EBPTワークシート
第6回 「脳卒中片麻痺患者に対する立ち上がり練習の効果」

鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院
藤本知宏

基本情報

年齢
60代
性別
男性
診断名
脳出血(左被殻出血)
現病歴
H15発症。ボツリヌス療法による右上肢痙性抑制と身体機能向上による介助量軽減の目的で入院。

理学療法評価概略

12段階片麻痺グレード
右上肢1 手指0 下肢4
SIAS
27/76点
FIM
63/126点
Berg Balance Scale
(以下BBS)
17/56点
 
高次脳機能障害
運動性失語(+)
動作能力
立ち上がりは座面が高い場合では監視、車椅子など低い座面では軽介助。立位保持は支持物を使用し監視。起居、移乗動作は軽介助。歩行は金属支柱付き短下肢装具と四脚杖を使用し軽介助。

ステップ1. PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient(患者)
立ち上がり、立位保持に介助を要する慢性期脳卒中片麻痺患者
Intervention(介入)
一般的な理学療法(バランス、歩行、ADL練習)に加えて、立ち上がり練習を実施した場合
Comparison(比較)
一般的な理学療法のみと比較し
アウトカム
立ち上がり動作だけでなく立位バランス能力が向上するのか?

ステップ2. 検索文献

検索式
PubMedにてキーワード「sit to stand stroke」、Limits:randomized controlled trial・published in the last 5 yearsで検索した結果、8件ヒット。本症例のPICOに近く、最近の文献という理由から下記の論文を選択した。
論文タイトル
Balance outcomes after additional sit-to-stand training in subjects with stroke: a randomized controlled trial.
著者
Tung FL, Yang YR, Lee CC, Wang RY.
雑誌名
Clinical Rehabilitation 2010; 24: 533–542
目的
脳卒中患者の立ち上がり練習の効果を調査する。
研究デザイン
RCT
対象
脳卒中初発の片麻痺、BBSの得点が50点以下、立ち上がりを介助なしで可能、言語理解が可能という選定基準を満たす32名の脳卒中患者。全身状態が安定していない場合や重度の感覚障害と半側空間無視がある場合は、除外した。
介入
無作為にコントロール群と介入群にそれぞれ16名ずつ割り付けた。どちらの群とも週3回、4週間の1回当たり30分の理学療法を実施。介入群では一般的な理学療法(バランス、歩行、ADL練習)に加え15分の立ち上がり練習を追加して実施。アームレストのない椅子を使用し、大腿の半分が椅子にかかるように高さを調節した。立ち上がり条件として、膝屈曲角度(105°,90°,75°)と床面条件(通常、中程度の柔らかさのスポンジ)を変えた計6種類を難易度に応じて実施した。実施回数は規定せず、時間内で可能な限り立ち上がりをおこなった。
主要評価項目
安静立位時の左右下肢荷重量、動的立位バランス(BBS、前後左右への重心移動範囲)、下肢伸展筋力を12セッション介入の開始時と4週間後に実施。
結果
コントロール群と比較し、介入群で動的立位バランスの項目のうち前方への重心移動範囲、股関節伸展筋力に有意な改善を認めた。また治療前後の群内比較をした場合、介入群では足関節底屈を除く下肢伸展筋力、左右下肢荷重対称性、前後左右への重心移動範囲に有意な改善を認めた。
結論
追加的に実施した立ち上がり練習は、脳卒中患者の動的バランスや下肢伸展筋力の向上につながる。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

  • 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている

ステップ4. 臨床適用の可能性

  • エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
  • 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
  • 倫理的問題はない
  • 自分の臨床能力として実施可能である
  • 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
  • カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
  • エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
  • その他
具体的な介入方針
一般的な理学療法(歩行、バランス、ADL練習)に加えて、15分の立ち上がり練習を週3回4週間実施。立ち上がり条件は、膝屈曲角度3条件(105°,90°,75°)と床面2条件(通常、中程度の柔らかさのスポンジ)とを組み合わせた6条件とし、易しい条件から始めた。
注意事項
立ち上がり練習中の転倒、過度な疲労に注意しながら実施した。

ステップ5. 適用結果の分析

介入頻度は、予定していた計画通りにプログラムを実施できた。評価は、立ち上がり所要時間、左右下肢荷重量、BBS、Functional Reach Test(以下、FRT)、下肢伸展筋力を介入開始時と4週間後に行った(下表)。BBSを除く評価結果値は、2回測定した平均値とした。なお、評価と治療実施は、それぞれ別の理学療法士が実施した。結果として静的立位バランスとしての左右下肢荷重量、動的立位バランスとしてのBBSやFRTに改善を認めた。しかし、立ち上がり所要時間に大きな変化を認めなかった。
  介入前 4週間介入後
BBS(点) 17/56 25/56
立ち上がり所要時間(sec) 5 4
90°外転位外旋 60 75
下肢荷重量(㎏)  麻痺側/非麻痺 18/47 24/42
FRT(㎝) 前方 8 11
非麻痺側 8 10
麻痺側 0 3
筋力<レッグプレス>(㎏) 非麻痺側 14 19
麻痺側 2 3
設定したPICOに適合した文献を見つけ、批判的吟味を実施した上で、実際の臨床場面において介入することができた。評価項目を計画する際には、文献の内容を参考にしながら当院にある機器で実施可能なものとする工夫が必要であった。また、介入後の効果としては文献と似た傾向を示しており、介入の成果を確かめることができた。

第6回「脳卒中片麻痺患者に対する立ち上がり練習の効果」 目次

2012年08月16日掲載

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