EBPTワークシート
第15回「通所リハ利用の脳卒中片麻痺者に対する応用歩行練習の介入効果」

訪問リハビリテーション西堀  畠山 功

基本情報

年齢 68歳
性別 男性
身長 172cm
体重 73kg
診断名 心原性脳塞栓症、左片麻痺
現病歴 職場にてめまいと吐き気訴え意識消失し、救急搬送される。回復期リハビリテーション終了後在宅復帰、発症後、約1年経過してから当院通所リハビリテーション利用となる。
介護度 要介護1
 

理学療法評価概略

Br.stage 上肢・手指Ⅵ 下肢Ⅴ
感覚検査 表在・深部重度鈍麻
膝伸展筋力(HHD) Rt 0.82㎏/W  Lt 0.48㎏/W
10m至適歩行速度 0.57m/sec (つま先引っ掛かり回数:6回)
6分間歩行距離 210m
TUG(Timed Up and Go Test) 19.31sec
LSA※1(Life-space assessment) 69/120点
FES※2(Fall Efficacy Scale) 38/40点
MAS(Modified Ashworth Scale) 1+
 

ステップ1. PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient (患者) 脳卒中の後遺症患者に対して
Intervention (介入) 応用歩行の練習を行うことは
Comparison (比較) 応用歩行の練習を行わない者と比較して
Outcome (効果) 歩行速度や活動範囲は変化するか
 

ステップ2. 検索文献

(☑一次情報 ・ □ 二次情報
検索式 PubMedにてキーワード「chronic stroke,walking training, community」limits;「randomaized controlled trial:Publication dates 5 years」で検索した結果、11件ヒットした。その中から、本症例のPICOと適合した論文を選択した。
論文タイトル Community Walking Training Program Improves Walking Function and Social Participation in Chronic Stroke Patients
著者 Minkyu Kim,KiHun Cho,WanHee Lee
雑誌名 Tohoku J.Exp.Med,2014,234,281-286
目的 慢性脳卒中患者を対象として、4週間実際の環境下で歩行練習を実施し、歩行機能や社会参加への効果を検証すること。
研究デザイン ランダム化比較試験(RCT)
対象 脳卒中を罹患し標準的なリハビリテーションを行ってきた入院患者、1)片麻痺発症から6ヵ月以上経過、2)韓国版MMSEが24点以上、3)歩行速度が0.8m/s未満、4)10m歩行自立、5)歩行に影響を与えるような筋骨格系の問題がない、6)半側空間無視があっても安全に歩行可能な者30人とした。除外基準として1)他の研究やリハビリテーションへの参加者、2)重篤な心疾患や高血圧および痛みのある者4名を除外した、26名とした。
介入 ・標準的治療
従来の理学療法は、体幹の安定性強化、下肢の筋力強化を実施した。従来の作業療法は、日常生活動作における上肢の運動を実施し、各30分程度週に5回(計20回)全ての患者に実施した。
・CWTP(community walking training program)群
標準的治療に加えて30分程度週に5回(計20回)CWTPを実施した。内容は、1週目:病院内200m、2週目:舗道、傾斜、階段含む300m、3週目:横断歩道、坂道、未舗装の道含む400m、4週目:ショッピングセンター
主要評価項目 10m歩行、6分間歩行、community walk test、SIS(Stroke Impact Scale)
結果 CWTP群とコントロール群共に4週間の介入で10m歩行速度、6分間歩行距離、SISに有意な改善が認められ、CWTP群のみcommunity walk testに有意な改善が認められた。変化量を両群で比較した結果、CWTP群が全項目で有意に改善した。
結論 慢性脳卒中患者において、実際の環境下での歩行練習を行うことは、従来の介入方法より歩行機能の改善や積極的な社会参加を促すことが期待できる。
 

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である ( ☑ ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
☑ 盲検化〔→盲検法(ブラインディング)〕されている ( ☑ 一重盲検 ・ □ 二重盲検)
□ 患者数は十分に多い
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している〔→治療企図解析(ITT解析)
☑ 統計的仮説検定は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる
 

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他
具体的な介入方針 検索文献とは若干異なり、在宅で生活している慢性脳卒中片麻痺者に対して、通所リハビリテーションによる個別運動と自主運動を合わせた1日3時間程度の運動介入を計24回(3か月間)実施する。
方法 個別運動は、1回あたり20分CWTPを実施する。CWTPは、ショッピングセンター以外の環境下で各8回(3種類)実施する。自主運動は、検索文献と同様に上肢機能、体幹の安定性および下肢筋力の強化練習を実施する。
注意事項 自覚症状や転倒に注意しながら実施する。
 

ステップ5. 適用結果の分析

 通所リハビリテーションを週に2回、3か月間で計24回実施できた。論文より介入期間は長いものの、同程度の介入回数となった。Community walk test、SIS評価の代替としてLSA、FESを用いて評価した。各評価結果を以下に示す。
 10m至適歩行速度ならびに6分間歩行距離において、いずれも大きな変化を認めなかった。その理由として、通所リハビリテーションでの運動は3時間程度であり運動時間は十分であると推察するが、体幹の安定性および下肢筋力の強化といった自主運動が2時間40分と大半を占めていることから、負荷量の設定が不十分であった可能性が挙げられる。また、本症例は、歩行速度の増加に伴って筋緊張がさらに亢進しやすくなることが、歩行速度や6分間歩行距離に変化を認めなかった理由として考えられる。
 一方、LSAは大きく変化しており、治療前は近隣までの活動範囲であったが、治療後の活動範囲は町内外へと広がった。その理由として、直線的な10m歩行時に、つまずく回数が軽減したため、FESの歩行項目における転倒しない自信が向上し、結果として外出頻度や外出範囲の拡大へと繋がったと考える。
 以上より、慢性脳卒中片麻痺者に対する応用歩行練習は、検索文献のように歩行速度の向上には至らないものの、活動範囲の拡大といった行動変容に繋がる可能性がある。
 
  初回評価 3か月後
膝伸展筋力(HHD) Rt 0.82㎏/W Lt 0.48㎏/W Rt 0.66㎏/W Lt 0.52㎏/W
10m至適歩行速度 0.57m/sec
(つま先引っ掛かり回数:6回)
0.6m/sec
(つま先引っ掛かり回数:2回)
6分間歩行距離 210m 180m
TUG(Timed Up and Go Test) 19.31sec 19.25sec
LSA※1(Life-space assessment) 69/120点 90/120点
FES※2(Fall Efficacy Scale) 38/40点 40/40点
MAS(Modified Ashworth Scale) 1+ 1
※1.LSA(Life space assessment):個人の生活の空間的な広がりにおける移動を評価する指標であり、得点が高いほど活動量が多く、自立して活動できることを意味している。
※2.FES(Fall efficacy scale):転倒に対する自己効力感を示す指標であり、点数が高いほど恐怖心が少なく活動できることを意味している。
 
 

第15回「通所リハ利用の脳卒中片麻痺者に対する応用歩行練習の介入効果」目次

2017年10月23日掲載

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