EBPTワークシート
第20回「頸椎前方固定術後に隣接関節に頸椎症を呈した症例に対する頸椎深層屈筋群トレーニングの効果」解説

苑田第三病院・苑田会東京脊椎脊髄病センター  古谷英孝

ステップ1.の解説: PICOの定式化

 Patientは頸椎前方固定術後の隣接関節に発生した頸椎症患者としました。頸椎固定術後患者の32.8%に、固定した椎体の隣接関節に椎間板症、頸椎症などの隣接関節障害が発生すると言われています1)。隣接関節障害は頸部痛や頸椎の機能低下を引き起こします。DCFトレーニングは頸部痛や頸椎の機能低下の改善に有効であることが報告されています2)。近年、頸部痛に対してPBUを用いたDCFトレーニングの有効性が明らかになっています3,4)。一般的にPBUは、腹部筋トレーニングに用いられます。PBUを用いることで視覚的なフィードバックが行え、適切な筋収縮を促すことができます。今回、頸椎症患者に対して、PBUを用いたDCFトレーニングが有効であるかを検討する目的でInterventionは、PBUを用いたDCFトレーニング、Comparisonは一般的な理学療法、Outcomeは頸部痛、頸椎機能、患者報告アウトカムの改善としました。
 

ステップ2.の解説: 検索文献

 最新でより多くの頸椎症に対するランダム化比較試験を抽出するために、PubMed、Cochrane Library、Herbert Open Access Journalsにてキーワード「cervical spondylosis」、Limits;「randomized controlled trial・published in the last 3 years」として検索した結果、44件がヒットしました。介入内容から本症例のPICOに近く、介入可能な論文と判断したものを採用しました。
 

ステップ3.の解説: 検索文献の批判的吟味

 対象の適応基準と除外基準は明確に記載されていました。対象患者数は20名ずつランダムに振り分けられており、割り付けの方法も明確に記載されていました。患者数は、サンプルサイズの計算についての記載がなく、十分でないと判断しました。脱落者は0名であり全ての対象者で解析されていました。盲検化については、盲検化が成されていないことが記載されていました。介入群と対照群の基本属性、測定項目を含めたベースラインの値には差がなかったことから、両群は同等の母集団であると判断しました。統計解析はShapiro-Wilk検定にて正規性を確認した後、群間比較と群内比較が行われていました。本来であれば、反復測定の二元配置分散分析にて交互作用の有意性を確認した後、多重比較検定を行うことが望ましいと思われますが、二元配置分散分析の交互作用の有無についての記載はありませんでした。しかし、各測定項目の多重比較(介入後の群間比較および群内比較)のp値が0.01以下であり、十分な差を検出できる有意確率であることから、多重比較のみでも問題ないと考え、統計的解析方法は妥当であると判断しました。また、論文では検討されていなかった効果量(Cohen‛s d)を、両群の介入後の頸部VASの平均値と標準偏差を用いて算出したところ、1.00(0.80以上で大きい効果量)と大きな効果であることを確認しました。よって、採用した論文の結果と考察は、頸椎症に対するDCFトレーニングの効果を推奨するものとして、論理的整合性が認められていると判断しました。
 

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 採用した論文の適応基準は、頸部痛とめまいを有している頸椎症患者としていますが、本症例にはめまいの症状はありませんでした。しかし、それ以外の基準は適合しており、禁忌条件などリスクとして顕著なものはありませんでした。PBUを用いたDCFトレーニングは、当院でPBUを所有していたこと、運動方法が簡便であることから、当院においても実施可能でした。介入計画については主治医の許可を得て、これらの情報を本症例に伝え、同意を得た上で実施しました。
 

ステップ5.の解説:適用結果の分析

 今回、PBUを用いたDCFトレーニングを、頸椎前方固定術後に発生した頸椎症(隣接関節障害)患者に対して適用したところ、頸部痛や患者報告アウトカムに改善を認めることができました。採用論文では、特殊な装置5)を用いた頸部運動感覚の測定、めまいについて評価をしていましたが、特殊な装置が入手困難であったこと、本症例はめまいを有していなかったことより、本症例の評価項目はVAS(頸部痛、肩甲帯周囲痛)、CCFTに加えて、頸部ROM、NDI、JOACMEQとしました。CCFTは顎を引くように上位頸椎を屈曲することで、頸部深層屈筋群を収縮させ、その強度を後頭下に挿入したPBUによってフィードバックするテストです6)。筋の強さではなく正確性と持久性が重要視されます。
 DCFは頸長筋と頭長筋から構成され、姿勢制御と頸椎安定化に重要な役割を果たします7)。DCFの機能低下は頸部痛の原因のひとつであることが報告されています8)。今回、DCFをトレーニングすることで、頸椎の姿勢制御能力と安定性が増加し、頸部痛、頸椎機能、患者報告アウトカムの改善に繋がったと考えます。評価項目の頸椎VASやNDIはそれぞれの臨床的最小重要変化量9,10)を上回る改善を示しました。今回、本症例を通じて、PBUを用いたDCFトレーニングは、頸椎前方固定術後に発生した頸椎症(隣接関節障害)患者の頸部痛や患者報告アウトカムの改善に有効である可能性が示されました。
 
  1. Xia XP, Chen HL, et al.: Prevalence of adjacent segment degeneration after spine surgery: a systematic review and meta-analysis. Spine. 2013; 38: 597-608.
  2. Falla D, Lindstrøm R, et al.: Effectiveness of an 8-week exercise programme on pain and specificity of neck muscle activity in patients with chronic neck pain: a randomized controlled study. Eur J Pain. 2013; 17: 1517-1528.
  3. Iqbal ZA, Rajan R, et al.: Effect of deep cervical flexor muscles training using pressure biofeedback on pain and disability of school teachers with neck pain. J Phys Ther Sci. 2013; 25: 657-661.
  4. Jull GA, Falla D, et al.: The effect of therapeutic exercise on activation of the deep cervical flexor muscles in people with chronic neck pain. Man Ther. 2009; 14: 696-701.
  5. Jordan K: Assessment of published reliability studies for cervical spine range-of-motion measurement tools. J Manipulative Physiol Ther. 2000; 23: 180-195.
  6. Chiu TT, Law EY, et al.: Performance of the craniocervical flexion test in subjects with and without chronic neck pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2005; 35: 567-571.
  7. Harrison DE, Harrison DD, et al.: Increasing the cervical lordosis with chiropractic biophysics seated combined extension-compression and transverse load cervical traction with cervical manipulation: nonrandomized clinical control trial. J Manipulative Physiol Ther. 2003; 26: 139-151.
  8. Yip CH, Chiu TT, et al.: The relationship between head posture and severity and disability of patients with neck pain. Man Ther. 2008; 13: 148-154.
  9. MacDowall A, Skeppholm M, et al.: Validation of the visual analog scale in the cervical spine. J Neurosurg Spine. 2018; 28: 227-235.
  10. MacDermid JC, Walton DM, et al.: Measurement properties of the neck disability index: a systematic review. J Orthop Sports Phys Ther. 2009; 39: 400-417.

2019年04月01日掲載

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