EBPTワークシート
第20回「頸椎前方固定術後に隣接関節に頸椎症を呈した症例に対する頸椎深層屈筋群トレーニングの効果」

苑田第三病院・苑田会東京脊椎脊髄病センター  古谷英孝

基本情報

年齢 51歳
性別 男性
診断名 頸椎症
現病歴 左上肢の痺れが出現し、半年前に当院にて頸髄症に対して前方固定術(C4-6)を施行された。術後に術前の左上肢の痺れは改善したが、仕事復帰すると頸部痛が出現した。痛みが改善しなかったため、当院を受診、C6-7の頸椎症(隣接関節障害)と診断され、リハビリテーションが開始された。
 
既往歴 頸髄症
職業 バスの運転手

 

理学療法評価概略

痛み VAS 頸部78㎜、肩甲帯79㎜、痺れ0㎜
めまい:なし、頭痛:なし
神経学的評価 反射:正常、感覚鈍麻:なし
Spurling test:陰性、Eaton test:陰性
頸部ROM 屈曲45°、伸展25°、右側屈20°、左側屈10°、
右回旋35°、左回旋15°
頭頸部屈曲テスト(Craniocervical Flexion Test:以下CCFT) 22mmHg
姿勢 胸椎後弯、前方頭位姿勢
Neck Disability Index:以下NDI 38%
Japanese Orthopaedic Association Cervical Myelopathy Evaluation Questionnaire:以下JOACMEQ 頸椎機能25点、上肢機能89点、下肢機能100点、膀胱機能94点、QOL50点
*CCFTは、頸椎深層屈筋群の筋機能を評価するテストである。開始肢位は背臥位で膝を屈曲した肢位をとり、圧バイオフィードバック装置(Pressure Biofeedback Unit:以下PBU)(Stabilizer、Chattanooga)の圧センターを頸部後方に置く。圧力センサーの値が基準値の20㎜Hgになるように空気を入れてから頭部のうなずき運動をおこなってもらい、目標値(22、24、26、28、30㎜Hgの5段階)になるように指示する。弱い圧から開始し、目標となる圧を10秒間保持できた場合に成功とみなす。成功すれば、次の高い圧でテストを行う。筋の強さではなく、筋の正確性と持久性が反映されるテストである。頸部痛患者では22~24㎜Hgまでしかできないことが多い。
 

ステップ1. PICO の定式化

Patient (患者) 頸椎前方固定術後に隣接関節に発生した頸椎症患者に対する
Intervention (介入) 圧バイオフィードバック装置を用いた頸椎深層屈筋群トレーニングは
Comparison (比較) 一般的な理学療法と比較し
Outcome (効果) 頸部痛、頸椎機能、患者報告アウトカムが改善するか

 

ステップ2. 検索文献

(☑ 一次情報 ・ □ 二次情報
検索式 PubMed, Cochrane Library, Herbert Open Access Journalsにてキーワード「cervical spondylosis」limits;「randomized controlled trial:published in the last 3 years」で検索、その結果、計44件が抽出された。本症例のPICOに近く、介入可能な論文であると判断し、下記の論文を採用した。
論文タイトル Effect of deep cervical flexors training on neck proprioception, pain, muscle strength and dizziness in patients with cervical spondylosis: A randomized controlled trial
著者 Saleh MSM, Rehab NI, Sharaf MAF
雑誌名 Physical Therapy and Rehabilitation. 2018; 5: 14.
目的 頸椎症患者に対する頸椎深層屈筋群(deep cervical flexors:以下DCF)トレーニングの効果を明らかにすること
研究デザイン Randomized controlled trial
対象 頸椎症と診断された54名中下記の基準を満たした40名を対象とした。
 
適応基準 45~55歳、6ヶ月以上頸部痛とめまいが持続している者。
除外基準 頸椎症性脊髄症、神経根症、腫瘍、感染、頸部の損傷または外傷、聴覚および視力障害、頸椎の先天性異常、神経疾患を有する者、良性発作性頭位めまい症、メニエール病、急性の前庭機能障害、慢性副鼻腔炎、むち打ちによる痛みおよびめまいと診断された者。
割り付け 54名中、基準を満たし同意が得られた40名を無作為に
介入群20名、対照群20名に割り付けた。
介入  介入群および対照群の両群ともに、ホットパック、経皮的電気神経刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation:以下TENS)、頸部の固有感覚トレーニングを含む理学療法を週3日、6週間実施した。介入群は前述した介入に加えて、PBUを用いたDCFトレーニングを実施した。トレーニング中のPBU圧は、安静時の圧を20mmHgに設定し、負荷を2㎜Hgずつ上げ、最終介入時には30㎜Hgでのトレーニングが実施可能となるように目標を設定した。DCFの収縮時間は、10秒収縮(休止3~5秒)とし、実施回数は10回とした。ターゲットとなる圧での筋収縮が10秒間10回実施可能となれば、負荷を上げた。
主要評価項目 ・頸部の運動感覚(特殊な装置Head Repositioning Accuracyを用いて測定)
・頸部痛[㎜](VAS)
・CCFT[mmHg]
・めまいの強さ[㎜](VAS)
・Dizziness Handicap Inventory:以下DHI[点](めまいによる日常生活における障害度を評価する質問紙票)
結果 全ての評価項目において両群とも介入前後で有意な改善を示した(p<0.05)。また、介入群は対照群と比較し、頸部の運動感覚障害、頸部痛、CCFT、めまいの強さ、DHIにおいて有意な改善を示した(有意水準5%)。
結論 頸椎症患者に対するPBUを用いたDCFトレーニングは、頸部の運動感覚障害、頸部痛、DCF機能低下(CCFT)、めまいの改善に有効である。

