機能的足関節不安定性を有するボランティアにおける機能的パフォーマンスの低下

Docherty CL, Arnold BL, Gansneder BM, Hurwitz S, Gieck J.: Functional-Performance Deficits in Volunteers With Functional Ankle Instability. J Athl Train. 2005;40:30-34.

PubMed PMID:15902321

  • No.1304-1
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年4月1日

【論文の概要】

背景

 機能的パフォーマンステストは下肢機能を評価するために用いられる動的なテストのことである。このようなテストは、関節の損傷によって影響を受けると予測される筋力や神経筋協調性、関節の安定性のような多くの要素を含んでいるため下肢の機能評価に有用であり、臨床的には膝関節・足関節疾患を持つ者に対して競技復帰の基準としても用いられている。 
​ 膝前十靭帯損傷者に対しては、機能的パフォーマンステストとして、シャトルランや片脚幅跳び、片脚8の字跳躍など様々なテストが用いられている。しかし、Itoら[1]は膝前十字靭帯損傷患者の82%で片脚8の字跳躍、片脚横跳び、片脚段差昇降、片脚幅跳びのテストのうち少なくとも1つで低下が確認されたと報告しており、動的な機能低下の有無を推測するためには使用するテストの種類や数を考慮に入れる必要があることを示唆している。 
​ 足関節損傷者に対しても、機能的パフォーマンス評価のために様々なテストが用いられている。しかし、足関節損傷の既往のある肢は機能的パフォーマンスが低下したという報告がある一方で、足関節の不安定性があっても機能的パフォーマンスは低下しなかったという報告もあり、一致した見解が得られていない。このような矛盾する結果を解決するためには、使用するテストの種類や数を考慮に入れ、矢状面上、前額面上、またそれらを混合した複数のパフォーマンステストを実施する必要がある。

目的

 矢状面上、前額面上、またそれらを混合した複数のパフォーマンステストを用い、機能的足関節不安定性(Functional ankle instability: FAI)と機能的パフォーマンスの低下との間に関連があるかを明らかにすることである。

方法

 下肢に骨折または手術歴のない大学生ボランティア60名を対象とした。その内42名は片側にFAIを有しており、18名はFAI有していなかった。本研究では、FAIの有無の判断として、対象者の自覚的な足部不安定感に着目し、 6項目の質問(①足関節捻挫の既往がある、②平面歩行時、③平面以外の歩行時、④スポーツ活動中、⑤階段昇段時、⑥階段降時に足関節の不安定感を感じたことがある)のうち①に該当し、さらに②~⑥で1項目以上当てはまる者をFAI有とした。また、FAIの重症度を示すために各質問項目の得点を1点として、合計得点をFAI indexと定義して求めた。 
 機能的パフォーマンステストとして片脚8の字跳躍、片脚横跳び、片脚段差昇降、片脚幅跳びを実施した。片脚8の字跳躍では、5m離してコーンを設置し、コーンを8の字を描くように2周片脚にて周回させ、その時間を測定した。片脚横跳びでは、30cm離した平行な線を引き、その間を片脚にて10往復する時間を測定した。片脚段差昇降では、20cmの台を使用し、10往復昇降する際の時間を測定した。片脚幅跳びでは、片脚にて出来るだけ遠くへ跳躍を行い、その際の距離を測定した。テストは1課題につき2回ずつ行い、良い方の記録を採用した。課題間には1分間、2回の施行間には30秒の休憩を設けた。また、それぞれのテスト終了後には、施行中の足関節不安定感の有無について調査した。なお、FAI有、無ともにテストした肢の左右の割合は、右側約60%、左側約40%と同程度であった。 
 統計解析として、FAI indexとそれぞれのパフォーマンステストの成績との関係ならびにFAI indexと足関節不安定感有と答えたテストの数の関係についてピアソン積率相関係数を用いて検討した。有意水準は0.05未満とした。

結果

 FAI indexと片脚8の字跳躍、片脚横跳びの間に有意な正の相関が認められた(それぞれr = 0.35, p < 0.01, r = 0.31, p < 0.05)。FAI indexと段差昇降ならびに片脚幅跳びの間には有意な相関は認められなかった。FAI indexと足関節不安定感有と答えたテストの数の間に有意な正の相関が認められた(r = 0.43, p < 0.01)。

