EBPTワークシート
第8回「拡張型心筋症に対する有酸素運動とレジスタンストレーニングの併用効果」 解説

榊原記念病院 理学療法科
齊藤 正和、塩谷 洋平

ステップ1. の解説: PICO の定式化

本症例は、拡張型心筋症で心不全加療後に有酸素運動療法とレジスタンストレーニングの併用療法を含む包括的回復期心臓リハビリテーションを実施した症例です。重症心不全患者においても、有酸素運動に加えて、レジスタンストレーニングを併用することで安全かつ効果的に四肢骨格筋力や運動耐容能の向上か否かを検討する目的にintervention(運動療法)とcomparison(対照)を設定しました。Outcome(効果)には、心臓リハビリテーションを実施するうえで有用な評価指標である、運動耐容能、四肢骨格筋力、心不全に伴う自覚症状、左室リモデリングおよび有害事象の有無を設定しました。

ステップ2. の解説: 検索文献

Pubmedでの検索は、キーワードを「chronic heart failure、endurance training、 resistance training、randomized study」、Limits「randomized controlled trial、published in the last 10 years」で検索した結果、7件がヒット。その中から、本症例のPICOと合致できる文献で、とくに当院でのレジスタンストレーニングの介入方法として採用可能と判断したものを採用しました。

ステップ3. の解説: 検索文献の批判的吟味

今回の論文では、虚血性心不全および拡張型心筋症を基礎疾患とする左室収縮不全(LVEF≦40%, NYHA心機能分類Ⅱ〜Ⅲ)を呈する心不全患者を対象としており、疾患の特性や重症度を加味した上で、ランダムに2群に振り分けている点が良いと考えます。一方で、患者数に関しては、30例程度ということで、十分に多いとは言えませんでした。

ステップ4. の解説: 臨床適用の可能性

7つの項目全てにおいてチェックが可能でありました。介入方法においては、PICOとほぼ合致できる文献を参考にし、評価項目や評価時期を調整して介入方針を決定しました。
レジスタンストレーニングは、当院に導入されているレジスタンストレーニング機器で全て対応可能であり、対象筋群は、American Heart Association (AHA)のガイドラインに準じ、大腿四頭筋、大胸筋/小胸筋、広背筋、前鋸筋、上腕二頭筋、 上腕三頭筋、僧帽筋、菱形筋を対象筋として選定しました。トレーニング機器は低頭位にならず、また、1kg単位で負荷量の調節可能なものを使用しました。運動の際は、バルサルバ効果を避けるために、等尺性筋収縮、息こらえを行わないこと、適切な休止時間をとることを指導しながら実施しました。
運動療法の期間は3か月間、有酸素運動療法の運動強度は嫌気性代謝閾値レベル、レジスタンストレーニングの運動強度は上肢30〜40%1RM、下肢50〜60%1RMとして実施しました。当院の回復期心臓リハビリテーションプログラムは3ヶ月間と設定しており、本症例においても運動療法の期間も3ヶ月間としました。今回採用した先行研究においては、CT群では有酸素運動とレジスタンストレーニングの割合を経時的に変更しておりますが、当院では機器運用のシステム上、有酸素運動とレジスタンストレーニングの実施時間は変更致しませんでしたが、日本循環器学会やAHAなどの関連学会が推奨している運動療法の実施時間に準じており、本症例に対して採用した運動療法でも運動効果は得られるものと考えました。

ステップ5. の解説: 適用結果の分析

高齢な重症心不全患者の理学療法において、安全かつ効果的に運動耐容能ならびに四肢骨格筋力を改善するために、有酸素運動療法に加えて、レジスタンストレーニングを併用した運動療法がどの程度効果があるかを知りたいという目的にてPICOを設定しました。ステップ3では、大きな問題も無く批判的吟味を行うことができ、ステップ4・5においても検索文献で示された方法を若干本邦の医療制度や当院での回復期心臓リハビリテーションプログラムに適応できるように修正しながらも、適切な運動療法の効果を得ることが出来ました。左室収縮不全を伴う、高齢重症心不全患者において、嫌気性代謝閾値レベルの有酸素運動療法に加えて、レジスタンストレーニングを併用することで、四肢骨格筋力および運動耐容能の向上が安全かつ効果的に改善可能であることが分かりました。

第8回「拡張型心筋症に対する有酸素運動とレジスタンストレーニングの併用効果」 解説 目次

2013年03月06日掲載

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