慢性閉塞性肺疾患患者の日常生活活動中におけるエネルギー節約手技の使用・不使用によるエネルギー消費の研究

Marcelo Velloso, Jose R. Jardim: Study of Energy Expenditure During Activities of Daily Living Using and Not Using Body Position Recommended by Energy Conservation Techniques in Patients With COPD. Chest 2006 ;130,126-132.

PubMed PMID:16840392

  • No.1105-1
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年5月2日

【論文の概要】

背景

COPD患者は、買い物や家事といった動作を含む日常生活活動においても困難を感じており、しばしばこれらの些細な動作においても日常的に介助者からの支援を受けることを余儀なくされている。先行研究で実施したCOPD患者において掃除や黒板消し、コンテナを上げる、電球を変えるといった困難な姿勢で上肢を用いる4つのADL活動中の物質代謝や換気量の測定では、単純な課題と比較して最大酸素摂取量の50~60%のo2を示し、Eにおいて最大換気量の60~70%の増加を要した。この高換気状態はCOPD患者にとって激しい呼吸困難感と身体的不快を感じさせていると解釈することが出来る。肺疾患に対するリハビリテーションプログラムでは、これらの患者の疲労軽減やADL実践を自立させるためのツールとしてエネルギー節約手技(以下ECTs)の利用を推奨している。 ECTsは日常の活動において主として推奨されているが、われわれの知る限り手技の有無によってADL実践中におけるエネルギー消費を比較した研究論文はない。COPD患者のエネルギー効率について検討することは、ECTsの有効性を判定する一助になるといえる。

目的

COPD患者によってECTsで推奨されている姿勢の使用、不使用でADLの活動中に消費されるエネルギー代謝を評価することを目的とする。

対象

対象は中等度から重度(FEV140±13%)の16名の男性COPD患者(平均年齢62±11.5歳)であった。被検者選定の判断基準は以下の通りである。
  1. COPDの診断を受けていること
  2. ここ数ヶ月の間に悪化した経歴がないこと
  3. 本研究に対して役に立つ意志があること
  4. ミニメンタルスケールで24点以上あること

方法

患者は、はじめにECTsで推奨されている姿勢を使用せずに4つの活動(整容動作、靴の着脱、高い棚に食料品の入ったバックを収納する、低い棚に食料品の入ったバックを収納する)を実施した。1時間以上の休憩の後に、ECTsで推奨されている姿勢で4つの活動を実施し、各活動について2条件間で分析を行った。ECTsで推奨されている姿勢を使用した場合と、使用しなかった場合の各動作中に、物質代謝としてo2とco2、換気量として分時換気量、循環の変化として心拍数HRと脈拍Pulse、呼吸困難度としてBorg scaleを測定した。

結果

ECTsで推奨されている姿勢の使用は、整容動作中のo2(13.4%)とco2(12.8%)、HR(13.7%)、Borg scale(1point)の引き下げに関与していた。靴の着脱ではo2とco2、HRに変化は見られなかったが、Borg scaleは06.point低下した。食料品を高い棚に収納する動作では、o2(12.2%)、co2(9.9%)、HR(5.1%)、Borg scale(0.75point)低下し、食料品を低い棚に収納する動作ではo2(28.1%)とco2(24.3%)、HR(5.4%)、Borg scale(0.8point)が低下した。

考察

本研究は、日常生活で頻繁に呼吸困難を感じると報告されている4つのADL課題実践時の姿勢に着目し、ETCs指導の有効性について検討した結果、COPD患者の機能的活動の一助となっていることが明らかとなった。課題中の物質代謝(o2やco2)測定は、先行研究でも行われており、エネルギー保存の程度を測定する実用的な方法であると考えられる。また、COPD患者は、ADLの遂行中の姿勢に関する簡単な注意点を守ることによって環境に適応できる可能性が示された。

COPD患者のADL遂行能力の改善には、様々なADL活動中における激しい呼吸困難を感じた恐怖体験の減少が関与しており、患者の機能性を取り戻すための方策を発展させなければならない。本研究の結果から、ECTsによって推奨された姿勢でのADL動作は、この目標を達成する最善の方法であるといえよう。

【解説】

COPD患者のADL動作中の息切れには、上肢の挙上が影響している可能性が指摘されており[1.]、その対策の一つとしてEnergy Conservation Techniquesが指導されている[2.]。ETCsの内容は施設によって異なるが、“エネルギー節約の4つのP”として(1)Planning(計画立案)、(2)Pacing(速度・ペース)、(3)Prioritize(優先順位の決定)、(4)Positioning(姿勢)が挙げられており、週間予定の把握、活動計画の立案、ペース配分の調整、課題の重要度に基づく優先順位の決定や、支援・介助の活用、エネルギーを節約する姿勢の活用が具体的に示されている。
本論文では、ETCsで推奨されている姿勢の使用がCOPD患者のADL動作中における物質代謝・換気様式・息切れに与える影響を検討している。直接的な呼吸リハビリテーションだけでなく、姿勢の工夫によってCOPD患者のADL動作時の息切れ軽減や換気様式の変化が生じる可能性が示されており、在宅医療等で患者指導を行う際にも有用な示唆を与えている。

【参考文献】

  1. Marcelo Velloso, Sergio Garcia Stella; Sonia Cendon,;Antonio Carlos Silva,Jose' R. Jardim, : Metabolic and ventilatory parameters of four activities of daily living accomplished with arms in COPD patients.CHEST 2003 ; 123 : 1047-1053.
  2. Marcelo Velloso, Jose Roberto Jardim : Functionality of patients with chronic obstructive pulmonary disease: energy conservation techniques. J Bras Pneumol. 2006 ; 32(6) : 580-586.

2011年05月02日掲載

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