介入研究における転倒の自己報告の妥当性

Mackenzie L, Byles J, D'Este C: Validation of self-reported fall events in intervention studies. Clin Rehabil 2006;20(4):331-9.

PubMed PMID:16719031

  • No.1004-1
  • 執筆担当:
    山形県立保健医療大学
    保健医療学部
    理学療法学科
  • 掲載:2010年4月24日

【論文の概要】

背景

転倒の評価法には、一定期間過去の転倒の経験を振り返る想起法がある。この想起法は、簡便で労力の少ない反面、記憶に障害のある者の評価を行う際には、慎重に実施する必要がある。一方、転倒が発生した際にカレンダーに印をつける方法(以下、カレンダー法)や電話による聞き取り法、カルテを用いた方法があるが、想起法と比較し簡便な方法とは言い難い。

目的

本研究の目的は、転倒の評価における想起法の感度と特異度を決定し、転倒の自己報告の感度を対照群と介入群で比較すること。

方法

予防検診を受けた70歳以上の地域在住者1569名が対象である。ランダムに介入群と対照群に割り付けを行った。介入群では6ヶ月毎に転倒の状態について質問を行い、転倒リスクの認識を高めた。割り付けを行った後、540名をランダムに抽出し、回想法の妥当性についての研究を実施した。対象者は、郵送されたカレンダーを使用し、転倒が発生しなかった日は「レ」、転倒が発生した日は「F」をカレンダーに記入した。また転倒による外傷が生じた場合は、疼痛や皮膚の損傷などについても記入した。カレンダーは1ヶ月毎に回収を行い、6ヶ月間カレンダー法による観察を行った。6ヶ月が終了した時点で、想起法により転倒の回数、外傷の有無について質問を行った。本研究における転倒は、自分の意志によらずに地面に倒れた状態と定義し、外傷は対象者が外傷と認識したものを外傷と定義した。

結果

完全に6ヶ月間、観察を行えた者は、264名(介入群:138名、対照群:126名)であった。想起法とカレンダー法の一致率は84%であった。想起法の感度は54%、特異度は94.7%であった。介入群と対照群の比較では介入群の感度が有意に高かった。回想法において外傷を伴う転倒の感度は低く、妥当性に欠ける結果であった。

考察

想起法を用いた転倒の研究においては、転倒率が実際よりも低くなる可能性がある。転倒の想起は介入群において正確であったことから、転倒のリスクを喚起させる情報がより正確な転倒の評価につながったと考える。また、外傷が過去の転倒を想起させる補助となりにくいと考えた。

【解説】

本研究は、転倒の評価として臨床で良く用いられている想起法について、カレンダー法を基に感度と特異度を決定し、注意喚起が転倒の想起に与える影響について検討を行っている。先行研究でも、想起法による過小報告の問題が指摘されており[1.-3.]、臨床において想起法を用いた場合の判断は、慎重に行う必要がある。また、本研究の対象者は、70歳以上の地域在住の高齢者であるが、認知機能に問題のある可能性のある対象者は除外されておらず、また外傷の判断基準も主観的な要素が大きいため、結果に影響を与えた可能性がある。臨床において、高齢者の一定期間過去の正確な転倒の評価を行うことは重要である反面、様々な困難を伴う。転倒は身体特性、認知機能などがリスクとなるため、多角的な評価と検討が必要であると考える。簡便で信頼性・妥当性が高い転倒の評価スケールも報告[4.-5.]されており、転倒の自己報告と組み合わせて評価を行うことが重要である。

【引用文献】

  1. Cumming R, Kelsey J, Nevitt M. Methodologic issues in the study of frequent and recurrent health problems: Falls in the elderly. Ann Epidemiol 1990;1: 49-56.
  2. Cummings S, Nevitt M, Kidd S. Forgetting falls the limited accuracy of recall of falls in the elderly. J Am Geriatr Soc 1988; 36: 613.
  3. Peel N. Validating recall of falls by older people. Accident Analysis Prev 2000; 32: 371_72.
  4. Schmid NA. Reducing patient falls: a research-based comprehensive fall prevention program. Mil Med. 1990 May;155(5):202-7.
  5. Oliver D, Development and evaluation of evidence based risk assessment tool (STRATIFY) to predict which elderly inpatients will fall: case-control and cohort studies. BMJ. 1997 Oct 25;315(7115):1049-53.

2010年04月24日掲載

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