EBPTワークシート
第31回 「パーキンソン病患者に対する理学療法の効果」解説

埼玉県総合リハビリテーションセンター 牧野 諒平
 
 

ステップ1.の解説:PICOの定式化

Patient:パーキンソニズムを除外した特発性Parkinson's disease(以下PD)患者と設定しました。
Intervention:PDの症状は振戦、筋強剛、無動、姿勢保持障害などの運動症状と自律神経症状、睡眠症状、精神症状など多岐にわたります。L-dopa製剤やドパミンアゴニストによる服薬治療が主として用いられており、また、患者が主体的に参加できる治療法としてリハビリテーションが注目されています1)。先行研究ではリハビリテーション介入を行ったPD患者は、対照群と比較して歩行速度の改善、歩行耐久性の向上、バランス機能の向上が認められたと報告されています。以上のことから、Interventionには服薬治療と理学療法の併用と設定しました。
Comparison:服薬治療のみ
Outcome:歩行能力、Unified Parkinson's disease Rating Scale (UPDRS) partⅢ、バランス機能としました。

ステップ2.の解説: 検索文献

検索エンジンとしては、PubMedを使用しました。検索ワードとしては「"physical therapy"」 「"parkinson's disease"」「"UPDRS"」「"a randomized controlled trail"」を選択しました。抽出された中から、本症例のPICOに合致する論文を採用しました。

ステップ3.の解説:検索文献の批判的吟味

 採用論文のデザインはランダム化比較試験クロスオーバー試験)です。Group AとGroup Bの2群に分ける作業は、データ解析に関与しない研究者によるブロックランダム化手順が使用されました。各期間における理学療法評価は、グループの割り当てを知らされない研究者によって実施されました。
 採用論文のメインアウトカムであるSickness Impact Profile(SIP-68)に基づく分析では、十分な検出力[→検定力を参照]を得るには最低60人のサンプル数[→サンプルサイズを参照]が必要であることが示されており2)、採用論文でも68名が対象となっています。介入期間中の脱落者については、ベースライン68名(100%)、6週後65名(96%、3名脱落)、12週後60名(88%、8名脱落)、フォローアップ24週後57名(84%、11名脱落)と明記されています。
 ベースラインにおける各評価項目の群間比較はマンホイットニーU検定[→Mann–WhitneyのU検定を参照]を用いています。グループと期間の主効果、およびグループと期間の交互作用の検証には反復測定[→反復測定分散分析を参照]による二元配置分散分析[→2元配置分散分析を参照]を用いています。その後、それぞれpost hoc検定を用いて統計処理を行っています。①初めの6週間(t0~t6の期間)に関するグループ間の対比検定を行っています。②t6~t0とt12~t6の期間における変化量について、介入群と対照群の差をウィルコクソン符号順位検定[→Wilcoxonの符号順位検定を参照]を用いて解析しています。③両群のベースラインからフォローアップまで(t24~t0)の変化をウィルコクソン符号順位検定を用いて解析しています。また、統計処理に使用されたソフトウェアが明記されています。
 採用論文の結果と考察から、通常の服薬治療のみと比較して、服薬治療と理学療法の併用はパーキンソン病患者の機能改善に有用であるという論理的整合性が認められると判断しました。

ステップ4.の解説:臨床適用の可能性

 本症例は1)安定した服薬、2)Hoehn&Yahr stage、3)UPDRS part Ⅲスコア、4)独歩可能、 5)年齢、6)Mini-Mental State Examination score、7)深刻な合併症、8)過去2か月の理学療法未介入といった採用論文の基準を満たしています。当センターではブラッシュアップ入院として1日に理学療法、作業療法、言語聴覚療法を合わせて120分のリハビリテーションを週6回、約4週間の介入を行っています。採用論文よりも介入期間は短いため効果が限定されることは予想されましたが、当センターでもパーキンソン病患者に改善の可能性があると判断し、実施に至りました。

ステップ5.の解説:適用結果の分析

 本症例は通常の服薬治療に加えて、1日に40分の理学療法を週6回、4週間の介入を実施しました。理学療法とは別に40分の作業療法、40分の言語聴覚療法を同様の頻度で実施しています。ベースラインと4週間後の評価結果を比較して、UPDRS partⅢの合計得点が8点改善、10m歩行試験による歩行速度が0.9秒低下、6分間歩行試験が80m改善を認めました。また、Berg Balance Scale(BBS)、FIMによるADLスコアの改善を認めました。
 パーキンソン病患者に対する理学療法のシステマティックレビュー・メタアナリシス[→メタ分析を参照]では、理学療法介入によって歩行速度、歩行耐久性、BBS、UPDRS総得点・ADLサブスコア・運動サブスコアの改善が報告されています3)。それ以外の介入研究でも歩行速度の改善4)、歩行耐久性の向上5)、バランス機能の向上6)などが報告されており、一定期間のリハビリテーション介入は効果的である可能性があります。
 唯一低下がみられた10m歩行試験について、入院時から快適速度で8.1秒と比較的歩行速度は保たれており、理学療法介入の効果が得られにくい状態であった可能性があります。
 症状の進行によって多くのPD患者は転倒を経験し、外出を控えるなど活動性が低下、さらに症状が進行するという悪循環に陥ります。採用論文ではアウトカムに入っていませんでしたが、理学療法介入によるBBSやFIMの改善はPD患者のQOL向上に重要であると考えられます。
1) 「パーキンソン病診療ガイドライン」作成委員会. パーキンソン病診療ガイドライン2018.
  東京: 医学書院, pp. 87-89.
2) de Goede CJ, Keus SH, et al.: The effects of physical therapy in Parkinson’s disease
  a research synthesis. Arch Phys Med Rehabil. 2001; 82: 509-515.
3) Tomlinson CL, Patel S, et al.: Physiotherapy intervention in Parkinson's disease:
  systematic review and meta-analysis. BMJ 2012; 345.
4) Fisher BE, Wu AD, et al.: The effect of exercise training in improving motor
  performance and corticomotor excitability in people with early Parkinson's
  disease. Arch Phys Med Rehaabil 2008; 89; 121-1229.
5) Schenkman M, Cutson TM, et al.: Exercise to improve spinal flexibility and function
  for people with Parkinson's disease: a randomized, controlled trial.
  J Am Geriatr Soc 1998; 46: 1207-1216.
6) Goodwin VA, Richards SH, et al.: An exercise intervention to prevent falls in people
  with Parkinson's disease: a pragmatic randomized controlled trial.
  J Neurol Neurosurg Psychiatry 2011; 82: 1232-1238.

2021年01月04日掲載

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