脳卒中患者の課題特異的歩行と筋力訓練の効果について:無作為化比較対照試験結果より

Sullivan KJ, Brown DA, Klassen T, Mulroy S, Ge T, Azen SP, Winstein CJ: Effects of Task-Specific Locomotor and Strength Training in Adults Who Were Ambulatory After Stroke: Results of the STEPS Randomized Clinical Trial. Physical Therapy. 2007; 87: 1580-1602.

PubMed PMID:17895349

  • No.0910-3
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2009年10月9日

【論文の概要】

Background and Purpose

脳卒中患者の歩行訓練にトレッドミルを使用することはあるが、体重支持に関係なくトレッドミル歩行は歩行能力を改善するとした根拠に矛盾があるとFoleyら[1.]はレビューをしている。下肢の繰り返し運動である抵抗負荷課題(下肢トレッドミル歩行)が歩行速度と距離を改善すると仮説を立てた。もう1つの仮説は、トレッドミル歩行と中等度強度の筋力強化を組み合わせたプログラムが歩行を改善するとした。

研究目的は、6週間で週4回の中等度強度の課題特異的歩行訓練あるいは筋力訓練を24回行い、筋力訓練効果(Strength Training Effectiveness Post-Stroke:STEPS)のRCTによる仮説検証をするものである。

Method

調査は3つの州(カリフォルニア、イリノイ、カナダのブリッイシュコロンビア)の施設で、高血圧、痙性抑制剤服用などの患者を除外した歩行が困難な外来患者284名で行われ、グループは、歩行速度(重度0.5m/s、中等度0.5~1.0m/s)と運動麻痺で分類した。理学療法臨床研究ネットワーク研修(Physical Therapy Clinical Research Network:PTClinResNet)を終了した理学療法士が、単一盲検法で対象者の基本的評価(身体機能ど活動、ICF)を行った。歩行は快適、最速と6分間歩行距離とし、併せて下肢運動機能、Berg Balance Scale(BBS)、SIS-16、SF36、両側(股、膝、足)の下肢等尺性ピークトルク値も測定した。

訓練の介入は、麻痺側下肢筋力訓練に、体重支持歩行(BWSTT)、下肢エルゴメータ(CYCLE)、下肢漸増抵抗訓練(LE-EX)と、疑似の上肢エルゴメータ(UE-EX)の4つを実施した。参加者は、初回身体機能の測定後、BWSTT/UE-EX、CYCLE/UE-EX、BWSTT/CYCLE、BWSTT/LE-EXの組み合わせを隔日で行った。BWSTTは、トレッドミル上を1.5~2.5mileの速さで20分間歩行するものである。CYCLEは、抵抗が掛かるペダルを15~20回漕ぎ10セットとし、セット毎に2分間休憩が与えられた。下肢筋力訓練は、等張性抵抗(重力、チューブ、重錘)を麻痺側下肢に加えた。漸増抵抗運動は10RMの80%で10回繰り返し3セット、12回目まで行った。上肢筋力訓練は、20回ペダル漕ぎ10セットとした。なお、研究中の有害事象は、PTClinResNetの本部に報告した。

Results

  1. 2002年6月から2005年4月に284名が参加し、評価時の基準で残った80名を4グループに割り付けしPT評価と属性のデータで群間比較を行ったが、有意差はなかった。機能レベル別では中等度が重度よりも初回、2回目以降よりも高値を示した。
  2. 施設間で、4グループの初回と介入後の測定結果、その変化量を群間比較し、BWSTT/UE-EXの介入後、快適と速い歩行速度、歩行距離が増加した。CYCLE/UE-EXでは歩行距離のみ改善した。
  3. BWSTT/UE-EXと CYCLE/UE-EXの初回と介入後(12回後、24回後と6ヶ月後)の歩行速度をそれぞれ比較し、24回後と6ヶ月後で歩行速度が高くなっていた。また4グループで24回目と6ヶ月後の測定結果、その変化量を群間比較し、快適と速い歩行で速度変化はないものの、CYCLE/UE-EX で6分間歩行距離が低下した。
  4. 筋力訓練を組み合わせたBWSTT/UE-EXは非麻痺側伸筋と麻痺側屈筋で等速性ピークトルク値に増加がみられた。明らかな差ではないが、麻痺側伸筋のピークトルク値も増加していた。またCYCLE/UE-EXは麻痺側屈筋で等速性ピークトルク値の増加が認められた。

