周産期の正期産仮死児におけるGeneral Movementsは基底核と視床病変に関連がある

Ferrari F, Todeschini A, Guidotti I, Martinez-Biarge M, Roversi MF, Berardi A, Ranzi A, Cowan FM, Rutherford MA. General movements in full-term infants with perinatal asphyxia are related to Basal Ganglia and thalamic lesions. J Pediatr. 2011 Jun;158(6):904-11.

PubMed PMID:21232764

  • No.1110-2
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2011年10月1日

【論文の概要】

背景

近年、新生児のMRIは、低酸素性虚血性脳症(hypoxic-ischemic encephalopathy、以下HIE)の病変パターンに関する詳細な情報により長期的帰結の早期予測が可能となり、周産期の低酸素性虚血障がいの研究に使用されている。早期神経画像は、臨床評価に必要であるが、その脳画像は解釈が困難であるなど必ずしも利用できない。

Mercuriらは、HIEの乳児は筋緊張の特定のパターンを持ち、異なるMRI病変パターンに関する新生児神経機能の他の側面があることを示した。Prechtl HFRのGeneral Movements(GMs)評価法は、自発運動を評価するために用いられる。これは、特に脳性麻痺において、新生児の観察評価によって早期の段階に正常か異常かを予測する評価技術である。双方ともに早産児であるが、この2つの先行研究だけが新生児の頭部MRIの異常をGMsのパターンと関連づけている。

目的

HIEの正期産児のGMsと磁気共鳴映像法(MRI)による脳病変の部位と重症度の相関関係を検証し、運動の帰結からGMsとMRIの予後的価値を比較することを目的とした。

対象と方法

対象は、2003-2006年にイタリアのモデナ大学病院で出産あるいは紹介された体温冷却治療の施されていないHIEの正期産児を34名とした。

評価基準は、在胎月齢37週以上、異常な分娩監視または胎便で染色した羊水を認める、Apgar scoreが5以下(1分)、7以下(5分)、臍動脈pHが7.0以下もしくは塩基欠乏が16mmol / L以上、出生脳症の診断、出産後の6週以内に行われる頭部MRI画像と生後1ヵ月と3ヵ月の自発運動評価であった。そして運動の帰結は生後24ヵ月に評価された。
対象児34名の内訳は男児20名、女児14名、平均在胎月齢40.4±1.2週、平均出生体重3536±457g、平均pH6.9±0.1、平均塩基欠乏17.7±5.6mmol / L、Apgar scoreの中央値2(1分)・4(5分)であった。

結果

2歳時の運動の帰結では、34名中16名が脳性麻痺(うち1名が2歳で歩行が可能、1名が4歳児に死亡)、4名が軽度の運動機能障害、14名が正常発達を示した。

基底核と視床のMRIスコア、内包後脚、白質と皮質と病変パターンは、1ヵ月時および3ヵ月時のGMsと相関を示した。そして中心灰白質のスコアは、cramped-synchronized GMsと異常な運動帰結に最も強い相関を示した。MRIスコアの感度は100%で、運動帰結の的確性は72.2%であった。cramped-synchronized GMsは運動帰結の的確性は100%で、感度は68.7%であった。

考察

HIEの正期産児において、初期のMRIで見られる脳病変部位(基底核-視床、内包後脚、白質、皮質)と重症度(1-3)は、GMsと高い相関を示した。中心灰白質損傷はcramped-synchronized GMsを生じさせ、異常な運動帰結となる(障がいを持つ)ことが示された。早期のMRIスキャンとGMs評価は、運動帰結を予測するための相補的なツールとなることが示された。