考察

 本研究結果から、FAI indexと片脚8の字跳躍、片脚横跳びの間には有意な相関が認められ、FAIが重度な者ほど片脚8の字跳躍ならびに片脚横跳びのパフォーマンスが低下することが示された。しかし、FAI indexと片脚段差昇降、片脚幅跳びの間には有意な相関は認められなかった。このような結果となった要因として、片脚8の字跳躍や片脚横跳びでは前額面上の運動が含まれており、足関節への側方へのストレスが強制されたことが考えられる。特に片脚8の字跳躍は、足関節の側方へのストレスに加え、足関節回旋ストレスも含まれている。これに対し、片脚段差昇降や片脚幅跳びは主に矢状面上の動作であり、足関節への側方および回旋ストレスは小さいと考えられる。足関節捻挫のような典型的な足関節の外傷のメカニズムとして、主に足関節への過度な回外を引き起こす側方への運動があげられる。そのため、横方向もしくは回旋方向へのストレスが足関節に加わる片脚8の字跳躍ならびに片脚横跳びにおいて、FAI indexとの相関が認められたと推察される。今後は、側方移動や回旋運動を含む他のパフォーマンステストにおいても同様の結果が得られるか、FAIになりやすい状態にある者を推測することができるかなどをさらに詳細に調査して明らかにしていく必要があると考える。 
​ また、本研究ではFAI indexと足関節不安定感有と答えたテストの数の間に有意な相関が認められた。4つのパフォーマンステストうち、少なくとも1つのテストで足関節の不安定感を訴えたFAI有の対象者は76%であった。さらに詳細に分類したところ片脚8の字跳躍で不安定感を訴えたFAI有の対象者は33%、片脚横跳びでは60%、片脚段差昇降では60%、片脚幅跳びでは14%であった。片脚段差昇降においては、明らかなパフォーマンスの低下が認められなかったにもかかわらず、不安定感を訴えた者の数が多い結果となった。今後片脚段差昇降行において、なぜこのような結果になったかを検討していく必要があると考える。

【解説】

 足関節内反捻挫受傷後などに生じる慢性的な足部不安定性は、構造的不安定性と機能的不安定性(FAI)に大別される[2]。構造的不安定性は一般的に「関節構成体の損傷により生理学的な関節可動域を逸脱し、副運動が増大して不安定性が残存している状態」と定義され、FAIは「構造的不安定性の有無に関わらず、足関節捻挫受傷後に不安定感”giving way”が残存している状態」と定義されている[2, 3]。先行研究では、慢性的な足部不安定性を有する者のうち、構造的不安定性を有する割合は24~68%と報告されており[4,5,6]、慢性的な足部不安定性は構造的不安定性以外の要因によっても引き起こされることが示唆されている。そのため構造的不安定性のみならず、FAIを評価することは重要であると考えられる。本研究では、FAIを評価して、パフォーマンスとの関連を検討しているという点で有意義なデータを提供している。
 足関節の側方の安定性は主に靭帯や腓骨筋群、後脛骨筋に委ねる部分が大きい。そのため、足関節捻挫受傷後等の固有感覚障害や神経筋コントロール障害、筋力低下は動的安定性の破綻を惹起し、機能的不安定性を生じる要因となる[2, 3]。本研究ではFAIと片脚横跳びや片脚8の字跳躍のように、横方向や回旋方向のストレスが足関節に加わるテストにおいての相関が認められており、側方の動的安定性の破綻がFAIに影響を及ぼすことを支持する結果となっている。このことから、臨床の場面においてFAIの有無を判断するためには、横方向、回旋方向へのストレスが足関節に加わる課題を選択する必要があると考えられ、このようなテストを選択することで足関節捻挫後の競技復帰の時期の決定などに役立つことが考えられる。
 しかし、本結果ではFAI indexと片脚横跳びや片脚8の字跳躍との間の相関係数が小さく、また明らかなパフォーマンスの低下が認められなかったにもかかわらず、不安定感を訴えた者の多いテストも存在している。これらのことから他覚的な結果のみならず、自覚的な症状も調査するとともに、横方向や回旋方向のストレスが足関節に加わるテスト以外のテストも用いて、FAIとパフォーマンスの関連をさらに詳細に調査する必要があると考える。また、FAIの質問項目や重症度の分類もさらに詳細に検討する必要があると考える。

【参考文献】

  1. Ito H, et al.: Evaluation of functional deficits determined by four different hop tests in patients with anterior cruciate ligament deficiency. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 1998;6:241-45.
  2. Hertel J: Functional instability following lateral ankle sprain. Sports Med. 2000;29:361-71.
  3. 福原徹,他:足関節捻挫予防プログラムの科学的基礎.ナップ,2010.
  4. Tropp H, et al.: Stabilometry recordings in functional and mechanical instability of the ankle joint. Int J Sports Med. 1985;6:180-2.
  5. Ryan L: Mechanical stability, muscle strength and proprioception in the functionalally unstable ankle. Aust J Physiother. 1994;40: 41-7.
  6. Lofvenberg R, et al.: The outcome of nonoperated patients with chronic lateral instability of the ankle: a 20 year follow-up study. Foot Ankle Int. 1994;15:165-9.

2013年04月01日掲載

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