EBPTワークシート
第18回「片側人工膝関節全置換術後患者に対するファンクショナルトレーニングとバランストレーニングの併用効果」解説

苑田会人工関節センター病院 田澤智央

ステップ1.の解説: PICOの定式化

 対象者の「転ばずに速く歩けるようになりたい.」というHopeを考慮し,Patientを片側人工膝関節全置換術後患者,Interventionを通常理学療法とバランストレーニングの併用介入,Comparisonを通常理学療法のみ,Outcomesを移動能力,バランス能力と設定しました.
 

ステップ2.の解説: 検索文献

 PubMedを用いて,キーワード「total knee arhroplasty, balance training」,Article typesをClinical Trialとして検索した結果,14件がヒットしました.その中から,PICOと一致している内容である上,術後2週以上経過した外来理学療法期間中に実施できる内容であること,アウトカムが当院で測定可能であることを鑑みて,本論文を採用しました.
 

ステップ3.の解説: 検索文献の批判的吟味

 本論文は,封筒法によるランダム割付けがなされており,隠蔽化がなされています.ベースラインの群間差はないと明記されておりますが,関節可動域や膝伸展筋力などの交絡因子に成り得るアウトカムがベースラインの群間差の検討に含まれておりません.患者とアウトカム評価者に対して盲検化がなされています.サンプルサイズの計算についての記載がなく,患者数が十分であるか判断できませんでした.介入効果の判定対象は介入群89%,対照群85%でしたので,脱落例が結果に与える影響は少ないと考えられます.しかし,脱落例を除いて解析を行っておりますので,結果の頑健性が十分ではない可能性があります.統計解析は,介入後の群間差をみるために共変量を介入前の値とした共分散分析であり,妥当であると考えられます. 本論文の考察では,通常理学療法とバランストレーニングの併用介入は転倒リスクを減らす可能性があると述べておりますが,本論文ではアウトカムに転倒発生数を含めておりません.考察が飛躍していると思います.したがって,結果と考察の論理的整合性が認められていないと判断しました.
 

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 エビデンスの臨床像は適用する対象者に近く,禁忌条件や合併症等のリスクファクターはありませんでした.高い技術が求められる介入内容ではなく担当理学療法士の臨床能力として実施可能でした.また,当院の施設にある理学療法機器を用いて介入できる内容でした.主治医と対象者の同意を得て実施しました.
 

ステップ5.の解説:適用結果の分析

 今回,対象者のHopeを考慮したPICOの定式化を行い,対象者の状況に見合う論文を検索することができたと思います.批判的吟味を行った結果,完璧な内容ではないものの,対象者の主訴と臨床適用の可能性を鑑みると,この論文が一番適していると判断し採用しました.適用した結果,介入中の有害事象もなく安全に実施できました.対象者と本論文の介入群の結果と比べるとベースラインが異なっていました.本研究が行われた施設と当院のプロトコルの違いが影響しているかもしれません.そのため,対象者の結果を本論文の介入群の結果と比較して同程度の効果を得たと判断することは難しいと思います.しかし,対象者の主訴が改善できたので,この介入はこの対象者にとって有意義であったと考えられます.
 

2019年03月10日掲載

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