膝蓋大腿関節障害の治療における足底装具と理学療法:無作為化臨床試験

Collins N, Crossley K, Beller E, Darnell R, McPoil T, Vicenzino B: Foot orthoses and physiotherapy in the treatment of patellofemoral pain syndrome: randomised clinical trial. BMJ. 2008;337:a1735, doi: 10.1136/bmj.a1735.

PubMed PMID:18952682

  • No.1002-2
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年2月27日

【論文の概要】

背景

目的

本研究の目的は、膝蓋大腿関節障害の治療における①足底装具、②靴の中敷(対照群)、③理学療法、④足底装具と理学療法の併用の臨床的効果について比較検討することである。
仮説:膝蓋大腿関節障害に対する治療として、足底装具の適用は、靴に中敷を挿入する方法より大きく、理学療法と同等の効果をもたらす.また、足底装具と理学療法を組み合わせることで理学療法のみを行うより大きな効果をもたらす。

方法

研究デザイン:
単マスク化無作為化比較試験

対象:
1,530名のボランティアがスクリーンテストを受け、基準を満たした179名(女性が100名)が参加した。年齢は18歳から40歳であった。取り組み基準は膝蓋大腿関節障害の診断を受けた後6週以上経過し、過去12カ月の間に足底装具や理学療法の治療を受けていない症例で、1)長時間の座位や膝立ち、スクワット、ホッピング、階段昇降動作の中、少なくとも2つの動作で痛みが生じる、2)膝蓋骨の触診時における痛みに対する過敏さや階段降り時または両足スクワット時に痛みがある、3)過去1週間の中で生じた最大の痛みがVisual alanogue scale(VAS)で30mm以上である症例を対象とした。また、何らかの疾病に付随する膝関節部の障害は除外した。

介入方法:
参加者はランダムに4群に割り付けられ、個々の介入を受ける。1回20~60分の診療を6週間に6回受け、その後、自主トレ-ニングのプログラムを続けるように指示された。介入方法は、①足底装具、②靴の中敷、③理学療法、④足底装具と理学療法の併用の4方法である。足底装具は既製の商品が使用されたが、快適になるよう個々に応じて熱処理やウェッジ、ヒールを付加することは許された。靴の中敷は足底装具と同一の材質で作られた。理学療法は、膝蓋大腿関節障害に有効とされている膝蓋骨モビリゼーションやテーピング、筋電バイオフィードバックを用いた大腿広筋の再教育トレーニング、ストレッチ、家庭での自主トレーニング指導などである。

評価:
ブラインドされた検査者により、開始時と、6週、12週、52週後に評価が行われた。主な評価項目は、全体的な改善度(Likert scaleを用いた5段階評価とVASを使用)、過去1週間における、通常時と最もひどい時における疼痛の程度(VAS:100-0mm)、 Anterior Knee Pain Scale(AKP)、Functional Index Questionnaire(FIQ)である。

統計解析:
Intention to treat(ITT)分析を基本とし、介入による差の判定は相対リスク減少率とNumber Needed to Treat(NNT)を用いた。継続して得られた各測定結果は、初期値を共変量、各介入群を固定因子とする単変量の共分散分析を用いて分析した。

結果

6週の時点で、全体的な改善度において足底装具群が中敷き群と比較して、改善した症例の比率が有意に高い値を示した。2群の比較では相対リスク減少率は 0.66(99%信頼区間:0.05-1.17)、NNT は4(99%信頼区間:2-51)であった。足底装具群と理学療法群、または、理学療法群と併用群の比較では全体的な改善度において有意な差は認められなかった。52週では、全群とも主要な評価項目において臨床的に有効な改善をもたらした。

考察

短期効果において、足底装具は靴の中敷と比較して有意に大きな効果を示し、理学療法と同等の効果をもたらした。また、足底装具と理学療法を組み合わせても理学療法単独より大きな効果をもたらさない(Evidence Level Ⅱ)。長期効果では全ての介入で臨床的改善を示したが、介入間で差はなかった。したがって、足底装具は症状の回復を早めるための有効な手段であることが示唆された。

【解説】

本研究は、膝蓋大腿関節障害に対する足底装具の効果を主に理学療法と対比して検証した研究である。筆者が述べているように足底装具の効果についての質の高い研究はなく、多くの対象者を用いてRCTを行った本研究は貴重な報告と言える。
本研究結果では、足底装具は短期効果において、靴の中敷より高い有効性を示し、理学療法と同等の効果をもたらした。また、52週後の長期効果に関しては、4つの介入法で差がなかった。しかし、本研究における介入の詳細が掲載されている文献[1.] によると、足底装具群においても中敷群においても、ホームプログラムとして、足部のアーチ形成のためのトレーニングや荷重下での下腿三頭筋のストレッチ、片足立ちによるバランストレーニングなどを加えている。従って、足底装具群および中敷群は単独の介入ではなく、ホームプログラムの効果も含まれている点に注意が必要である。さらに、筆者自身が述べているように本研究では対照群として治療を行わない群が設けていないため、治療効果そのものの正確な判定が困難であること、足底装具自体の効果をみるために意図的に既成品を使っており、回内足のような足部に変形のある症例には適合性において不十分であった可能性があることなどが本研究の限界と言える。
本研究は、足底装具の有効性を質の高いエビデンスレベルで示した点で大きな意味を有する。しかし、同時に、足底装具の効果を体系的に判定することの困難さも窺わせてくれる。患者の訴えに基づく臨床効果に加え、運動学や筋電図学的な検証により効果のメカニズムを明らかにしていくことが重要[2.]と考えられる。

【引用文献】

  1. Vicenzino B, Collins N, Crossley K, Beller E, Darnell R, McPoil T. Foot orthoses and physiotherapy in the treatment of patellofemoral pain syndrome: a randomised clinical trial. BMC Musculoskelet Disord 2008;9:27.
  2. Landoef KB and Keenan AM: Do foot orthoses prevent injury? Chapter 5, Evidence-based Sports Medicin (second edition) ,Edited by MacAuley D, and Best T, 2007, BMJ|Books, Blackwell: p73-92.

2010年02月27日掲載

PAGETOP