脳性麻痺児のアクティブ・ビデオ・ゲーム‐身体活動の促進とリハビリテーションセラピーへの可能性‐

1) Howcroft J, Klejman S, Fehlings D, Wright V, Zabjek K, Andrysek J, Biddiss E.: Active Video Game Play in Children With Cerebral Palsy: Potential for Physical Activity Promotion and Rehabilitation Therapies. Arch Phys Med Rehabil. 2012 Aug; 93(8):1448-56.

PubMed PMID:22571917

  • No.1301-2
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年1月1日

【論文の概要】

背景

 アクティブ・ビデオ・ゲーム(以下、AVG)は従来の手で操作するゲームとは違い、腕を振り回したり足を踏み出したりといったような身体の動きを必要とする。歩行可能な脳性麻痺児は、一般的な発達段階の子どもよりも身体的活動が低く、肥満、糖尿病、心疾患、心の健康を害する危険性が高い。障害の有無に関わらず子どもにとって、過度のスクリーン時間(テレビ、インターネット、ビデオゲーム等)は不活発の原因になるが、子どもたちはこれらの時間を好む。身体活動を促進する可能性のある戦略の1つが、ほとんど身体を動かさないスクリーン時間を、AVGを使用し活動的なスクリーン時間に置き換えることである。そこで、AVGの治療への可能性の確認、処方ガイドラインの支援、リハビリテーション(以下、リハ)向けゲームの設計のために、AVGの運動学的理解を深めることが必要である。

目的

 エネルギー消費、筋活性、運動の質の定量的調査から、脳性麻痺児の身体活動の促進とリハへのAVGの可能性を調査することであり、具体的には以下の通りである。 
① エネルギー消費を観察することにより、AVGゲーム中の身体活動の強度を明らかにすること。 
② 上肢の運動を運動学的に示すことにより、AVGの治療的可能性を調査すること。 
③ 筋損傷のリスク、AVGゲーム中の個別性、楽しみの程度を評価することにより、AVGの身体活動の促進や治療への実用性を考察すること。

対象

 対象は脳性麻痺児17名(男児10名、女児7名)、年齢9.68±1.69歳、身長139.29±11.92㎝、体重36.05±10.56㎏であった。片麻痺15名・両麻痺2名、GMFCSレベルⅠ16名・Ⅱ1名であった。

方法

 ボウリング、テニス、ボクシング、ダンスゲームの4つのAVGを実施した。各ゲームをランダムに初心者レベルで8分間行い、各ゲーム間に5分間の休憩時間を設けた。 
酸素消費量と二酸化炭素排出量からエネルギー消費を算出した。両上肢にマーカーを貼り付け、VICON MX モーションキャプチャーシステムを使用し測定した。筋活動は、主要な上肢(利き手)の僧帽筋上部、上腕三頭筋、上腕二頭筋、橈側手根屈筋、手関節伸筋群を表面筋電図によって測定した。また、身体活動楽しみスケール(以下、PACES)を自己申告した。

結果

 エネルギー消費は、下半身の動きを含んでいるゲーム、つまりダンスゲームで著明に高かった。また、ボウリングやテニスといった片側性のゲームより、ボクシングのような両側性のゲームの方が著明に高かった。AVGゲーム中、すべての筋群の平均筋活動は最大随意努力の20%未満で、最大でも90%を超えることはなかった。ボクシングはすべての筋群で高い活動レベルで、特に手関節伸筋群で最大であった。両側性ゲームで両上肢を比較した場合、主要な上肢の方がそうでない上肢より、手関節橈屈・尺屈・伸展、肘関節伸展で最大角度が著明に大きかった。PACESは5点中4.5±0.3点であった。

考察

 低コストで市販されているAVGは適度な運動と楽しみの機会を提供できる。軽度の脳性麻痺児はボクシングやダンスゲームのような全身運動を必要とするAVGゲーム中に、適度な運動レベルとなった。これは健常児を対象とした先行研究でも同様な結果であった。また、すべてのゲームはある程度運動を促進できるかもしれないが、特定の関節をターゲットにしたり、両側性の運動を促進したりと、戦略を選択することができる。 
現在までに、少なくても5つの事例研究で、健常者におけるAVGゲーム中の怪我の報告がある。本研究では、片麻痺脳性麻痺児の非麻痺側肢にとって比較的低い活動レベルであることが示唆された。しかし、麻痺側肢のリスクや、長期的なリスク等、AVGゲーム中のリスクの調査が必要である。 
AVGの身体活動の促進やリハへの応用を検討するため、自宅で使用した場合の調査と長期的な追跡調査が必要となる。

【解説】

 脳性麻痺児を対象としたAVGの可能性を検討した報告である。 
本研究では、粗大運動能力分類システム(Gross Motor Functional Classification System; GMFCS)のレベルⅠ(制限なしに歩く)とレベルⅡ(歩行補助具なしに歩く)[1]の脳性麻痺児17名を対象としている。独立して立位でゲームできるという理由からこのような対象者となった。レベルⅡ(1名)と両麻痺(2名)の脳性麻痺児では、上記の結果と同様な結果とならず、対象者数を増やし再検討する必要があると述べられている。 
AVGに関する論文のシステマティックレビュー[2]‐[3]をみてみると、28の実験室での研究(子どもだけでなく成人を対象とした研究を含む)があり、すべての研究で軽度な運動を提供できる可能性があると実証された。子どものみならず成人を対象とした場合も、身体活動を増加させるためにAVGが応用可能かどうか検討するために更なる調査が必要である。

【参考文献】

  1. 近藤和泉 : 脳性麻痺のリハビリテーションに対する近年の考え方と評価的尺度.リハ医学37(4):230-241,2000.
  2. Wei Peng, Jih-Hsuan Lin. : Using Active Video Games for Physical Activity Promotion: A Systematic Review of the Current State of Research. Health Educ Behav published online. 6 July 2012
  3. 日本生活習慣病予防協会HP http://www.seikatsusyukanbyo.com/calendar/2012/002125.php

2013年01月01日掲載

PAGETOP