傾向スコア propensity score

 1983年にRosenbaumとRubinによって考案され,近年,大規模な観察研究で使われるようになった統計解析の手法です.まだ確立した方法はないため,様々な手順が考案されています.
 理論は非常に難しいのですが簡単にいえば,複数の交絡因子を調整する手法です.一つの例を挙げましょう.1年後のADL(FIMの得点)というアウトカムに対して,{しゃがみ込みができる・できない}という影響因子を仮定したとします.しかし,しゃがみ込みのできない者に,高齢者,男性,下肢筋力の弱い人が多い場合,しゃがみ込みのできる人との背景因子が異なりますので,ADLは単純比較できません.
 そこで,しゃがみ込みができる・できないを目的変数(従属変数),年齢,性別,下肢筋力を説明変数(独立変数)として多重ロジスティック回帰分析を行い,予測確率(0~1の範囲をとる数値)を算出します.この予測確率は年齢,性別,下肢筋力という交絡因子群を一本化した,いわば交絡因子の総合得点に相当します.これが傾向スコアとなります.
 次に,しゃがみ込みができる人と,できない人で傾向スコアを比べて,似通った人たちでグループを作ります.例えば0~0.2のしゃがみ込みができる人とできない人,0.2~0.4のしゃがみ込みができる人とできない人,…,0.8~1のしゃがみ込みができる人とできない人というようにマッチングします.傾向スコアが0.2未満の人は,しゃがみ込みができる人だけとか,傾向スコアが0.8以上の人は,しゃがみ込みのできない人だけというときは,傾向スコアの範囲が0.2~0.8となる人だけの対象でマッチングします.その後に,改めて{しゃがみ込みができる・できない}という群分けで,FIMに差があるかどうかを検定します.マッチングをしますので,かなり多くの対象者数が必要となります.
 これは傾向スコアによるマッチング法ですが,層別解析する方法や,傾向スコアそのものを多変量解析の説明変数(独立変数)として解析に含める方法もあります.
EBPT用語集の参考文献はこちらのページ下段に掲載しています。ご参照ください。