EBPTワークシート
第18回「片側人工膝関節全置換術後患者に対するファンクショナルトレーニングとバランストレーニングの併用効果」

苑田会人工関節センター病院
田澤智央

基本情報

年齢 60代
性別 女性
診断名 右変形性膝関節症
現病歴 2017年10月頃,誘因なく左膝痛が出現した.保存的加療をしていたが,症状改善せず.2018年12月右人工膝関節全置換施行.
インプラントタイプは後十字靭帯温存型タイプ.アプローチ方法はmidvastus法.
手術翌日から入院理学療法開始し,術後2週4日で退院.
術後3週から外来理学療法開始.
既往歴 高血圧,糖尿病

 

理学療法評価概略(術後2ヶ月時)

主訴 通勤時に,速く歩けないこと.
Hope 転ばずに速く歩けるようになりたい.
炎症所見 腫脹+,熱感+(わずか),水腫-,疼痛+(階段降段時2※1
※15段階のリッカートスケールを用いて評価
 1:痛みなし,2:軽い痛み,3:中等度の痛み,4:強い痛み,5:非常に強い痛み
X線所見 非術側Kellgren & Lawrence(KL)分類Ⅰ
身体機能 表1 参照
表1.介入前の身体機能評価結果
   
膝関節可動域(°) 屈曲  110.0 140.0
  伸展 0.0 -5.0
体重比最大等尺性膝伸展筋力(%)※2   30.7 47.9
Timed up and go test(秒)   8.6
片脚立位(秒) 開眼 10.3 24.2
  閉眼 2.2 5.0
30秒間椅子立ち座りテスト(回)   14.0
8段階段昇降テスト(秒)   10.7
WOMAC(点) Pain 95.0 100.0
  Function 97.0
※2測定肢位:端坐位,下腿下垂位

 

ステップ1. PICO の定式化→ クリニカルクエッション

Patient (患者) 片側人工膝関節全置換術後患者に対して
Intervention (介入) 通常理学療法とバランスエクササイズの併用介入は
Comparison (比較) 通常理学療法のみと比較して
Outcome (効果) 移動能力およびバランス能力の改善が得られるか

ステップ2. 検索文献

(☑ 一次情報 ・ □ 二次情報
検索式 PubMedを用いて,キーワード「total knee arhroplasty, balance training」,Article typesをClinical Trialとして検索した結果,14件がヒットした.その中から,本症例のPICOと適合した論文を選択した.
 論文タイトル Effects of balance training on functional outcome after total knee replacement in patients with knee osteoarthritis: a randomized controlled trial.
著者 Liao CD, Liou TH, et al.
雑誌名 Clin Rehabil. 2013;27(8):697-709.
目的 片側人工膝関節全置換術後患者の移動能力と身体機能アウトカムに対してファンクショナルトレーニングとバランストレーニングの併用効果を明らかにすること.
研究デザイン ランダム化比較試験
対象 選定基準は,50-85歳,原疾患が変形性膝関節症の片側人工膝関節全置換術後外来患者とした.インプラントライプは不明,アプローチ法はquadriceps muscle sparing法であった.
除外基準は,(a)コントロールできない高血圧,(b)糖尿病,(c)BMIが40kg/m2以上の者,(d)他の下肢関節に身体機能制限となる整形外科的な問題がある者,(e)神経学的な障害がある者とした.
介入 【介入群:ファンクショナルトレーニング+バランストレーニング】
介入期間:8週間,介入時間:90分


・ファンクショナルトレーニングの内容(介入時間30分)
 
  具体的な内容
①ウォームアップ 下肢全体の屈伸,足関節底背屈運動,
大腿四頭筋やハムストリングスのストレッチ
②筋力トレーニング 膝屈曲伸展0°,膝屈曲60°の
等尺性膝伸展トレーニング
膝屈曲60°の等尺性膝屈曲トレーニングなど
③機能的課題指向型エクササイズ 立ち座り,階段昇降エクササイズ,
自転車エルゴメータなど
④クールダウン  


・バランストレーニングの内容(介入時間60分)
内容 時間(分) 介入実施期間(週)
サイドステップ 5 1-2
ステップエクササイズ 5 1-4
タンデムウォーク 5 2-4
クロスオーバーステップ 5 3-5
シャトルウォーキング 5 3-5
バランスマット上スクワット 10 4-6
バランスマット上ウォーク 10 6-8

