靴の特性が高齢者のバランスとステッピングに及ぼす影響

Jasmine C. Menant Julie R. Steele Hylton B. Menz Bridget J. Munro Stephen R. Lord :Effects of Footwear Features on Balance and Stepping in Older People. Gerontology 2008;54:18-23.

PubMed PMID:18253023

  • No.1107-2
  • 執筆担当:
    甲南女子大学
    看護リハビリテーション学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年7月1日

【論文の概要】

背景

履物は高齢者の転倒に関連しているが、靴の特性が高齢者のバランスに有益かあるいは有害かは不明確である。

目的

靴の特性がバランスとステッピングに対しどのように影響しているか体系的に調査した。

方法

研究デザイン:
介入研究

対象:
29人の地域住民(年齢79.1±3.7歳)

評価内容:
姿勢動揺、最大バランス範囲、協調的な安定性、choice-stepping reaction time(CSRT)の評価項目を、標準的な靴と異なる7種類の靴、高ヒール(4.5cm)、柔らかい靴底、硬い靴底、フレアー靴底、傾斜のある踵、溝のある靴底で調査した。

結果

反復測定分散分析結果より、標準的な靴に対し高い踵の靴で有意な動揺の増加が認められた(p>0.05)。Zスコアーの合計による靴の機能評価指数では、動揺、協調的な安定性、CSRTの交差試験で標準的な靴に対し高い踵が最も有害な因子として認められた(p>0.05)。その一方、高いヒールカラーと硬い靴底は有益な傾向を示した。

結論

4.5cmの高さの踵だけが高齢者のバランスを有意に悪化させていた。高齢者のバランスにおいて、硬い靴底あるいは高いヒールカラーの着用は、今後の歩行課題に関する調査を正当化する有益な潜在因子といえる。

【解説】

高齢者の転倒を予防するうえで、履物との関連を調査することの意義は大きい。高齢者のバランス能力や履物との関係は、高齢者の転倒時発生する大腿骨頸部骨折との関係などからも検討されており、大腿骨頸部骨折の原因となった転倒時に着用されていた不適切な履物として、固定性の悪い靴やスリッパが複数の研究者により指摘されている[1.2.]。また屋内外における骨折の発生と履物に関する研究では、裸足や靴下歩行が屋内転倒の危険因子であることを報告している[3.]。しかし高齢者では基礎疾患に対する薬物療法や併存疾患の存在も立位バランスや転倒に影響する要因となる[3.4.]。高齢者のバランスや歩行能力と履物との関連性を明確化するためには、高齢者の個人要因を含めた多角的な検討が必要といえる。

【文献】

  1. Sherrington C, Menz HB:An evaluation of footwear worn at the time of fall-related hip fracture. Age Ageing. 2003 May; 32(3):310-4.
  2. Fleur Hourihan,Robert G.Cumming,Karen M. Taverner-Smith:Footwear and Hip Fracture-related Fails in Older People. Australasian Journal on Ageing. Vol. 19,91-93,, 2000.
  3. Hylton B Menz,Meg E Morris,Stephen R Lord:Footwear characteristics and risk of indoor and outdoor falls in older people. Gerontologia,52:174-180. 2006.
  4. Christophera. E. Dter,Carounel Watkins,Catherine Gould:Risk-factor assessment for fall:from a written checklist to the penless clinic. Age and Ageing27:569-572,1998.

2011年07月01日掲載

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