 

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である ( ☑ ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
□ 盲検化されている ( □ 一重盲検 ・ □ 二重盲検)
□ 患者数は十分に多い
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
☑ 統計的解析方法は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる

 

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他:                      
具体的な介入方針 対象は、症状および画像診断により頸椎症と診断され、外来通院可能であり、適応基準および除外基準を満たしていた。
 
方法 介入頻度は週2日、6週間とした。介入の際には、TENS、後頭下筋群および肩甲帯周囲筋群を中心にfriction massage、direct stretchを実施した。TENSおよび徒手的な介入に加えて、PBUを用いたDCFトレーニングを実施した。PBUを用いたDCFトレーニングでは、PBUを頸部後方の後頭部に接する部位に置き、症例には顎を軽く引いて頭部のうなずき運動が起こるよう指示をした。運動回数は、採用論文同様に10秒収縮(休止3~5秒)×10回を2~3セットとした。初回は安静時の圧を20mmHgに設定し、運動負荷を2mmHgとした。症例には、自宅でのトレーニングとして、PBUを使用しないDCFトレーニング(PBUの代わりにタオルを押し付けるトレーニング)を1日2~3セット行わせた。本症例は、3週間介入後に30mmHgでのトレーニングが実施可能となった。
 
注意事項 介入初期には、症例がDCFを正確に収縮できるように、セラピストが頭部を徒手的に誘導し、DCFトレーニングの運動方向を学習させた。その際に頸部の伸筋群または胸部の背筋群によりPBUの圧を上げないように注意した。また、症例にはDCF収縮時に胸鎖乳突筋や斜角筋の過剰収縮が起こらないよう、セラピストが触診をしながら運動を誘導した。来院の際には、毎回、セラピストがPBUを用いて正確なDCFトレーニングが行われているかをチェックした。

 

ステップ5. 適用結果の分析

 本症例には、DCFトレーニングを採用論文と同様の介入期間実施することができた。各評価時期における評価項目の結果を以下の表に示す。最終評価時には初期評価時と比較し、頸部痛VASは73㎜、NDIは-28%の改善を示した。この結果は、臨床的最小重要変化量(頸部痛VAS:21.4㎜、NDI:-10%)を上回る改善であった。また、頸部ROM、DCFの機能(CCFT)も改善した。本症例は、介入時に頸髄症の症状は無かったため、JOACMEQの上肢機能、下肢機能、膀胱機能に障害は無かった。JOACMEQの頸椎機能およびQOLは、初期と比較し「効果あり」と判断できる改善(頸椎機能60点、QOL25点)を示した。
 
  介入前 介入3週後 介入6週後
VAS[㎜]頸部痛 78 41 5
VAS[㎜]肩甲帯周囲痛 79 38 4
ROM[°]頸部屈曲 45 55 65
ROM[°]頸部伸展 25 30 40
ROM[°]頸部右側屈 20 30 35
ROM[°]頸部左側屈 10 25 30
ROM[°]頸部右回旋 35 50 55
ROM[°]頸部左回旋 15 30 40
CCFT[mmHg] 22.0 30.0 30.0
NDI[%] 38 22 10
JOACMEQ[点]頸椎機能 25 40 85
JOACMEQ[点]上肢機能 89 100 100
JOACMEQ[点]下肢機能 100 100 100
JOACMEQ[点]膀胱機能 94 94 94
JOACMEQ[点]QOL 50 64 75
※1 NDI
頸椎疾患患者に対する疾患特異的患者報告アウトカムであり、得点が高いほど重症であることを示す。

※2 JOACMEQ
頚椎症性脊髄症患者に対する疾患特異的患者報告アウトカムであり、各項目に100点満点に換算し、点数が低いほど重症であることを示す。個人で介入効果を判断する場合、介入前に比べて、介入後のスコアの値が20ポイント以上改善している場合、または、介入前のスコアの値が90ポイント未満であり、且つ、介入後のスコアの値が90以上の値に達した場合のいずれかを満たす場合「効果あり」と判定する。

2019年04月01日掲載

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