第7回学術大会 特別講演Ⅱ

これから迎える高齢社会と理学療法の向き合い方!

人生100年時代の医療・介護
~アフターコロナ/ウイズコロナを踏まえて~ 

江崎 禎英
経済産業省 商務・サービスグループ 政策統括調整官
厚生労働省 医政局 統括調整官 内閣官房 健康・医療戦略室 次長

略 歴
東京大学 教養学部 教養学科 国際関係論 卒業
平成元年  通商産業省に入省。英国留学、EU(欧州委員会)勤務 (略)
平成29年 商務・サービスグループ政策統括調整官及び内閣官房健康・
      医療戦略室次長に就任。
平成30年 厚生労働省医政局統括調整官に併任

資 格
合氣道六段・師範

活 動
岐阜大学客員教授(学長特別参与)

書 籍
「社会は変えられる ~世界が憧れる日本へ~」(国書刊行会)

講演要旨
今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、これまでの常識を問い直す重要な契機になると思われる。現行の日本の医療は、基本的に来院した患者だけを診察・治療するというサービス体系が維持されているため、日々の血圧や体重の変化、食事や運動の状況といった日常的な生活の管理・指導が必要な生活習慣病や老化に伴う慢性疾患には適さない体系になりつつあった。こうした状況下で新型コロナウイルスが発生したため、感染を恐れた患者は医療機関に行かなくなり、定期的な治療や指導ができなくなるとともに、医療機関の経営状況が急速に悪化しつつある。
日本の社会保障制度は、戦後復興・経済成長期に基本設計がなされており、「国民皆保険制度」は、結核に代表される感染症が死因の上位を占めていた時代に整備されたものである。その後、経済成長に裏打ちされた社会保障の拡充や国民皆保険に支えられた先進的な医療技術の導入・普及は、結果的に、自立して生活できない虚弱なお年寄りを大量に生み出すことになった。経済が豊かになり誰もが健康で長生きすることを望めば、社会は必然的に高齢化する。我々が取り組むべきは、単に財政逼迫に起因する社会保障制度の見直しに止まらず、人口構造の変化や主たる疾患の性質の変化を踏まえて「社会経済システム」そのものの見直しを行うことである。
「人生100年時代」と言われる今日、如何に最期まで幸せに「生ききる」かが重要なテーマであり、誰もが夫々の年齢や体力に応じて社会の一員としての役割を果たすことが出来る「生涯現役社会」を構築することが求められる。そのためには、いわゆる「生産年齢」の段階から、経営者や従業員に健康管理への取組みを促すとともに、年齢が進むにしたがって多様化する「健康需要」に対応するためのサービスを創出し、地域資源を活用しながら地域の実情にあった供給体制を整えていくことが必要である。特に、老化や生活習慣に起因する疾患では、早期発見による予防や進行抑制が重要であり、食事や運動管理、メンタルケアも含めた総合的な対応が求められる。
人生100年時代の医療・介護では、「病気にならないよう健康管理に努め」、「仮に病気になっても重症化させず」、「治療や介護が必要になっても社会から切り離さない」ことが基本となる。こうしたサービスの提供には、公的保険だけでなく、民間による公的保険外サービスの充実が不可欠となる。また、生涯を通じた健康医療介護情報システムの構築なども必要である。これら一連の取り組みを通じて、超高齢化社会のあるべき社会経済システムを再構築し、新たな産業群を育成することが、時代の転換期にある我が国社会の課題である。
 

~企業における理学療法士の予防活動・実践~

山崎 重人
マツダ株式会社 マツダ病院 療法士長

略 歴
平成元年 国立病院機構 呉医療センター附属ハビリテーション学院 卒業
  (略)
平成14年 マツダ株式会社 マツダ病院 現在に至る

資 格
理学療法士免許 平成元年取得
専門理学療法士( 運動器 )平成19年取得
作業管理士 平成27年取得

活 動
(公社)日本理学療法士協会産業推進委員会委員、 (公社)日本理学療法士協会産業理学療法部門運営幹事、 日本リハビリテーション医学会会員
世界理学療法連盟総会(於:スイス)第1回サブGr会議登壇(令和1年)、(公社)日本理学療法士協会産業理学療法部門代表運営幹事(平成25年~令和1年)

論文・書籍
1)肩関節の理学療法-肩関節周囲炎の理学療法において必要な知識.理学療法の臨床と研究, 25:25-30, 2016
2)産業保健分野における理学療法の現状と展望. 理学療法学, 44:394-398,2017
3)産業保健分野における理学療法の現状と展望. 日職災医誌, 66:341-345,2018
4)内山 靖,他 編 : 標準理学療法学 専門分野 理学療法評価学, 医学書院,408-409. 2019

講演要旨
 我が国において企業及び企業病院に所属している理学療法士数は、極めて少なく、産業保健領域という新しい領域での理学療法士の専門性発揮に可能性は感じているものの、踏み込める状況にないのが現状である。私は、2019年に参加する機会を頂いた世界理学療法士連盟総会(於;スイス・ジュネーブ)の第1回サブグループ会議で、我が国における産業保健領域への挑戦・展望の1つとして『高齢労働社会への貢献』があり、定年後の再雇用者の身体的特性と職場とのマッチング(身体的特性に職場を適応させる)に理学療法士が関わり、日本の労働人口を支える考えを持ち合わせていることを発信した。
 私が所属するM社は、段階的に定年延長制度の導入が予定されている企業であり、現在は60歳が定年年齢であるが、今後、60歳以降も継続的に働ける職場づくりに向け、「健康で長く働ける工程の実現」に共創しだしている。現状では、全社的な共創ではなく、特定の部署との共創であるが、定年が自分事化となる50歳以上の労働者を対象に、「体の自己チェック方法および自己管理方法」の動画を作成・提供し、該部署の控室で流していただく運用を実践している。独自の案であるが、理学療法士から発信できた取り組みとして、効果とともに会社内で水変展開されることを期待している。
 また共創の最終的目標を、身体的特性からの適切な職場選択・配置基準の数値化および作成・展開としていることから、この目標に理学療法士の専門性が活かされ、関与できることを嬉しく感じている。具体的には、1)工場の作業における負荷の可視化、2)体への過負荷要因の分析と回避、3)過負荷にならない動作設定、4)負荷軽減(予防)のためのツール使用・器具選定、5)健康管理、と長年培われてきた会社内の経験値を数値化・可視化することから取り組んでおり、次世代が「健康で長く働ける工程」の実現を目指している。
本格化するのはこれからの活動であるが、今回紹介する内容が、理学療法士の「高齢労働社会との向き合い方」の一助になれば幸いである。