全身振動刺激の単回施行が慢性期脳卒中患者の足関節底屈筋群の痙縮と歩行パフォーマンスに及ぼす影響:無作為化比較試験

Chan KS, Liu CW, Chen TW, Weng MC, Huang MH, Chen CH.: Effects of a single session of whole body vibration on ankle plantarflexionspasticity and gait performance in patients with chronic stroke: a randomized controlled trial. Clin Rehabil. 2012 J Neurol Sci.2012 Dec; 26(12):1087-95. Epub 2012 Oct 3.

PubMed PMID:23035004

  • No.1303-2
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年3月1日

【論文の概要】

背景

 脳卒中後に痙縮を有する患者は39%と高いことが報告されている。脳卒中患者の足関節の痙縮は、足関節底屈筋が歩行中の1歩において積極的な機械的仕事の50%程度寄与しているということからも主要な関心事となっている。足関節背屈の減少は歩行周期中の遊脚期時間と両脚支持期時間の増加させる要因であると推測される。そのため痙縮がある足関節は歩行速度と移動性を減少させている可能性がある。痙性抑制コントロールのための第一のアプローチは保存的治療と外科的介入がある。保存的治療は、一般的にポジショニング、他動的ストレッチ、動的運動を用いた理学療法、スプリント、投薬とボツリヌス毒素注射が含まれる。また痙縮に対する外科的治療は、もう一つの治療的選択であるが、合併症の可能性が高い。いくつかの研究で痙縮に対するWhole Body Vibration(WBV)トレーニングの影響について調査されている。WBVトレーニングは成人脳性麻痺者や慢性期脊髄損傷者の膝関節伸筋群の痙縮を減弱させることが可能であるとの報告がある。そしてWBVの刺激は、筋紡錘およびα運動ニューロンを刺激し、緊張性振動反射を引き起こして、その結果として随意的筋収縮を誘発することが可能であるとしている。そのため、筋力増強や固有受容器コントロールの改善に使用されている。WBVは運動ニューロンの興奮性を調整することが可能であるが、痙縮に対するWBVの有益性はまだ完全に理解されていない。

目的

 この研究の目的は、WBVが脳卒中患者の痙縮を減弱させる能力があるか検証することである。

方法

 対象は慢性期脳卒中患者37名であり、そのうち選択基準および除外基準に該当するものは32名であった。本研究は、対象者と評価者の両方を盲検化した無作為化比較試験であった。参加者は、WBV群とコントロール群に無作為に振り分けられた。介入方法は、WBV群に対して振動周波数12Hz、振幅4mmでの垂直振動刺激で単回実施での介入を行った。実施中は、体幹直立位にて臀部をサポートしたセミスクワット肢位とし、両足部へ出来る限り均等に荷重するようにした。実施時間は、10分間を2回、1分間の休憩を入れて実施した。コントロール群も手順は同様であるが、振動機器の電源は入れずに実施した。なお、実施場所は周囲からみえない部屋で実施した。評価項目は、麻痺側足関節痙縮の評価としてModified Ashworth Scale(MAS)、アキレス腱反射、またH反射最大振幅およびH波/M波の比率を算出し評価した。主観的評価としては歩行時の足関節痙縮の影響をVisual Analogue Scale(VAS)を用いて評価した。パフォーマンステストとして、Timed Up and Go(TUG)テスト、10m歩行テストを実施し、またフォースプレートを用いた静的立位時の左右足部荷重量の体重あたりの割合を算出した。これらのすべての評価は介入前後に実施した。なお、介入後の評価では、対象者の足関節痙性評価に影響が出ないように車椅子にて評価室へ移動した。統計学的解析は、介入前後の評価結果について対応のあるt検定、WBV群とコントロール群の群間比較には2標本のt検定とフィッシャーの正確確率検定を実施した。

結果

 痙縮評価および神経生理学的検査の結果、群内における介入前後の比較では非麻痺側および麻痺側のH波/M波の比率の変化値において有意にWBV実施後に低下したが、コントロール群では有意な変化は見られなかった。群間の比較ではH波/M波の比率、MAS、VASの変化値において、WBV群で有意に減少する結果となったが、それ以外では有意な差は見られなかった。TUGおよび10m歩行テストでは、介入前後の変化値についてWBV群で有意に改善したが、ケイデンスでは有意な差は見られなかった。 立位時の両足部荷重率の変化では、介入前後の変化値についてWBV群で麻痺側、非麻痺側とも有意な変化(麻痺側への荷重率増加、非麻痺側への荷重率減少)が見られたが、コントロール群では変化は見られなかった。

