EBPTワークシート
第26回 「回復期脳卒中患者の運動療法に経皮的末梢神経電気刺激を併用することで痙縮や歩行能力は改善するか」解説

済生会東神奈川リハビリテーション病院 中村 学

ステップ1.の解説:PICOの定式化

 PICOのうちPatientやOutcomeは臨床での疑問が生じた際にある程度決まっていますが、InterventionやComparisonについてはどういったアプローチがいいのかわからないのがほとんどだと思います。本症例の場合、そもそもなぜTENSなのか?という疑問もあると思います。脳卒中者の痙縮に対する電気刺激として、TENSの他に神経筋電気刺激(Neuromusclular electrical stimulation)もあれば、機能的電気刺激(Functional electrical stimulation)などもあります。STEP1のInterventionが決まらない場合、脳卒中者の痙縮に対する介入アプローチに関するシステマティックレビューやメタアナリシス[→メタ分析を参照]を調べるのも選択肢の一つです。論文の批判的吟味はひとまず保留して、どのような介入アプローチが研究されているのか探すことができます。紹介した論文はMahmoodら1)のシステマティックレビューで採用されており、読んだことがありました。

ステップ2.の解説: 検索文献

 痙縮に対する電気刺激の場合はその治療メカニズムや治療特性もある程度予測してPICOを組み立てます。TENSであれば皮膚や固有感覚に対する感覚刺激の増加による痙縮の改善、NMESであれば痙縮筋の拮抗筋が筋収縮することによる相反抑制の強化による痙縮の改善などという理論背景があります。電気刺激は課題指向型練習に組み合わせると効果的であることから2)、歩行に組み合わせやすい(運動を妨げない感覚刺激の)TENSをInterventionのメインテーマとしました。そこで論文を検索するため検索式は「Stroke spasticity ‘transcutaneous electrical nerve stimulation’」としました。次に検索結果でヒットした論文のうち、臨床で改善したいOutcomeが論文で述べられているかをチェックします。今回採用した論文は痙縮と歩行能力指標を測定しており、PICOそれぞれに応えられる内容かチェックしながら進めました。紹介した論文では機能障害の痙縮だけでなく、バランスや歩行能力指標も測定していましたので採用しています。
 

ステップ3.の解説:検索文献の批判的吟味

 紹介した論文はランダム割り付けの方法など[→ランダム化比較試験(RCT)を参照]は記載されており、プラセボTENSを設定していることから単純盲検化[→盲検法(ブラインディング)を参照]はされています。ベースラインの2群間で左半球損傷者と右半球損傷者の割合が異なっていますが、今回の歩行のパフォーマンスに影響するような内容ではないと推測します。さらに脱落者を予測し、統計学的にも患者数を決めていますが、一方で脱落者を割り付け時のグループに含めて解析する、いわゆるIntention-to-treat(ITT)解析はしていません。よってOutcomeの平均値や標準偏差を参考にしつつも、脱落者は検定に含まれていないため群間に有意差があるかどうかは判断できないと考えます。

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 具体的な介入方針と注意事項参照
 

ステップ5.の解説:適用結果の分析

  介入の結果、10m最大歩行速度※1や6分間歩行試験※2などの歩行パラメータ評価やMASは改善しました。(※1:10m最大歩行速度のMinimal detectable change(MDC)[→MDC95を参照]は0.13m/sec、※2:6分間歩行試験のMDCは34.4m)特に歩行速度については歩幅(ステップ長やストライド長)と歩行率に影響を受けますが、麻痺側ステップ長や歩行率の改善が歩行速度向上に寄与しているといわれています。特にTENSによる効果は遊脚初期に二重振り子運動障害が改善したことによる麻痺側ステップ長の増大に寄与していると考えられます。本症例は近隣への外出が必須でしたので、6MWTの結果から屋外歩行能力も向上したことでさらにモチベーションも上がったようでした。本症例には操作水準期を設けていないため、歩行練習を継続したことによる効果も加味した評価結果であることを考慮する必要があります。またMDCはあくまで誤差の範囲を超えた真の変化を反映していますので、真の変化に伴って本症例の目標達成ができたか(近隣への屋外歩行が自立できたか)の吟味も必要になります。
  1)    A Mahmood, SK Veluswamy, A Hombali, et al. Effect of transcutaneous electrical 
          nerve stimulation on spasticity in adults with stroke: a systematic review and meta-
          analysis. Archives of physical medicine and rehabilitation, 2019, 100.4: 751-768.

  2)   SSM Ng, CWY Hui-Chan. Transcutaneous electrical nerve stimulation combined
          with task- related training improves lower limb functions in subjects with chronic
          stroke. Stroke, 2007, 38.11: 2953-2959.

2020年06月01日掲載

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