【対照群:ファンクショナルトレーニングのみ】
 介入期間:8週間,介入時間:60分
主要評価項目 Functional Reach Test(FRT),片脚立位テスト(開眼,閉眼),10m歩行テスト,Timed up and go test(TUG),30秒間椅子立ち座りテスト,階段昇降テスト,The Western Ontario and McMaster Universities (WOMAC) osteoarthritis indexを介入前(術後2ヶ月時),介入後(術後4ヶ月時)とした.
結果 各群65名ずつ割り付けられたが,最終的な解析対象者は介入群58名,対照群55名となった.年齢,性別,BMI,術前のアライメント,非術側のKL分類などのベースラインデータに群間差はなかった.介入前の値を共変量として群間差を検討した結果,FRT,片脚立位テスト,10m歩行テスト,TUG,WOMACにおいて対照群よりも介入群の方が有意に優れていた.
結論 原疾患が変形性膝関節症で人工膝関節全置換術を施行された患者に対する8週間のファンクショナルトレーニングとバランストレーニングの併用は身体機能的パフォーマンスを改善する可能性がある.

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である ( ☑ ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
☑ 盲検化されている ( □ 一重盲検 ・ ☑ 二重盲検)
□ 患者数は十分に多い
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
☑ 統計的解析方法は妥当である
□ 結果と考察との論理的整合性が認められる
 

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他:
具体的な介入方針 当院の通常外来理学療法に加えて,本論文で紹介されているバランストレーニングを術後2ヶ月から開始した.介入期間は8週間,介入頻度は週2回,介入時間は60分とした.また,膝関節可動域,最大等尺性膝伸展筋力,片脚立位時間,TUG,30秒間椅子立ち座りテスト,階段昇降テスト(8段),WOMACを介入前(術後2ヶ月),介入後(術後4ヶ月)に評価した.
注意事項 バランストレーニング中の転倒発生予防のために理学療法士による近位見守りもしくは平行棒内での実施とした.

ステップ5. 適用結果の分析

プロトコルは,本論文の通りに実施することができた.対象者の仕事の都合や介入前の主訴の改善により,介入後4週から介入頻度を週1回に減らして介入を継続した.介入中の有害事象はなく,安全に実施できた.評価結果を以下に示した.対象者の測定結果と比較可能な本論文の介入群の評価結果を表3に示した.表3と表2を比較した結果,対象者は,本論文の介入群と比べて,ベースラインが異なっていたため,同程度の効果を得たと判断することは難しい.しかし,対象者の介入前の主訴が改善されたことから,対象者に対する通常理学療法とバランストレーニングの併用介入は有意義であったと考える.
・理学療法評価概略(術後4ヶ月時)
主訴 特になし.
Hope ハイキングを再開したい.
炎症所見 腫脹-,熱感-,水腫-,疼痛-
X線所見 非術側Kellgren & Lawrence(KL)分類Ⅰ
身体機能 表2参照
  
表2.介入後の身体機能評価結果
    介入前 介入後
   
膝関節可動域(°) 屈曲 110.0 140.0 115.0 140.0
  伸展 0.0 -5.0 0.0 -5.0
体重比最大等尺性膝伸展筋力(%)※3   30.7 47.9 40.9 47.4
Timed up and go test(秒)   8.6 7.1
片脚立位(秒) 開眼 10.3 24.2 17.4 25.3
  閉眼 2.2 5.0 4.8 6.3
30秒間椅子立ち座りテスト(回)   14.0 17.0
8段階段昇降テスト(秒)     10.7 8.7
WOMAC(点) Pain 95.0 100.0 100.0 100.0
  Function   97.0 100.0
※3測定肢位:端坐位,膝下垂位      
  
表3.本論文の介入群の評価結果
    介入前95%信頼区間 介入後95%信頼区間
    Low High Low High
Timed up and go test(秒)   12.5 13.3 8.4 11.4
片脚立位(秒) 開眼 9.0 9.6 13.7 14.3
  閉眼 4.4 4.8 8.5 8.9
30秒間椅子立ち座りテスト(回)   4.8 5.4 8.1 8.7

2019年03月10日掲載

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