EBPTワークシート
第25回 「脳卒中片麻痺患者に対するSling Exercise Therapyの効果」

                                                         東京都リハビリテーション病院 佐藤義尚

基本情報

年齢 60歳代
性別 男性
診断名 脳梗塞(左中大脳動脈) 右片麻痺
現病歴 自宅にて意識消失し、急性期病院に緊急搬送。脳梗塞の診断にて保存加療。38病日リハビリ目的に当院回復期病棟に入院。
既往歴 特になし

理学療法評価概略

身体機能
運動麻痺 Brunnstrom stage(Brs) 上肢-Ⅲ、手指-Ⅲ、下肢-Ⅲ
感覚 表在・深部感覚ともに中等度鈍麻
バランス能力 片脚立位時間 右:不可、左:2.2秒
Berg Balance Scale(BBS) 31点
歩行能力 10m歩行時間 22.8秒(四点杖、プラスチック短下肢装具使用、見守り)
高次脳機能
認知機能 Mini-Mental State Examination 27点
注意機能 Trail Making Test part-A(TMT-A) 122.3秒

ステップ1. PICO の定式化

Patient (患者) 脳卒中患者
Intervention (介入) Slingを用いた運動療法
Comparison(比較) 通常運動療法
Outcome (効果) バランス能力、歩行能力

ステップ2. 検索文献

(☑一次情報 ・ □二次情報
検索式 PubMedにて検索式「((stroke) AND balance) AND sling」で検索した。その結果、9件が抽出された。本患者のPICOに近い下記の論文を採用した。
論文タイトル Effect of sling exercise on postural sway in post-stroke patients
著者 Lee JY, Kim SY, Yu JS, Kim DG, Kang EK.
雑誌名 Journal of physical therapy science 2017 Aug;29(8):1368-1371
目的 脳卒中後の患者に対するsling exerciseがバランス能力の改善に効果があるのかを検討すること
研究デザイン Randomized controlled trial
対象 脳卒中後の患者(発症後6ヶ月~1年)18名
介入 sling exercise 6週間、3回/週、30分/回
(背臥位:背部筋と股関節伸展筋促通運動、背部筋とハムストリングスの促通運動、側臥位:背部筋と股関節内転筋促通運動、背部筋と股関節外転運動、腹臥位:肘指示での体幹筋促通運動)
主要評価項目 重心動揺、Modified Barthel index(MBI)、BBS、10m歩行
結果 Sling Exercise群は、重心動揺の改善、歩行速度の改善を認めた。
結論 Sling Exerciseは、通常運動療法と比べ、脳卒中患者のバランス能力を改善させる。

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である (☑ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
□ 盲検化されている (□一重盲検 ・ □二重盲検)
□ 患者数は十分に多い
□ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
□ 統計的解析方法は妥当である
□ 結果と考察との論理的整合性が認められる
 

ステップ4. 臨床適用の可能性

☑ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他:  
 
具体的な介入方針 理学療法介入は、週7回各60分実施し、介入4週間後に再度評価を行った。介入の際、週7回の内、5回各30分はSlingを用いた運動療法を実施した(背臥位:背部筋と股関節伸展筋促通運動、背部筋とハムストリングスの促通運動、側臥位:背部筋と股関節内転筋促通運動、背部筋と股関節外転筋促通運動、腹臥位:肘指示での体幹筋促通運動)。Slingを用いた運動療法実施後、患者より希望があり、担当PT出勤日にはSlingを用いた運動療法を実施した。
注意事項 代償運動による姿勢の崩れ、息を止めることや筋の過剰収縮

ステップ5. 適用結果の分析

 本症例は、採用論文と同様の運動方法で行うSling Exerciseを、理学療法介入期間に採用論文より高い頻度で実施した。介入前後の評価を以下に示す。
 介入初期、本症例は注意障害の影響からか、細かな運動指示は入りにくく、運動の際には全身的な筋の過剰収縮を伴ってしまっていた。そのため、Slingを用いた運動療法の際には、きわめて小さな筋活動で関節運動が生じる程度まで負荷量を軽減したところから開始した。経過の中で、代償運動が生じない範囲で段階的に負荷量を増大していった。本症例自身も目的とした筋の活動、それ以外の筋の不活動を理解し、適切な負荷であると自覚しながらSlingを用いた運動療法を実施することができた。
  介入前 介入後(4週後)
Brs 上肢-Ⅲ、手指-Ⅲ、下肢-Ⅲ 上肢-Ⅲ、手指-Ⅳ、下肢-Ⅳ
片脚立位 不可/2.2秒 3.5秒/18.0秒
BBS 31点 50点
10m歩行 22.8秒
(四点杖/プラスチック短下肢装具)
9.2秒
(T字杖/プラスチック短下肢装具)

第25回「脳卒中片麻痺患者に対するSling Exercise Therapyの効果」 目次

2020年05月01日掲載

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