青年期健常男性の大腿四頭筋の横断面積はQ角の大きさの違いによって変化する

Tsakoniti AE, Stoupis CA, Athanasopoulos SI. Quadriceps cross-sectional area changes in young healthy men with different magnitude of Q angle. J Appl Physiol. 2008 Sep; 105 (3): 800-4.

PubMed PMID:18556437

  • No.1206-2
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年6月1日

【論文の概要】

背景

Q角は大腿四頭筋の作用線と膝蓋腱の方向の二線からなる角で、膝関節のアライメント異常の指標となる。Q角の異常は膝伸展力の発揮を阻害すると考えられている。また、男性で15°、女性で20°を超えたQ角は、膝蓋大腿関節痛、膝蓋軟骨軟化症や膝蓋骨脱臼のような膝蓋大腿関節の障害発生に関連すると指摘されている。

障害をすでに持つ被験者を対象とした研究から、アライメントの異常にともなって内側広筋斜頭の活動が外側広筋と比べ低下すること、またこれらの筋が興奮する順番が逆転することが報告されている。こうした筋活動の変化は、痛みによる抑制、そして/または痛みの出現に先行した筋萎縮の発生に基づく可能性があるものの検討されてはいない。

目的

筋の横断面積はその張力発生能力を決定する。しかし、膝のアライメント異常が大腿四頭筋の横断面積に与える影響についての情報は得られていない。この研究の目的は、大腿四頭筋全体、そしてこれを構成する各筋の横断面積が膝にアライメント異常を持つ対象者において変化しているのかを調べることである。変化が痛みの発生に先立って、あるいは引き続いて生じるのかを明らかにするため、健常者を用いて検討を行った。

方法

事前のアンケートにより、姿勢障害、下肢の障害、甲状腺機能障害、リウマチ、肥満、ステロイド剤の使用、組織的な運動習慣や日常において急激な運動量の増加が見られなかった36名の健常男性を対象とし、Q角が15°より小さな群(LQ群、17名)、大きな群(HQ群、19名)の2つに分けた。ボールを蹴る脚を利き脚と定義し、そのQ角を測定した。測定時、被験者を仰臥位とし膝は完全伸展位にて大腿四頭筋は弛緩させた。足位は踵の中点と第二中足骨を結んだ線が床と直交する位置とした。上前腸骨棘、膝蓋骨の中点、脛骨粗面の三点を結ぶ線を定めQ角を測定した。

大腿四頭筋の横断面積をMRIによる画像から測定した。被験者を仰臥位とし、股関節は内外旋中間位に固定した。大腿四頭筋が静的状態と動的状態の画像を得るため、膝関節を10°屈曲しての弛緩状態、あるいは伸展0°で筋を収縮した状態のそれぞれで画像を取得した。画像は大腿骨頭から大腿骨顆部間の遠位1/3の位置で取得し、内側広筋、外側広筋、中間広筋、大腿直筋、大腿四頭筋全体、そして膝蓋腱の横断面積を測定した。

結果

LQ群、HQ群のQ角はそれぞれ10.1 ± 1.9°および18.5 ± 2.6°であった。

筋収縮時において、二群間の大腿四頭筋全体、内側広筋、外側広筋、そして中間広筋の横断面積に差があった。筋弛緩時においては、大腿四頭筋全体、外側広筋、そして中間広筋の横断面積に差があった。内側広筋の横断面積はLQ群の方が大きな値をとったが有意ではなかった。両群間において、外側広筋と内側広筋の横断面積の比、大腿直筋そして膝蓋腱の横断面積は筋の収縮時、弛緩時いずれでも差はみられなかった。

結論

大きなQ角は大腿四頭筋の横断面積を減少させる効果を持つことが分かった。こうした変化は、関節に対する過剰な負荷や損耗を避けるために、末梢神経系、そして中枢神経系が変化し筋萎縮や筋の活動性低下がもたらされる結果であると予想される。

膝のアライメント異常が、大腿四頭筋の筋力、活動バターン、電気的・機械的な効率、そして線維の顕微構造に対する影響についてさらに検討していく必要がある。

【解説】

本文では述べられていなかったことなのだが、治療者的な立場からすると、この研究の結果において最も光を当てられるべきはQ角が大きいと身体活動量に差がなくても大腿四頭筋の発達が抑制される点にあると思われる。この結果を別な視点から見ると、Q角が小さな症例に比べると、大きな症例は同一の運動介入が行われても大腿四頭筋の横断面積を改善あるいは向上させることが困難であるという予想が導かれる。
本研究の結果が青年期の健常な被験者から得られたことも注目すべきだろう。なぜならば、大きなQ角を持つ症例に加齢や外傷に伴って関節病変や疼痛が発生すると、運動介入により大腿四頭筋の横断面積を向上させる効果はより抑制されると予想されるためである。
Q角の異常は単独で存在するものではなく、内反膝、外反膝といった他の膝関節のアライメント異常に関わっている。Q角の異常が内反膝、外反膝のいずれをもたらすのかは人種の影響を受けると考えられ、米国では外反膝につながる [1. 2.]が、本邦では外反膝よりむしろ内反膝につながると指摘されている[3. 4.]。したがって本邦における内反膝の症例では、Q角の異常を背景に大腿四頭筋の横断面積、そして筋力の改善・向上させることが阻害されていると予想され、このことをふまえて介入していく必要があると考えられる。

【参考文献】

  1. Nguyen AD, Boling MC, Levine B, Shultz SJ. Relationships between lower extremity alignment and the quadriceps angle. Clin J Sport Med. 2009; 19 (3): 201-6 (open access).
  2. Nguyen AD, Shultz SJ. Identifying relationships among lower extremity alignment characteristics. J Athl Train. 2009; 44(5): 511-8 (open access).
  3. 上村豊, 尾田敦, 麻生千華子, 伊良皆友香. 小学生における下肢のスタティックアライメントとダイナミックアライメントの関係. 尾田敦(代表). 健常者における足アーチ高の標準値の確立に関する研究. pp33-44, 平成17年度縲恤ス成19年度科学研究費補助金 (基盤研究(B))研究成果報告書.(http://repository.ul.hirosaki-u.ac.jp/dspace/bitstream/10129/674/1/2008_oda.pdf)
  4. 金子文成, 浦辺幸夫, 川口浩太郎, 藤田知子, 利根川恒雄, 上野原稔. toe-out、knee-inを呈する高校女子バスケットボール選手の下肢アライメントの特徴. 理学療法学, 22 (学会特別号): 125, 1995 (open access).

2012年06月01日掲載

PAGETOP