EBPTワークシート
第17回「慢性期における不全頸髄損傷者の痙性麻痺に対する体重免荷式トレッドミルトレーニングの介入効果」

苑田会 花はたリハビリテーション病院
廣島 拓也

基本情報


年齢 
 
40代後半
性別 男性
診断名 頸髄損傷
現病歴 飲酒後の自転車運転時に転倒し受傷。救急搬送の後、頸髄損傷と
診断され、C3-C6左片開き式椎弓形成術、C7部分椎弓切除術施行
される。第51病日目に当院回復期病棟に入院。第227病日目に当
院障害者病棟に転棟。
既往歴 特記事項なし

 

理学療法評価概略

(654病日目の評価)
ASIA Impairment Scale (以下、AIS):C

International Standards For Neurological Classification of Spinal Cord Injury (以下、ISNCSCI)
 
motor合計点 40/50 44/50
sensory合計点(Light Touch) 40/50 33/56
sensory合計点(Pin Prick) 33/56 33/56
Modified Ashworth Scale(以下、MAS)
    右/左
股関節 屈筋 0/0
  伸筋 3/3
  内転筋 2/1
膝関節 屈筋 2/3
  伸筋 1/2
足関節 背屈筋 1/1
  底屈筋 3/3
クローヌス(右/左):+/+(クローヌスが10秒以上持続)
 
Walking Index for Spinal Cord Injury II (以下、WISCIⅡ): 9(歩行器を使用し、下肢装具をつけ、介助なしに10m歩行可能)
 
10m歩行 :1分14秒 43歩(0.13m/s)
FIM 運動項目  60点(歩行:6点)
認知項目 35点

 

ステップ1. PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient (患者) 慢性期の不全頸髄損傷者
Intervention (介入) 体重免荷式トレッドミルトレーニング(以下、BWSTT)
Comparison (比較) ティルトテーブルスタンディング(以下、TTS)
Outcome (効果) 筋緊張が軽減するか

 

ステップ2. 検索文献

(☑️ 一次情報 ・ □ 二次情報
検索式 PubMedにてキーワード「body weight support treadmill training spinal cord injury chronic」Limits;Randomized Controlled Trialで検索した結果、11件ヒットした。その中から、今回のPICOと合致した文献を採用した。
論文タイトル Comparison of the effects of body-weight- supported treadmill training and tilt-table standing on spasticity in individuals with chronic spinal cord injury
著者 Melanie M. Adams, Audrey L. Hicks Department
雑誌名 The Journal of Spinal Cord Medicine
目的 慢性期における不全脊髄損傷者に対するBWSTTとTTSの効果を比較すること
研究デザイン ランダム化クロスオーバー試験
対象 受傷後1年以上経過しかつ、痙性を有する脊髄損傷者7名
介入 対象者は、BWSTTを4週間、ならびにTTSを4週間実施した。実施回数は4週間のうちにそれぞれ12回であり、BWSTTとTTSの期間の間には、4週間の非実施期間を設けた。また、BWSTTおよびTTSの実施順序はランダムに決定された。
 