考察

 MASにおいてWBV群で有意に減少しており、また先行研究でも同様の結果を報告していることからも、脳卒中患者の足関節痙縮に対するWBVトレーングは有益な方法であることが示唆された。ただしシナプス前抑制やpostactivation depressionを含めた痙性に対する振動刺激の異なる影響も十分考慮するべきである。Ⅰa求心性線維のシナプス前抑制は運動ニューロンに対する神経伝達物質の放出が減少し、それによって運動ニューロンでのⅠa求心性線維の影響が減弱、結果としてH反射の振幅が抑制されることになる。本研究では、H反射の振幅はWBV後でも有意な変化は見られなかったが、MASは有意に変化することがわかった。この結果から、シナプス前抑制と痙縮の関係については今後もより詳細に研究していく必要があると考えられる。過去の報告においても様々な研究者がバランスや歩行能力などWBVの有益な効果を報告している。本研究でもTUGや10m歩行においてWBV後に有意に改善がみられ、転倒リスクの減少や歩行速度の増加といった、脳卒中関連機能やQOL、特に在宅での移動能力に関連する臨床上有益な改善があったといえる。歩行能力向上については、足関節の痙縮減少が移動性やスピードといった歩行能力に影響を与えているものと考えられる。足関節コントロールの改善が歩行速度を増加させるという報告もあり、今回の結果からもWBVは神経筋リハビリテーションの促通に効果的であると示唆された。本研究は脳卒中患者に対するWBVの有益な効果を示した。しかし、より多くの対象者が統計学的な検出力を増加させた可能性がある。また脳卒中患者に対するWBVトレーングの長期的な効果を調査するために対象者を増やして追跡調査を行うことが有益となるであろう。

【解説】

 この研究報告は、脳卒中患者へ対するWBVを用いた介入研究であり、厳密に計画された無作為化比較試験である。特に、対象者の群分け、評価者および介入者のすべてを盲検化した方法にて実施しておりエビデンスレベルが高い報告といえる。WBVを用いた研究は、PubMedにて「whole body vibration」のキーワードで検索すると1000件以上の結果が出力され、過去10年間で700件程度、5年間で500件程度とまだ新しいテーマである。当初は健常者やアスリートが対象の中心であり、筋量、筋力、筋パワーといった筋機能向上やパフォーマンス向上の報告が多かったが、最近では閉経後の女性で骨塩量が増加した、転倒リスクのある高齢者でバランス能力が向上し転倒リスクが軽減したなど、WBVの適応範囲は広い。傷病者を対象とした報告では、脳性麻痺者、脊髄損傷者、パーキンソン病患者、多発性硬化症患者など神経筋疾患患者へ対する介入も行われており各種効果を上げている報告が多い。今回注目した脳卒中患者へ対するWBV介入の報告では過去10年でも数件しかなく、その報告内容をみても今回のような即時効果を検証した報告[1]や長期介入効果の報告[2][3]など見られるが、介入効果については統一した見解がみられない印象がある。しかしながら、今回の報告はエビデンスレベルが高く、痙縮に対するWBVは痙縮を増悪させないことが示唆されたことから、WBVを脳卒中患者へ使用することの有益性はかなり高いものと考える。ただし、これまでの報告では介入内容(強度、時間、頻度など)が統一されていないのが現状であり、WBVを含めた運動療法の介入時には運動強度など適切な負荷量設定方法を検討する必要があろう。そのような意味でもWBVを用いた介入方法はまだまだ発展途上であるため、今後より詳細な神経生理学的、運動生理学的な基礎研究報告を期待したい。 
​ なお、従来は麻痺筋への高頻度の刺激は痙縮を増悪させると危惧されていたが、脳卒中ガイドラインにおいても筋力増強訓練は筋緊張を増悪させないとしており、加えて今回の研究報告からもWBVを用いた積極的な筋機能やパフォーマンス改善へのアプローチは今後の脳卒中リハビリテーションに有効なデバイスになり得るであろう。

【参考文献】

  1. van Nes IJW, Geurts ACH, Hendricks HT, Duysens J. Short-term effects of whole-body vibration on postural control in unilateral chronic stroke patients: Preliminary evidence. Am J Phys Med Rehab 2004; 83(11): 867-873.
  2. Brogardh C, Flansbjer U-B, Lexell J. No specific effect of whole-body vibration training in chronic stroke: a double-blind randomized controlled study. Arch Phys Med Rehabil. 2012; 93(2): 253-258.
  3. van Nes IJ, Latour H, Schils F, Meijer R, van Kuijk A, Geurts AC. Long-term effects of 6-week whole-body vibration on balance recovery and activities of daily living in the postacute phase of stroke: a randomized, controlled trial. Stroke 2006; 37(9): 2331-2335.

2013年03月01日掲載

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