変形性膝関節症患者に対する荷重位運動と非荷重位運動の身体機能や歩行速度、位置覚における効果:無作為化比較対照試験

Mei-Hwa Jan, Chien-Ho Lin, Yeong-Fwu Lin, Jiu-Jenq Lin, Da-Hon Lin : Effects of Weight-Bearing Versus Nonweight-Bearing Exercise on Function, Walking Speed, and Position Sense in Participants With Knee Osteoarthritis: A Randomized Controlled Trial. Arch Phys Med Rehabil Vol 90, June 2009; 90:897-904.

PubMed PMID:19480863

  • No.1001-2
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年1月30日

【論文の概要】

背景

下肢の荷重位運動は臨床でよく用いられており、若い運動選手では下肢筋力や神経・筋系制御が改善するという報告はあるが、膝痛のある患者にとっては痛みが増悪することや、腫張や炎症を引き起こす可能性がある。非荷重位運動は、固有感覚の改善よりむしろ筋力を改善させると考えられている。しかし、高齢で膝の変形性関節症(OA)患者に対する荷重位運動および非荷重位運動の効果は明らかではない。

目的

膝OA患者に対し、膝の機能改善について荷重位運動は非荷重位運動より効果があるか否かを調べる。

方法

対象は軽度または中等度の膝OA患者106名で、無作為に荷重位運動(WB)36名、非荷重位運動(NWB)35名、運動なし(Control)35名の 3群に分けた。対象者の中で、WB群3名とNWB群2名が膝の痛みにより中断した。WB群は、背もたれ座位にてレッグプレス装置(En-Dynamic)を使用し、足底部に抵抗を加えた。NWB群は、端座位でダイナモメーターの抵抗パッドを下腿前面に装着して行わせた。両群ともに2秒間に90度の速さで行わせ、膝屈曲90度から最大伸展位まで伸展させた後、開始肢位まで屈曲する(大腿四頭筋の遠心性収縮)ように設定した。頻度は両群ともに週3回、8週間施行した。6回の反復運動を1セットとし、1度のプログラムにつき4セット施行した。負荷量は運動開始前に大腿四頭筋の1RMをEn-Dynamicを用いて計測した後、50%の1RMの抵抗から開始し、2週ごとに5%ずつ増加した。評価項目はWOMACの機能項目(階段昇降や買い物、靴下の着脱などを含む17項目)および4条件での最大歩行速度(平地、8の字、階段昇降、スポンジ床面)、筋力(膝屈筋、伸筋における速度60、120、180°/秒の等速性最大筋トルク値)、復位誤差(指示した膝の目標角度と実際の角度との差の絶対値)である。
各評価項目について3群間および前後の比較を行うために二元配置分散分析を施行し、有意差がみられた項目に関して、Bonferroni法を用いて多重比較を行った。

結果

介入前後についてWB群はWOMAC、4条件の歩行、復位誤差に関して有意な改善が認められた。NWB群はWOMAC、4条件の歩行の項目で有意な改善を示した。Control群は介入前後において有意差はみられなかった。3群間による介入前後の増減値の比較では、WB群はControl群よりWOMAC、8の字歩行、スポンジ床上歩行、復位誤差について有意に大きな改善を示し、NWB群はControl群よりWOMAC、階段昇降において有意に大きな改善を示した。WB群とNWB群の比較では、WB群が8の字歩行、スポンジ床面歩行、復位誤差について有意に大きな改善を示し、NWB群は階段昇降で有意に大きな改善を示した。

筋力に関しては、介入前後におけるWB群、NWB群ともに3速度の膝伸筋、屈筋の全てにおいて有意な改善を示した。3群間による介入前後の増減値の比較では、WB群はControl群より3速度の膝伸筋、屈筋の全てにおいて有意な改善を示したが、NWB群では Control群より3速度の膝伸筋のみに有意な改善がみられた。WB群とNWB群の比較では、ともにどの角速度における筋力についても有意差はみられなかった。

考察

WB群とNWB群を比較した場合、WOMACおよび膝伸展筋力に関して、両群ともControl群より大きな改善を示した。従って、非荷重位運動単独でも身体機能及び膝伸展筋力の改善に有効であることがわかった。また、今回WB群においてスポンジ床面歩行と8の字歩行速度、復位誤差に関してNWB群より大きな改善を示したことは、WB群の方が位置覚などの固有受容器の改善により有効であると考えられる。本研究結果より、軽度または中等度の変形性膝関節症々例の歩行能力の改善には、NWBの運動に加えてWBの運動または固有受容器トレーニングを行うことが勧められる。

【解説】

変形性膝関節症に対する運動療法の効果について、その有効性は既に明らかにされているといえる。しかし、より効果的な運動の種類や訓練強度、頻度、期間に関しては不明な点が多い。本研究では運動の種類による効果の差を検討するためにOpen Kinetic Chain(OKC)とClosed Kinetic Chain(CKC)でのトレーニング効果を比較している。
研究結果では、これまでの報告と同様にOKC群とCKC群両者とも膝の機能や歩行能力の改善に効果が認められた。興味深い点としては、①OKCの運動でも筋力とともに膝の機能的改善(WOMAC)が得られたこと、②協調性を必要とする課題では、CKCがより効果的であったこと、③階段昇降のような膝伸筋の力を要する動作ではOKCのほうがより効果的であったことである。本研究では、OKCとCKCによる具体的な効果の差を明らかにした点で意義深い。
臨床で出会う膝OA症例は一人ひとり異なった症状を有するため、画一的な訓練ではなく、個々の症例に応じてOKCと CKCを組み合わせる、あるいは有酸素運動を組み合わせてプログラムを進めていくことが重要である。

【引用文献】

記載なし

2010年01月30日掲載

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