2022.04.27

第6回日本栄養・嚥下理学療法研究会の特別講演でQ&Aについて

会員各位

平素より当研究会へのご協力心より感謝申し上げます.

第6回日本栄養・嚥下理学療法研究会学術大会大会長及び本研究会広報担当の鈴木裕也と申します.


この度,
2022年2月19日に行われました第6回日本栄養・嚥下理学療法研究会学術集会での特別講演

「オートファジー機能からみたサルコペニアに対する運動療法と栄養療法の提言」

東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院教授   佐久間 邦弘 先生


の講演内での多数の質問があり,多くの反響がありました.佐久間先生のご厚意で質問に対する回答をいただきましたので,佐久間先生の許可を得てQ&A形式でHP上で公開させていただきます.

参加された皆様方の参考にしていただければ幸いです.


*なお,講演内容に関しては,録画・オンデマンド配信はしておりませんのでご了承ください.
*質問は謝辞等も含まれていましたが,今回は質問のみ抜粋し,一部表現がわかりにくいものに関しては,表現を修正していることもご了承ください.

Q1.
大腸癌抑制のための運動は、有酸素運動、筋力トレーニング共に有効でしょうか?どちらが効果的で合った等あれば教えてください。

A1.
→大腸癌抑制のための実験はマウスでのみ行なっています。ヒトでの検証は、運動で血中のSPARCが増えるかどうかという実験のみ実施しています。ヒトの自転車エルゴメーター運動 (30分)でSPARCが血中に増えます。我々は検証していませんが、筋トレでも増えるのではないかと予想します。ただ総仕事量の大きさに比例してSPARCが増えるという現象だと予想します。


Q2.
マイオカインについてです。まず維持期でもレジスタンスや有酸素運動などの負荷は結構かけることができます。筋細胞由来のIL-6は、NK活性を高める作用が以前より知られています。現在のコロナ禍において、高齢者への運動負荷は筋肥大と感染予防の2つの有効性があると思いましたが、如何でしょうか?

A2.
→これについては完全に同意します。ただ『筋細胞由来のIL-6は、NK活性を高める作用が以前より知られている、、、』というのは初めて聞きました。こういう証明を厳密にする場合には、実験動物を用いた丁寧な検証が必要なはずですが、本当にこのことはきちんと証明されていますか?よく分かっていない臨床医師が、緩い感じで国内の読み物に書いてある程度の内容で無いことを祈ります。


Q3.
オートファジーを活性化させる最適な運動強度や内容は明らかになっているのでしょうか?

A3.
→これについてはヒトを用いた検証は不可能です。なので実験動物レベルでの検証の有無ということになるのですが、おそらくそのようなことを意図した研究があるのではないかと思います。私自身の不勉強のせいで調べられていません。少しお時間をください。調べてみます。


Q4.
食事制限をして、変性ミトコンドリア等のゴミを排除するとのことでしたが、食事制限をするタイミングや開始する基準などはございますか?

A4.
→食事制限のタイミングについての質問ですが、おそらくこういう基礎的な検証はなされていません。僕の個人的な意見ですが、食事制限のタイミングで変性ミトコンドリア量は規定されないと思います。食事制限をすれば減るし、タイミング (朝、昼、夜)が大きな問題ではないと予想します。

 
Q5.
重症心身障害児・者 (発達の段階で運動が元々少ない)の細胞内は、高齢者の細胞内に変性たんぱく質や変性ミトコンドリアの異常沈着があるのと同じような状況でしょうか?よろしくお願いしたします。

A5.
→この重症心身障害児・者のバイオプシー筋肉を文献検索で調べたことが無いので、はっきりしたことは言えません。ただ運動が元々少ないという状況であれば、細胞内に変性たんぱく質や変性ミトコンドリアの異常沈着が普通に起こると思います。

Q6.
ステロイド治療したケースはどのように考えた方がよいでしょうか?(COPDやIP・悪液質など)

A6.
→少し質問の意図がわかりませんが、ステロイドがCOPD患者のユビキチンープロテアソーム経路、オートファジー経路、マイオスタチン経路に影響を及ぼすのではないかという質問でしょうか?もしそれでしたら即答できません。COPDに限らず、通常状態でもステロイドによるユビキチンープロテアソーム経路、オートファジー経路、マイオスタチン経路の作用について私が調べられていません。ただこのようなステロイド、抗ガン剤、薬というのはもちろんこれらの経路に影響を及ぼす可能性があります。
私がお示ししたのは、そういった要因を考慮しないケースになります。


Q7.
栄養補充に関しては、タンパク質やアミノ酸に偏らずバランスの取れた食事が有用との解釈でよろしいでしょうか?認知機能低下に対してもWHOのガイドラインでも地中海食が限定的ではありますが、推奨されているのも、あくまでバランスの良い食事を推奨するということなのかと解釈しておりますが.

