EBPTワークシート
第6回「脳卒中片麻痺患者に対する立ち上がり練習の効果」 解説

鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院
藤本知宏

ステップ1. の解説: PICO の定式化

Patient(患者)は、日常生活の中で車いすを使用しながら、立ち上がりや立位保持の介助量軽減を目標としている慢性期脳卒中片麻痺患者でしたので、その内容の要点のみ記載しました。立ち上がり動作能力は、立位時の左右の下肢荷重量や身体動揺、重心移動に関連があるとされています。そのため、一般的な理学療法に加えて、膝屈曲角度条件や床面条件の異なる立ち上がり練習を多く行うことで、立ち上がり能力だけでなく立位バランスをより改善できるか?という点を知りたいと考え、Intervention(介入)とComparison(比較)を設定しました。Outcome (効果)は、文献で用いていた評価方法を参考にして当院で実施可能である項目としました。具体的には、①立ち上がり能力(立ち上がり所要時間)、②立位バランス(左右荷重量、Berg Balance Scale、FRT)、③下肢伸展筋力(レッグプレス)を評価しました。

ステップ2. の解説: 検索文献

PubMedを使用し、今回のPICOに関連するキーワード「sit to stand stroke」で検索をかけました。結果81件ヒットしたため、Limitsとしてrandomized controlled trial・published in the last 5 yearsで更に検索した結果、8件の文献がヒットしました。その中で、対象者として慢性期脳卒中患者が含まれており今回のPICOに近いことや、介入方法が実施しやすいこと、最近の文献であるという理由で今回の文献を採用しました。

ステップ3. の解説: 検索文献の批判的吟味

対象者の選定基準と除外基準は、明確な記載がありました。選定された対象者は、コントロール群と介入群へランダムに振り分けていました。各群のベースラインは、発症からの期間のみ群間に差があったためチェックはしませんでした。盲検化は、評価者のみ実施されていました。途中脱落者はおらず参加者全員が介入効果判定の対象となっていました。またITT解析を実施した記載は抽出した文献中になかったため、チェックはしませんでした。対象者数は今回抽出した文献の考察では十分に多くなかったとの記載がありました。

ステップ4. の解説: 臨床適用の可能性

7つの項目を確認したところ全てにチェックが入りました。文献の選定基準と除外基準は今回の患者に当てはまっていましたので、「エビデンスの臨床像は自分の患者に近い」にチェックをしました。実際に立ち上がり練習を行う際の注意点は、過度な疲労、転倒の2点を挙げました。介入時間内に、何回立ち上がりを行なうのか?どのくらい休憩をとるのか?については、文献に記載はありませんでした。そのため、患者の疲労を見ながら可能な限り立ち上がりを実施することとしました。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

介入内容としては文献と同様の時間、頻度、期間で行うことができました。介入に対して患者の受け入れもよく、実施期間中に過度な疲労や転倒といった問題は生じませんでした。介入前後の評価は、病院にある機器の関係から動的立位バランスの評価、筋力測定方法を工夫しながら実施しました。介入後4週間の時点で、文献の結果と同様に立位バランスの改善が認められました。脳卒中患者の運動療法として立ち上がり練習を行なうことは多いですが、EBPT実践の手順を踏みながら、立ち上がり練習による立位バランス改善の効果を確認できたことは良かったと思います。

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2012年08月16日掲載

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