イラストで見るEBPTの実践
第5回 「論文を活用して患者の予後を探ってみよう!」

弘前大学大学院 保健学研究科
対馬栄輝

イラスト執筆:
大阪電気通信大学 総合情報学部
デジタルアート・アニメーション学科
しもはたふゆ

2. 情報の吟味にチャレンジ!

情報の吟味にチャレンジ!
先輩PT:
ちょっと待ってください。これは、前向き観察的研究で得られた結果であって、エビデンスレベルはそれほど高くありません。まずは論文の批判的吟味をすることが必要です。そうしたEBPTの実践手順を踏んでから、限界を押さえた上で解釈しないと危険です。
ここでは、あくまで説明のための例として挙げていることに注意して下さい。
新人PT:
そうでした。基本的なことを忘れていました。とりあえず、文献の批判的吟味を行って、限界を押さえたという仮定で進めているわけですね。
先輩PT:
2×2分割表からは様々な情報を得ることが出来ます。まずは、以下の表を見てください。
2×2分割表
新人PT:
何やら、面倒な用語が並んでいますね。でも、感度特異度オッズ比という用語は聞いたことがあります。
先輩PT:
まずは、これらの用語の解説をしましょう。感度と特異度は、臨床検査の信頼度を表す指標です。一般に、ある病気を診断するために検査を行ったとき、病気であるという陽性を示す割合が「感度」、病気ではないという陰性を示す割合が「特異度」と呼ばれています。ここでは、HDS-Rによって、歩行可能という陽性を示す割合を感度、歩行不可能という陰性を示す割合を特異度と決めておきましょう。
感度:表のa/(a+c)で求めます。実際に歩行可能だった者のうち、HDS-Rが7点以上、つまり歩行可能と予測された者の割合を表します。求めた数値に100を乗じて百分率(%)で表すこともあり、この例では感度93%となります。
2×2分割表
特異度:感度の逆の意味で、表のd/(b+d)で求めます。実際に歩行不可能であった者のうち、HDS-Rで6点以下、つまり歩行不可能と予測された者の割合を表します。特異度は73%となっています。
2×2分割表
的中精度:表の(a+d)/n(n=対象者総合計人数)で計算します。歩行可能者と不可能者の両方について、どれくらい正しく予測できたかの割合です。
2×2分割表
陽性・陰性的中率:検査の側から見た感度・特異度のようなものです。HDS-Rが7点以上であった者のうち、実際に歩行可能となった者の割合が陽性的中率PPVです。逆に、HDS-Rが6点以下であった者のうち、実際に歩行不可能となった者の割合が陰性的中率NPVです。
2×2分割表
オッズ比:2群の比較において、ある事象の起こりやすさを表す指標です。この例では33.9ですから、歩行可能者は歩行不可能者に比べて、HDS-Rが7点以上である可能性が33.9倍であることを意味します。オッズ比が1のときは2群を判別する指標として役に立たず、1よりも大きいほど、または1よりも小さいほど、2群を判別する指標として有効となります。
2×2分割表
陽性・陰性尤度比:まとめて尤度比と呼びます。陽性尤度比LR+は感度/(1-特異度)で、陰性尤度比は(1-感度)/特異度で求めます。尤度比の計算式を見ればわかる通り、感度と特異度を利用しています。感度と特異度が高ければ陽性尤度比は大きくなり、陰性尤度比は小さくなります。陽性尤度比LR+は1よりも高いほど、陰性尤度比LR-は1よりも小さいほど、精度の高い検査法を意味します。表では、陽性尤度比が3.44、陰性尤度比が0.10ですね。一般的に陽性尤度比が5以上あれば良い検査法といわれます。
2×2分割表
これらの数値の計算は、全く暗記する必要はありません。簡単に計算できるExcelファイルがwebで配布されていますので活用してください。

第5回 「論文を活用して患者の予後を探ってみよう!」 目次

2017年12月19日掲載

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