Discussion and Conclusion

本研究の大きな知見は、歩行に障害がある慢性脳卒中患者でBWSトレッドミル歩行を使った課題特異的訓練は、下肢エルゴメーターによる抵抗訓練よりも歩行速度を増加させるのに効果的であった。また耐久性の改善はBWSTTと下肢エルゴメーターで証明された。一方、下肢漸増抵抗の中等度強度プログラムを隔日に加えても、歩行の成果は導かれなかった。BWSに筋力強化訓練を加えるか否か無関係に、強度と課題特異的歩行プログラムは、6ヶ月後の歩行速度と耐久性に改善を得た。

訓練の特異性と強度については、歩行速度の改善は下肢エルゴメーターよりもBWSトレッドミル歩行訓練で効果的であることは、歩行の訓練内容(intrinsic)の特殊性と速度を上げる組み合わせを考えると、ある程度の説明ができる。PTの最新のsystematic reviewでは、課題特異的歩行訓練は脳卒中の歩行が改善できるとした証拠があると報告している。しかし、著者らは、STEPSに使われている BWSTTの標準的介入プロットコールは、訓練の特異性、強さ、慢性期脳卒中で6ヶ月維持されてきた歩行速度の増加する期間を取り込むことを支持している。また訓練回数は、必ずしも24回は必要なく、トレッドミル歩行訓練を集中的に行った12回後で、歩行の速度と距離、下肢筋力が増加するのに十分な訓練刺激(量)になっていた。本研究の限界は、CYCLEプロットコールはリカンベンド自転車を使った20回の漕ぐもので、運動機能の高い対象者ばかりであったこともあり、等張性筋力について検討をしなかった。またトルク値の測定で下肢屈筋・伸筋の共同運動パターンが出現するため、選択的に運動制限を加えた点もある。

【解説】

米国とカナダの3州の多施設間における筋力強化と歩行訓練の効果をRCTで求めた研究である。特にBWSTTは回復期理学療法の臨床現場でよく見受けられる。Hesse[2.]やVisintin[3.]らがトレッドミル歩行が歩行能力を改善するとしたが、メタ解析とFoleyらのシステマテック・レビューでは、BWS有無によるトレッドミル歩行が歩行能力を改善するとした根拠が薄かった。9つのRCT研究論文を調査しても、訓練の頻度、強度や期間が一定していなかった。著者[4.]らは、BWSによる訓練効果は少なく、筋力訓練を組み合わせることで歩行の成果がえられると判断し、RCTを試みた点は、論文として価値が高いと言える。
とかく、BWSTTに注目が集まり易くなるけれど、訓練方法それぞれに特徴があり、歩行速度や距離が伸びるものから耐久性が高くなるものまである。これらの歩行能力の改善を考える上においても、目的を何処に据えるのか明確にして、歩行に関する訓練内容を選択・吟味することの重要性が示唆されている。
略語:
BWS:body-weight-support
BWSTT:body-weight-supported treadmill training
CYCLE:limb-loaded resistive leg cycling
LE-EX:LE muscle-specific progressive-resistive exercise
UE-EX:upper-extremity ergometry

【引用文献】

  1. Foley N, Teasell R, Bhogal S: Evidence-based review of stroke rehabilitation: mobility and the lower extremity. 2006. Canadian Stroke Network. Available at: http://www.ebrsr.com/modules/ modules9.pdf. Accessed June 21, 2007.
  2. Hesse S, Malezic M, Schaffrin A, Mauritz KH: Restoration of gait by comined treadmill training and multichannel electrical stimulation in non-ambulatory hemiparetic patients. Scan J Rehabil Med. 1995; 27: 199-204.
  3. Visintin M, Barbeau H, Korner-Bitensky N, Mayo NE: A new approach to retrain gait stroke patients through body weight support and treadmill stimulation. Stroke. 1998; 29: 1122-1128.
  4. Sullivan KJ, Knowlton BJ, Dobkin BH: Step training with body weight support: effect of treadmill speed and practice paradigms on post stroke locomotor recovery. Arch Phys Med Rehabil. 2002; 83: 683-691. 2008; 20:62-6.

2009年10月09日掲載

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