくチェックが入りました。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

目の前の症例に即したPICOをreviewから設定してみました。reviewを批判的にみることに慣れず、時間がかかってしまいました。また当院が保有する機器の台数の制約から、効果が高いと考えられた方法をそのまま実践することはできませんでした。しかし、実施可能でその中でもより効果の高いものを適応した結果、麻痺側上肢の機能に改善が得られ、ADL場面での麻痺側上肢の使用頻度が増えたことから介入の効果があったと考えられました。症例からも余計な力が入らず、運動が行いやすかったと肯定的な感想が聞かれたことも良かったと思いました。麻痺側上肢の機能は下肢に比べ改善が得られにくく、いつも難渋します。このような難問に対してもEBPTワークシートを用いて科学的に介入を検討してく大切さを実感しました。

第4回 「両側上肢の交互運動による脳卒中麻痺側上肢の運動機能改善」 解説 目次

2012年05月24日掲載

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