EBPTワークシート
第26回 「回復期脳卒中患者の運動療法に経皮的末梢神経電気刺激を併用することで痙縮や歩行能力は改善するか」

                                                         済生会東神奈川リハビリテーション病院 中村 学

基本情報

年齢 70歳代前半
性別 男性
診断名 左脳梗塞(大脳基底核部)
現病歴 数日前より右半身の脱力認め、急性期病院へ救急搬送された。MRI上、左内包後脚から視床にかけて梗塞巣あり高気圧酸素療法とリハビリテーションを実施した。急性期病院入院中に右頸動脈に高度狭窄を認めたため、右頸動脈ステント留置術施行した。23病日にリハビリテーション目的で当院回復期病棟へ入棟した。
既往歴 特になし

理学療法評価概略(66病日~70病日)

Fugl-meyer assessment 下肢機能: 26/28点、協調性: 1/6点
Modified ashworth scale 麻痺側膝屈筋2、膝伸筋1+、足底屈筋1
10m最大歩行速度 (MWS) 0.72m/sec(歩数24歩)
歩行率 103.6step/min
麻痺側/非麻痺側ステップ長 39.1±2.4㎝ / 64.4±1.0㎝
麻痺側/非麻痺側ストライド長 100.8±1.6㎝ / 105.7±4.0㎝
Timed up & go test (TUG) 14.8秒
6分間歩行試験(6MWT) 200m

ステップ1. PICO の定式化

Patient (患者) 下肢に痙縮のある脳卒中患者に対して
Intervention (介入) 痙縮筋に対する経皮的末梢神経電気刺激(Transcutaneous electrical nerve stimulation, TENS)を実施した群は
Comparison(比較) プラセボTENSを実施した群に比べて
Outcome (効果) 痙縮が減弱およびバランス能力、歩行能力の改善は得られるか

ステップ2. 検索文献

(☑一次情報 ・ □二次情報
検索式 PubMedにて「Stroke spasticity "transcutaneous electric nerve stimulation"」で検索した結果、計36件が抽出された。その中から本症例の介入後のアウトカム(痙縮spasticity、歩行gait)に適した論文として、下記の論文を採用した。
論文タイトル The effects of exercise with TENS on spasticity, balance, and gait in patients with chronic stroke: a randomized controlled trial.
著者 J Park, D Seo, W Choi, S Lee
雑誌名 Medical science monitor: international medical journal of experimental and clinical research. 2014 Oct 10;20:1890-6
目的 慢性期脳卒中患者の運動療法にTENSを併用することで痙縮の減弱やバランスと歩行能力は改善するか
研究デザイン 一重盲検化、多施設間ランダム化比較試験
対象 34名の歩行可能な慢性期脳卒中患者
介入 TENS併用群:運動療法にTENS(周波数100Hz、パルス幅200μ秒、感覚閾値の90%)を30分併用
Placebo TENS(control)群:実際に刺激をせず、わずかな刺激と説明して運動療法を実施
主要評価項目 1.痙縮:MAS(麻痺側足関節底屈のみ測定)
2.バランス評価指標
・静的バランス:重心動揺速度(mm/s、前後方向と内外側方向)
        速度モーメント(mm2/s)
・動的バランス:TUG(秒)
3.歩行評価指標(歩行速度、歩行率、ステップ長、ストライド長)
結果 各群における介入前後の比較では、TENS実施群で痙縮の軽減、静的および動的バランス指標と歩行評価指標が改善し(p<0.01)、プラセボTENS群においても動的バランスと歩行速度が改善した(p<0.05)
TENS実施群とプラセボTENS群の比較では、TENS実施群の方が有意に痙縮の軽減、静的(前後および内外方向の重心動揺速度)および動的バランス指標や歩行評価指標(歩行率、ステップ長、ストライド長)の改善が認められた(p<0.05)
結論 慢性期脳卒中患者の運動療法にTENSを併用することで、痙縮は軽減しバランスと歩行能力は改善する

ステップ3. 検索文献の批判的吟味

☑ 研究デザインは適切である (☑ランダム化比較試験である)
☑ 比較した群間のベースラインは同様である
☑ 盲検化されている (☑一重盲検 ・ □二重盲検)
□ 患者数は十分に多い
☑ 割り付け時の対象者の85%以上が介入効果の判定対象となっている
□ 脱落者を割り付け時のグループに含めて解析している
☑ 統計的解析方法は妥当である
☑ 結果と考察との論理的整合性が認められる
 

ステップ4. 臨床適用の可能性

□ エビデンスの臨床像は自分の患者に近い
☑ 臨床適用が困難と思われるような禁忌条件・合併症等のリスクファクターはない
☑ 倫理的問題はない
☑ 自分の臨床能力として実施可能である
☑ 自分の施設における理学療法機器を用いて実施できる
☑ カンファレンス等における介入計画の提案に対してリハチームの同意が得られた
☑ エビデンスに基づいた理学療法士としての臨床判断に対して患者の同意が得られた
□ その他:  
 
具体的な介入方針 本症例はStiff knee gait patternを呈しており、介入前の下肢の筋電図検査において、麻痺側遊脚初期に大腿直筋の痙縮を認めたためTENSを実施する筋は麻痺側大腿直筋とした。立位、歩行練習を中心とした運動療法にTENSを併用し、1日の刺激時間上限は60分とした。TENSはイトーESPURGE(伊藤超短波社製)のTENS(コンスタント)モードを使用し、TENSの設定は周波数100Hz、パルス幅300μ秒、感覚閾値以上で不快のない強度とした。歩行練習はトレッドミル歩行トレーニング(免荷なし、速度1.5~2.0km/h)15分と平地歩行トレーニング15分の合計30分を週5回、2週間実施した。
注意事項 紹介した論文の研究対象の基本属性(年齢、身長、体重)は本症例に近いが、病期が異なるため論文の結果がそのまま反映できない可能性がある。またTENSを実施する筋は紹介した論文では内側広筋および外側広筋、腓腹筋だが、本症例では歩行の阻害要因となっていると考えられる大腿直筋に実施するため、痙縮改善による歩行への影響は異なる可能性がある。

ステップ5. 適用結果の分析

評価項目 介入前 介入後(開始2週後)
FMA    
 下肢機能 26/28点 26/28点
 協調性 1/6点 4/6点
MAS    
 麻痺側膝屈筋 2 1+
 膝伸筋 1+ 1
 足底屈筋 1+ 1
MWS    
 10m最大歩行速度 0.72m/sec 1.15m/sec
 歩数 24歩 17歩
 歩行率 103.6step/min 117.0step/min
歩行パラメータ    
 麻痺側ステップ長 39.1±2.4㎝ 50.7±4.1㎝
 非麻痺側ステップ長 64.4±1.0㎝ 68.0±2.7㎝
 麻痺側ストライド長 100.8±1.6㎝ 117.8±6.2㎝
 非麻痺側ストライド長 105.7±4.0㎝ 124.3±6.6㎝
 TUG 14.8秒 12.4秒
 6MWT 200m 295m

第25回「回復期脳卒中患者の運動療法に経皮的末梢神経電気刺激を併用することで痙縮や歩行能力は改善するか」 目次

2020年06月01日掲載

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