2型糖尿病における心血管疾患の危険因子に対するトレーニングの効果:メタ解析

Chudyk A, Petrella RJ. Effects of exercise on cardiovascular risk factors in type 2 diabetes: a meta-analysis. Diabetes Care. 2011 May;34(5):1228-37.

PubMed PMID:21525503

  • No.1209-2
  • 執筆担当:
    県立広島大学
    保健福祉学部
    理学療法学科
  • 掲載:2012年9月1日

【論文の概要】

背景

2型糖尿病は、脳や心臓のような臓器を栄養する大血管、そして網膜や腎臓に分布する細小血管に障害をもたらす危険因子である。そして本症は、高血圧、高脂血症、肥満、不活動、そして喫煙といった心血管疾患の危険因子としばしば関連している。血糖コントロールは2型糖尿病治療のカギである。しかし、本症の経過と予後を左右する主な要因は心血管疾患であって糖代謝障害ではない。

トレーニングは糖尿病の予防と管理の基礎である。メタ解析を通じて、有酸素トレーニングもしくはレジスタンス・トレーニングによって血糖値が有意に改善されることが示されている。しかしトレーニングが他の血管障害の危険因子を改善できるのかは分かっていない。

目的

有酸素トレーニング、レジスタンス・トレーニング、そしてこれらの複合トレーニングが2型糖尿病における血管障害の危険因子改善に対する効果を調べることである。

方法

1970年から2009年10月までに発表された研究を、 SPORTDiscus、SCOPUS、PubMed、およびCINAHLの各データベースを通して検索した。選択条件を、(1)18才以上の2型糖尿病者を対象者として、有酸素トレーニング、漸増的レジスタンス・トレーニング、あるいはこれらの複合トレーニングからなる体系的なトレーニングプログラムが課されていること、(2)研究期間において身体活動による毎週の累算エネルギー消費が、 2型糖尿病者に対して米国スポーツ医学会が推奨している1000 kcalを上回っていること、(3)長期の血糖値動態の指標であるHbA1c値の特性から、少なくとも8週間以上経過が追跡されていることとした。医療成績は、血糖コントロール(HbA1c値)、脂質代謝異常(LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、トリグリセライドの各値)、収縮期血圧、腹囲、体重をもって評価した。

結果

最初の検索で、645本の論文が抽出された。このうち選択条件に合致した論文は34本で、うち21の研究が有酸素トレーニング、8つの研究がレジスタンス・トレーニング、そして10の研究が有酸素トレーニングとレジスタンス・トレーニングの複合トレーニングの効果について報告していた。

有酸素トレーニングの効果について研究した21の研究では、週に1~7回のトレーニングが課され、うち13の研究では週に3回のトレーニング頻度が選ばれていた。トレーニング強度は主に最大(最高)酸素摂取量あるいは最大心拍数に対する割合をもとに設定されており、50~85%の範囲にあった。1回のトレーニング時間は40~75分、期間は2ヶ月から1年までが選ばれていた。

レジスタンス・トレーニングの効果についての8つの研究は、いずれも週に3回のトレーニングが実施されていた。トレーニングの強度は1RM筋力の50~80%、期間は8週から6ヶ月が選ばれていた。

有酸素トレーニングとレジスタンス・トレーニングの複合トレーニング(複合トレーニング)の効果をみた10の研究のうち、6つの研究は週3回、2つの研究が週2回の頻度でトレーニングが行われていた。またトレーニング頻度が週4回の研究が1つ、週4~5回の研究が1つあった。有酸素トレーニングでは、最大心拍数に対して当初35%、最大で85%までのトレーニング強度が課されていた。レジスタンス・トレーニングの内容(負荷量、反復数、セット数)はまちまちであった。トレーニング期間は8週から24週の範囲にあった。

HbA1c値は、有酸素トレーニングで0.6%、複合トレーニングで0.67%の減少が見られたが、レジスタンス・トレーニング単独では有意な変化は見られなかった。

有酸素トレーニングはLDL-およびHDL-コレステロールの値を変化させなかったが、トリグリセライドの値を減少させていた(0.3 mol/L)。レジスタンス・トレーニングが脂質代謝異常に与える効果は、これを調べた研究が1ないし2本に限られたため見積もらなかった。複合トレーニングにLDL-およびHDL-コレステロールの値を変化させる効果はなかったが、トリグリセライドの値を0.3 mol/L減少させていた。