A7.
→認知機能低下については専門外ですが、とにかくバランスが取れた食事というのが有用だと思います。あらゆる生命体にはホメオスタシス (恒常性)という機能が備わっており、これを逸脱すると間違いなく不調になります。何かを足せば、何かを減らせばというような文言がネット上で踊りますが、基本的にそれらはガセネタだと私は解釈しています。バランスが本当に大事です。
 
Q8.
食事制限をすることが重要ということでしょうか?

A8.
→かなり断定的な質問でどう回答していいのか悩みます。栄養状態に問題のない一般の高齢者であれば、もちろん食事制限 (10-15%程度)が推奨されます。それとリハビリがそれほどできていない寝たきりの患者も、栄養を少し減らした方が良いのだろうと思います。もともと低栄養の患者さんには、食事制限を推奨するつもりはありません。


Q9.
マイオスタチンについて、CKDは過剰産生が問題となりますが、何らかの治療戦略はございますか?

A9.
→言葉足らずで申し訳ありません。マイオスタチンが増加するのはCKDのモデルマウスのお話ですので、実際の患者さんで本当に骨格筋内のマイオスタチンが亢進しているのかどうかについてまだわかっていません。様々な筋疾患に抗マイオスタチン薬を投与する取り組みが、10年以上前から精力的に行われているのですが、あまりうまくいっていない印象です。


Q10.
位相角について、筋内脂肪含む骨格筋の質的なマーカーとしての研究も盛んですがご見解をお願いします。

A10.
→この位相角については、私自身あまり知識がありません。もちろん筋肉内脂肪蓄積を反映しうるものであるかもしれませんが、筋肉内の脂肪量を調べる他の方法 (インピーダンスやMRI、CT)での判定とどれくらいのズレがあるのかについて気になるところです。

Q11.
運動効果について筋蛋白合成と同時に、分解抑制に関する抗炎症作用も期待した運動と栄養の相対的な研究も重要と思いますがいかがでしょうか?

A11.
→その意見におおかた同意します。ただ少し気になるのは、運動による抗炎症作用の証明レベルは意外に低いと前々から思っています。臨床医師が日本語の総説でこれみよがしに書いていますが、果たして本当のことでしょうか?運動することによって、理由はわからないけど患者の血中IL-6、TNF-αが減少する程度の証明ではないでしょうか?具体的に運動による何がどう働いて、抗炎症作用をもたらすのかについてより厳密な証明論文があれば教えてほしいです。
 
Q12.
「食事制限」という時、何を基準にしているのでしょうか。BEE (基礎代謝量)でしょうか。私は一般急性期病棟で働いており患者さんはほぼ全員高齢者ですが、食事制限が必要な患者さんがいる、というのがなかなかイメージできずにいます。

A12.
→うまく伝わらなかったと思います。栄養状態に問題のない一般の高齢者であれば、もちろん食事制限 (10-15%程度)が推奨されます。ただ急性期病棟であれば、患者の状態 (生死)が優先されるので、栄養状態がどうこうという議論がそもそも必要ないと思います。患者さんの状態が良くなるように適宜栄養を調整するということしかできないのが、急性期だとイメージします。

Q13.
10%食事制限とは必要栄養量に対して10%減で提供するということでよろしいでしょうか?

A13.
→そのとおりです.栄養状態に問題のない一般の高齢者であれば、食事制限 (10-15%程度)が推奨されます。リハビリがそれほどできていない寝たきりの患者も、栄養を少し減らした方が良いのだろうと思います。入院患者のすべてに、10%の食事制限を一律やるべきだという主張はしていないことにご留意ください。


Q14.
食事制限でオートファジーの機能不全の影響を抑制できるとのことですが、血中のアミノ酸濃度低下による筋蛋白合成低下は影響しないということでしょうか?

A14.
→血中のアミノ酸濃度低下により筋蛋白合成低下が起こるなら願ったり叶ったりではないでしょうか?もともとそうなるからこそ、筋蛋白合成を上げるためのエネルギー源として、筋肉内の変性タンパク質や機能不全ミトコンドリアを分解処理して使おうとなるわけですので、、、


Q15.
臨床ではグルココルチコイド (いわゆるステロイド)を短期的に大量投与する症例や、長期的に内服する症例がいます。その場合のpathwayの変化について明らかになっている知見がありますでしょうか?

A15.
→ご質問ありがとうございます。グルココルチコイドで筋萎縮が起こるのは確かなのですが、その際にどのpathwayをメインで使用するのかについて僕が正確に理解しておりません。少し調べてみます。貴重なご質問ありがとうございました。



以上になります.
講演録画やオンデマンド配信は行っておりませんので,学術集会に参加された方のみ講演内容をご存じかと思いますが,皆様方のご参考になれば幸いです.