BWSTT設定:
免荷量は、対象者の体重の8.0%〜70.2%に設定しており、立脚期中に膝の伸展を伴う歩行を可能にするよう対象者ごとに設定した。トレッドミル速度も対象者ごとに設定し、0.07 m/s〜0.33 m/sであった。実施時間もまた、対象者ごとに異なり、25分〜30分 であった。必要に応じて、下肢の運動をセラピストが補助した。
TTS設定:
ティルトテーブルの傾斜角度は、対象者ごとに異なり43.0度〜70.0度で設定し、めまいが生じない程度とした。身体を直立姿勢で保持するために、必要に応じて、膝、腰、および胴のベルクロストラップを使用した。実施時間も対象者ごとに異なり、20分〜30分であった。
主要評価項目 ①Modified Ashworth scale(筋緊張の程度を評価するスケール。以下、MAS)
②The Spinal Cord Injury Spasticity Evaluation Tool (日常生活において痙性が与える影響を評価するスケール。以下、SCI-SET)
③maximum H-reflex to maximum M-wave ratio (誘発筋電図を用 いてH波とM波の最大振幅から算出された最大振幅比。以下、H/M 比)
④The Spinal Cord Assessment Tool for Spastic reflexes (下肢屈筋痙性、下肢伸筋痙性、足部クローヌスを評価するスケール)
⑤The Penn Spasm Frequency Scale(痙縮の頻度と重症度を評価するスケール)
⑥the Quality of Life Index16 SCI Version – III (脊髄損傷者の健康状態と運動機能を評価するスケール。以下、QLI)
⑦FIM運動項目
結果 効果判定には、Cohen's d の効果量 Effect Size(以下、ES)を算出しており、ES≧0.5を効果量:中、 ES≧0.8を効果量:大としている。
BWSTTを4週間実施した結果、QLI(ES=0.50)に改善が認められた。また、TTSを4週間実施した結果、下肢伸筋痙性(ES=0.95)の改善が認められた。
BWSTTはTTSと比較し、下肢屈筋痙性(ES=0.79)とクローヌス(ES=0.66)、およびFIM(ES=1.24)の改善が認められた。一方、TTSはBWSTTと比較し、下肢伸筋痙性(ES=1.32)の改善が認められた。
結論 BWSTTとTTSの両方が痙性に関して特定の改善を認めたが、BWSTTはTTSと比較して、より広い範囲の改善を得られることが示唆された。

 

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である ( ☑️ ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
□ 盲検化されている ( □ 一重盲検 ・ □ 二重盲検)
□ 患者数は十分に多い
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
☑ 統計的解析方法は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる

 

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他:   
 
 本症例は、大腿直筋と下腿三頭筋の筋緊張の亢進の影響で、ベッドと車椅子間の移乗やトイレへの移乗動作は自立しているものの、自動車などへの難易度の高い移乗動作や歩行時の下肢の振り出し動作の円滑さに欠けていた。歩行器を利用して見守りで歩行可能であるが、下肢の振り出し動作の円滑さに欠けているため、速度の低下が見られた。そのため、本症例には筋緊張の改善だけでなく、歩行能力の向上にBWSTTが有益であることを説明し、同意を得られたため、BWSTT介入を進めていくこととした。
具体的な介入方針 通常の理学療法に加え、BWSTTを週4回以上4週間実施する。免荷量は、立脚期に膝関節の伸展が可能となることを基準とし、症例の体重の15%とした。実施頻度は、1回の介入を休憩を挟みながら40分間とし、週5日間とする。トレッドミル速度は、症例の歩行能力に合わせ、漸増的に変化させる。
注意事項 患者の疲労やバイタルサインの変化を確認し過負荷に注意する。

 

ステップ5. 適用結果の分析

 対象者は、体調不良時以外、BWSTTを4週間実施することができた。トレッドミルの速度は、0.13m/sから開始し、4週後には0.27m/sとなった。
 論文で計測されていたアウトカムは、本邦で馴染みのないものや、臨床で使用しづらさがあったため、本症例の効果判定には、下表のものに限ることとした。
 結果として、MASについては左股関節内転と右膝関節屈曲に増強がみられ、左膝関節伸展は軽減した。歩行速度が向上し、とFIMには若干の改善が認められた(下表)。
 
  BWSTT実施前 BWSTT実施後
(4週間後)
ASIA motor 右39/50
左44/50
右39/50
左44/50
10m歩行(歩行器使用) 1分14秒
43歩
1分4秒
35歩
歩行速度 0.13m/s 0.15m/s
FIM運動項目 60点 61点
MAS股関節屈筋(右/左) 0/0 0/0
  伸筋 3/3 3/3
  内転筋 2/1 2/2
  膝関節屈筋 2/3 2/2
  伸筋 1/2 2/2
  足関節背屈筋 1/1 1/1
  底屈筋 3/3 3/3
クローヌス +(10秒以上持続) +(10秒以上持続)

第17回「慢性期における不全頸髄損傷者の痙性麻痺に対する体重免荷式トレッドミルトレーニングの介入効果」目次

2019年02月28日掲載

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