【解説】

用語説明1
General Movements (GMs)
Prechtl HFRが考案した新生児期から乳幼児期までの、数秒から数分間続く全身を含む粗大運動評価が一般的に用いられている[1.]。この評価法は、早期乳児の自発運動を観察し、四肢・体幹の運動の特徴から運動予後予測の評価として用いられ、特に脳性麻痺の判別診断法として有用であることが示されている[2.]。乳児期にはWrithing movements(もがくような動き)、Fidgety movements(振幅は小さく、速度は中程度の、円を描くような運動)など月齢によって出現する特徴的な運動が存在し、その特徴的な動きの量的・質的評価によって判定される。評価の信頼性と予測妥当性は検証済みである。しかしながら、評価には熟練が必要であり、講習を受けることが望ましいとされる。脳性麻痺ガイドラインではエビデンス・レベルはIbを含む比較的高いものである[3.]。
用語説明2
Cramped-synchronized GMs
乳幼児の四肢の自発運動が“強張った”ようにみえ、正常の滑らかで流暢な性質に欠ける。四肢と体幹の筋肉がほとんど同時に収縮し弛緩するような運動の特徴を持ち、この運動が認められた場合は脳性麻痺の診断予測に有用な特徴的パターンである[2.]。
論文の背景・位置づけ
日本でも脳性麻痺ガイドラインでは比較的高いエビデンス・レベルを示している(Ibを含む)ため、熟練された技能を身につけることによって臨床における診断補助として有用である。
論文の評価(良い点、悪い点、難解用語の解説)
著者であるFabrizio Ferrariらのグループは、以前よりGMs研究を積極的に行い、彼らの論文は脳性麻痺ガイドラインでのエビデンス・レベルも比較的高い評価を得ている[2.4.]。今回、MRIによる評価と併用することにより、より高い運動帰結に結びつく可能性のある論文であると言える。しかしながら、先行研究に続き、Cramped-synchronized GMs以外では運動帰結がはっきりしない場合(例えば、Fidgety Movementsの異常が存在する場合でも運動帰結が正常と判定される可能性)も存在することから、これらを検証するためにRomeo DM9)らが行ったような大規模研究が望まれる。

【文献】

  1. Einspieler C, Prechtl HFR, Bos AF, Ferrari F, Cioni G: Prechtl’s Method on the Qualitative Assessment of General Movements in Preterm, Term and Young Infants (incl. DVD). Mac Keith Press, London, 2004. (弓削マリ子 日本語版監修・著作:プレヒテル教授の早期乳児の神経機能評価法 日本語版[DVD]―診断的手段としてのGeneral Movements. 医学映像教育センタ―, 2002.)
  2. Ferrari F, Cioni G, Einspieler C, Roversi F, Bos AF, Paolicelli PB, Ranzi A, Prechtl HFR: Cramped-synchronized general movements in preterm infants as an early marker for cerebral palsy. Arch Pediatr Adolesc Med 2002;156: 460-467.
  3. 日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会(編集):1-2-2 General movements の評価による予後予測(問川博之).医学書院.2009.
  4. Ferrari F, Cioni G, Prechtl HFR: Qualitative changes of general movements in preterm infants with brain lesions. Early Hum Dev 1990; 23: 193-231.
  5. Prechtl HFR, Ferrari F, Cioni F: Predictive value of general movements in asphyxiated fullterm infants. Early Hum Dev 1993; 35: 91-120.
  6. Cioni G, Ferrari F, Einspieler C, Paolicelli PB, Barbani MT, Prechtl HFR: Comparison between observation of spontaneous movements and neurologic examination in preterm infants. J Pediatr 1997; 130: 704-711.
  7. Cioni G, Prechtl HFR, Ferrari F, Paolicelli PB, Einspieler C, Roversi MF: Which better predicts later outcome in full term infants: quality of general movements or neurological examination? Early Hum Dev 1997; 50: 71-85.
  8. Prechtl HFR, Einspieler C, Cioni G, Bos AF, Ferrari F, Sontheimer D: An early marker for neurological deficits after perinatal brain lesions. Lancet 1997; 349: 1361-1363.
  9. Romeo DM, Guzzetta A, Scoto M, Patusi P, Mazzone D, Romeo GM: Early neurological assessment in preterm-infants; Integration of traditional neurologic examination and observation of general movements. Eur J Pediatr Neurol 2008; 12: 183-189.

2011年10月01日掲載

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