体重、体格指数はともに、いずれのトレーニング方法によっても変化していなかった。

収縮期血圧は、有酸素トレーニングで6 mmHg、複合トレーニングで 3.59 mmHgの減少が見られたが、レジスタンス・トレーニング単独では変化していなかった。

考察

HbA1c値の1%の増加は心血管疾患の発生を1.18%増加させるが、HbA1c値1%の減少は細小血管障害と心筋梗塞の発生をそれぞれ37%、 14%減少させると報告されている。今回、HbA1c値は有酸素トレーニングにて0.6%、複合トレーニングにて0.67%減少することが示されたが、これは細小血管障害の発生が22~26%、心筋梗塞が8~10%減少することに相当する。

カナダ糖尿病協会のガイドラインでは、2型糖尿病者の収縮期血圧は130 mmHg未満とすることが目標とされている。有酸素トレーニングと複合トレーニングでは有意な収縮期血圧の低下が見られ、それぞれ平均血圧は130 mmHgおよび134 mmHgにあった。したがって、これらの介入方法は高血圧を持つ2型糖尿病者に対し治療的に意味があると考えられる。

有酸素トレーニングおよび複合トレーニングにおいて、トリグリセライド値の減少が見られたものの、LDL-およびHDL-コレステロールの値を改善させなかった。脂質代謝異常に対する有酸素トレーニングの効果を調べたランダム化比較試験を通して、トレーニング強度や体力の改善よりもトレーニング量の方が脂質代謝異常の改善に関連深いことが分かっている。よって、 2型糖尿病者の脂質代謝を改善するためには、トレーニング量をより多く確保する必要があると考えられる。

【解説】

糖尿病に対する運動療法としては、サイクリング、スイミング、ウォーキングによる有酸素トレーニングが一般に推奨されている[1. ]。有酸素トレーニングでは、最大酸素摂取量や最大心拍数を基準に負荷値を決定し、一定の負荷のまま運動を続ける方法(定常負荷法)や高負荷と低負荷を交互に繰り返す方法(インターバル法)がとられる。
一方、糖尿病に対する運動療法として、無酸素的なトレーニングであるレジスタンス・トレーニングを薦める向きもある。この方法は重錘を用いた抵抗負荷に抗して運動を行う方法である。旧来、糖尿病者は心血管疾患、細小血管障害、神経障害を有するため、レジスタンス・トレーニングは安全性に問題があると考えられてきた。しかし、運動開始前の十分なスクリーニング、適切な指導と監視、正しいトレーニング方法の設定を行えば、安全かつ効果的なトレーニングとなり得ると考えられるようになった[2. ]。レジスタンス・トレーニングは不活動や加齢に由来した筋萎縮を改善し、インスリン感受性や耐糖能を高める[3. 4. ]。
これら2つの方法を統合したものが有酸素トレーニングおよびレジスタン・トレーニングの複合トレーニングになる。この複合トレーニングでは2つのトレーニング方法が単独で行われた場合より高い効果を上げうると期待されるが、本論文の結果はそうした期待とは異なるものであった。その背景は、現時点では複合トレーニングのためのプロトコールが未確立なことにあると考えられ、検討していくべき課題であろう。

【参考文献】

  1. 坂本静男: 生活習慣病の運動療法: 坂本静男(編), ケーススタディ運動療法, pp1-44, 杏林書院, 2000.
  2. Hornsby GW Jr: レジスタンストレーニング: 中尾一和(監訳), 米国糖尿病協会 糖尿病の運動療法ガイド, pp70-73, メジカルビュー, 1997.
  3. Ivy JL: Role of exercise: training in the prevention and treatment of insulin resistance and non-insulin-dependent diabetes mellitus. Sports Med 1997; 24: 321 336.
  4. Colberg SR: Physical activity: the forgotten tool for type 2 diabetes management. Front Endocrinol (Lausanne) 2012; 3: 1-6 (open access).

2012年09月01日掲載

PAGETOP