EBPTワークシート
第16回「人工膝関節全置換術後患者における神経筋電気刺激を併用した理学療法」解説

苑田会人工関節センター病院 田中友也

ステップ1.の解説: PICOの定式化

 近年、TKA患者に対して術後早期より理学療法が実施され、早期回復を目的に積極的な運動療法が展開されています。しかし、術後早期には疼痛や腫脹などの炎症症状により、関節可動域制限、筋力低下を起こし、運動療法を展開する上で大きな問題点になります。過去のシステマティックレビューから、運動療法と神経筋電気刺激が推奨されている情報を得たことから、2つの介入方法の併用によって理学療法の効果を向上させることが可能だと考えました。そのため、今回のPICOの定式にしています。
 

ステップ2.の解説:検索文献

 今回はPubMedを利用し、検索用語を「Total knee arthroplasty」、「Neuromuscular Electrical Stimulation」、「quadriceps femoris muscle」に決めて、AND検索を実施しました。検索結果として30件の論文が該当しました。PICOに適合していること、術後早期に介入していることを条件とし、それに適した論文を採択しました。

ステップ3.の解説: 検索文献の批判的吟味

 この採用論文は、対象の包含基準や除外基準が明確に記載されています。さらには評価項目の説明やリハビリテーションプロトコルが明確に記載されていますので、TKA患者に対する理学療法介入の参考になると思います。
 研究デザインに関して、群の割付は性別と年齢で層別化され、ランダムで行われていますので、適切なランダム化比較試験だと考えられます。ただし、ベースラインで対照群のBMIが有意に高いため(介入群27.1±4.9kg/m2、対照群31.2±4.2kg/m2)、結果の解釈に考慮を要します。最終的なフォローアップは83%であり、研究からの脱落者がいますが、NMESの有害事象によるものではありませんので、問題なく介入は行えると思います。統計解析、結果と考察の整合性も適切です。

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 本患者は採用論文の基準に適合し、電気治療の禁忌事項に当てはまるようなこともありませんでした。患者の受け入れ、病院の環境(電気治療機器)、PT自身の技術(設定)、主治医の許可、4つの視点から介入の可否を考慮した結果、今回の介入を適用することができました。

ステップ5.の解説:適用結果の分析

 今回は、当院でTKAを施行した患者に対し、NMESを併用した理学療法の介入を適用しました。一般的に、手術侵襲によって筋力や歩行能力は低下し、経過に応じて回復してきます。しかし、今回の評価時期とした術後3週程度の経過時間では、術前の能力まで回復させることが難しいと言われています。本患者においては、等尺性膝伸展トルクが術前よりも高値を示したことから、通常の理学療法にNMESを併用した効果だと考えられます。退院後の介入に関しては、治療機器を貸し出すことができず、6週間のNMESの介入はできませんでした。退院後の介入は別方法を考慮して、再度の論文検索を行う必要があると思います。
 介入の際には、採用論文を参考にして電流強度を可能な限り上げましたが、強い電流は患者に疼痛を生じさせてしまうため、患者と相談した上で採用論文程度の電流の強さまで上げませんでした。論文の介入内容と相違があると思いますが、介入を適用するためには、患者の同意が必要となります。これはEBPTを展開していく上で重要な視点となります。

2019年02月19日掲載

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