慢性腰痛と下肢痛を有する外来患者に対する抵抗運動1セットと2セットの効果の比較:無作為化比較試験

Limke JC, Rainville J, Pena E, Childs L: Randomized trial comparing the effects of one set vs two sets of resistance exercises for outpatients with chronic low back pain and leg pain. EUR J PHYS REHABIL MED 2008;44:399-405.

PubMed PMID:19002089

  • No.1003-1
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年3月27日

【論文の概要】

背景・目的

慢性腰痛患者の機能回復目的として漸増抵抗運動(progressive resistance exercise:PRE)が用いられている。臨床では脊椎リハビリテーションプログラムの運動を各2セット、2セット目は抵抗量を増加したPREが行われているが、PREの有効性についての報告はない。一方、健常の非鍛錬者の研究では、 PREプログラムの2セット実施群と1セット実施群のトレーニング効果を比較した結果、2群に差がなかったと報告されている。研究の目的は、慢性腰痛と下肢痛を有する外来患者に対するPREプログラムを1セットと2セット実施した効果(1次結果:背筋筋力とリフティング能力、2次結果:治療後の疼痛強度と疼痛による身体的な機能障害)を比較検討することである。

対象・方法

対象者:
採用基準は1)脊椎由来の疼痛が3カ月前から存在する、2)腰の特異的障害(Oswestry Disability Index:ODI [注1] が20%以上認められる、3)年齢18~65歳などとされた。
適合となった慢性腰痛患者100名(男性36名、女性64名)は、脊椎リハビリテーションプログラムを臨床で実施している2セット群(49名)と実験的に実施する1セット群(51名)に無作為割付された。

介入:
脊椎リハビリテーションプログラムは、ステップエアロビクス10分間、ストレッチング20分間、筋力運動60分間で構成され、週2回、6週間実施された。筋力運動の内容は、Cybex back extension、rotary torso、pull downs、multi-hipやレッグプレス、抗重力位での体幹伸展運動、床から腰の高さ・腰から肩の高さのリフティング動作、エルゴメーターである。

評価:
評価項目は、visual analog scaleによる腰痛強度と下肢痛強度、ODIを用いた腰の特異的障害程度、身体機能として傾斜計による体幹柔軟性とSLR計測、Cybexによる背筋筋力測定、progressive isoinertial lifting evaluationによるリフティング能力であった。治療前後に各評価を行った。

統計解析:
基本的情報の群間比較、治療前後の効果判定にはt検定とχ2検定、サンプルサイズは背筋筋力から算出した。

結果・考察

治療前後の背筋筋力、リフティング能力、ODI、腰痛と下肢痛の強度、すべての項目に改善がみられたが、1セット群と2セット群の両群間で有意な差は認められなかった。今回用いた脊椎リハビリテーションプログラムは実際の臨床では2セット実施されている。外来の慢性腰痛患者に対する2セットのプログラムは、半分の負荷量である1セットを上回るものではなかった。

【解説】

本研究は、外来の慢性腰痛患者に実施している脊椎リハビリテーションプログラムの負荷量を検証するものである。抵抗運動に対する負荷量の研究には、未だに DeLomeの論文(1945)が引用されていることから分かるように負荷量を検討した論文は多くない。筆者が述べるように、対象を慢性腰痛患者に限定した抵抗運動負荷量の研究はほとんどない。そのような意味で、この研究は貴重なものである。
本研究の治療プログラムの中心は、60分間のCybexやマシンを用いた体幹・下肢筋力増強運動、負荷をかけたリフティング動作練習であり、積極的な筋力増強プログラムであったにもかかわらず、セット数を半分の1セットにしても2セットと効果は変わらなかった。その最大の要因としてトレーニング期間が6週間の短期であったことが考察で述べられている。
本研究には慢性腰痛、下肢痛を有する対象者の原因疾患が記載されていない。採用基準の年齢が18~65歳であることから、様々な原因疾患の対象者と推測される。したがって、体幹の伸展運動で疼痛が増強される対象者も存在したのではないかと予測される。個人的には、原因疾患の分布、疼痛を増強する運動や動作の記載がなく残念である。
[注1] Oswestry Disability Index(ODI)
世界で最も広く使用されてきた患者立脚型の腰痛疾患に対する疾患特異的評価法のひとつである。本評価法も2003年に正式に日本語に翻訳され、その信頼性や妥当性の検証もある程度なされてきた。本評価法の特徴は痛みのための身体的な機能障害の評価だけでなく、腰痛のための社会的な損失を評価する項目も含むため、代表的な健康関連QOLであるSF-36の精神面の項目ともよく相関する点にある。

【引用文献】

  1. 藤原淳、野原裕. Oswestry Disability Index‐日本語版について‐. 日本腰痛会誌 2009:15(1):11-16.

2010年03月27日掲載

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