EBPTワークシート
第17回「慢性期における不全頸髄損傷者の痙性麻痺に対する体重免荷式トレッドミルトレーニングの介入効果」解説

廣島拓也

ステップ1.の解説: PICOの定式化

 本症例は慢性期の不全頸髄損傷者であり、歩行能力の低下、痙性麻痺が主たる問題でした。そのため、慢性期の脊髄損傷患者の痙性麻痺改善の目的としてPICOの設定をしました。Patient(患者)は、慢性期の不全頸髄損傷者としました。Intervention(介入)は、歩行の再建にも有用と考えられるBWSTTとしました。Comparison(比較)は、腓腹筋・ヒラメ筋ストレッチ効果に焦点を当てたTTSとしました。Outcome (効果)は、筋緊張に着目して設定しました。

ステップ2.の解説:検索文献

 PubMedでキーワードを「body weight support treadmill training, spinal cord injury, chronic」と入力すると、55件がヒットしました。さらに、Limits機能にてランダム化比較試験(RCT)に絞り込むことで11件が該当しました。この中から要旨を読み、PICOに合致した文献を探すことができました。

ステップ3.の解説: 検索文献の批判的吟味

 今回の論文は、設定したPICOに近く参考にしやすいものでした。まず、研究デザインは、ランダム化クロスオーバー試験であったためチェックを入れました。比較した群間のベースラインには有意差がなかったことが結果に明記されていたため、チェックを入れました。盲検化について方法に明記されておらず、サンプル数が少ないことが考察に記載されていたため、この2点についてはチェックをしませんでした。途中脱落者はおらず参加者全員が介入効果判定の対象となっていました。またITT解析を実施した記載は抽出した論文中になかったため、チェックはしませんでした。

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 7つの項目すべてにチェックが入りました。本論文では、慢性期(受傷1年以上)の完全または不全の対麻痺または四肢麻痺、AISでA−C、痙性がある者が対象となっており、本症例と合致していました。介入方法については、BWSTTとTTSのどちらも筋緊張に対する改善効果が得られるようでしたが、クローヌスの改善を期待できる点と歩行能力の向上も必要とされていた点を考慮し、BWSTTを実施することとしました。また、当院設備、実施セラピストの技能、倫理的配慮全てにおいて問題はないと思われました。BWSTTでの介入方法については、論文を参考にし、かつ症例の疲労やバイタルサインの変化に合わせました。

ステップ5.の解説:適用結果の分析

 歩行量や活動量と筋緊張の関連性については、臨床上多くの議論がなされ明確な答えがない現状で、介入方法の判断が難しい場合があります。今回参考にした論文は、BWSTTを用いた歩行練習は、痙性を増悪させず運動機能を向上させるということが述べられており、本症例のように下肢の痙性麻痺を呈していながらも歩行練習を積極的に行いたいケースに参考にしやすい内容でした。結果として、筋緊張、ISNCSCI motorの合計点 およびFIM運動項目に大きな変化はみられませんでしたが、歩行速度を向上させることができました。これは、体重免荷し、負荷量を調整しながら歩行練習が可能となるBWSTTならではの結果であると考えています。
 

2019年02月28日掲載

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