EBPTワークシート
第23回「注意障害により歩行自立困難であった片麻痺1症例におけるTrail Walking Exerciseの効果」解説

東京都リハビリテーション病院 廣澤全紀

ステップ1.の解説:PICOの定式化

 課題特異的に歩行練習を実施しながら転倒リスクを軽減する課題が本症例に適応があるかどうかを臨床疑問としてPICOを定式化しました。
 

ステップ2.の解説: 検索文献

 PubMedを用いて,PICOの検索式を全て含めて論文タイトルを検索すると1件も該当しませんでした。そこで,歩行に課題特異的な介入であることを優先し,「walking exercise or gait exercise or walking training or gait training」と多くの論文が該当するように検索ワードを追加しました.これに「fall」を加えた結果,4件が該当しました.今回の論文は,①ランダム化比較対照試験であること,②介入方法が実現可能であること,③転倒の発生率のみならず注意機能を反映する評価項目が改善を認めた点を選択の理由としました.

ステップ3.の解説:検索文献の批判的吟味

 検索論文の批判的吟味として,検討の余地があると考えられた項目について解説します.盲検化[→盲検法(ブラインディング)を参照]は本文に詳細が記載されていませんでした.したがって,対象者,測定者,分析者に介入群であったという先入観などによってバイアスが生じた可能性があると考えられます.患者数は計60名取り込まれていますが,事前にサンプルサイズが算出されておらず,患者数が十分であるかは判断できませんでした.各群1名のみ脱落しており,結果に及ぼす影響は最小限であったと考えられますが,脱落者を含めた統計解析は行われていません.一方で,その他の項目は条件を満たしており,かつ該当論文の中で唯一のランダム化比較対照試験であることから,エビデンスレベルの高い臨床研究であると判断しました.

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 臨床適用の可能性として,検討の余地があると考えられた項目について解説します.まず,今回の論文検索において脳卒中者を対象としたエビデンスレベルの高い論文が該当しませんでした.本論文の対象者は地域在住高齢者であり,臨床像が症例に近いとは言えません.しかし,本論文のアウトカムは脳卒中者において一般的に用いられている評価指標であり,介入の効果判定が可能と考えました.そこで,通常の理学療法時間を確保した上で,20分間のTrail walking exerciseによる介入を付加し,1週間に限定した介入期間で効果判定を行う方針を立てました.上記の介入計画は,リハチームと患者に対して期待される効果と転倒の危険性について十分に説明して同意が得られたため,臨床適用の可能性があると判断しました.

ステップ5.の解説:適用結果の分析

 一症例報告の結果であり,多様な障害を呈する脳卒中患者へ介入を試みる場合は,損傷部位によって異なる高次脳機能や身体機能障害の病態ごとに適応を考慮する必要があると考えます.また,本症例では,14日間の短期間に同じ評価を3回繰り返しており,TMT-Aの数字の配置を覚えてしまうなどの測定バイアスが生じていた可能性があります.また,介入後のフォローアップ期間は7日間のみであり,最終的なアウトカムである転倒の発生が中長期的にどのような経過であったか追跡する必要があり,本症例報告の限界になると考えます.一方でPICOの検索式の結果から反映されるように,注意障害を呈した脳卒中者の転倒リスクを軽減する歩行練習は確立されておらず,本症例報告において一定の効果が認められたことは有意義であったと考えます.

2019年11月20日掲載

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