整形外科部門で拡張的な役割を担う理学療法士の介入による保存療法患者の追跡調査:理学療法士による指導内容の回想,運動と自己効力感の変化

MacKay C, Davis AM, et al. : A single group follow-up study of non-surgical patients seen by physiotherapists working in expanded roles in orthopaedic departments: recall of recommendations, change in exercise and self-efficacy BMC Res Notes. 2012 Dec ;5:669

PubMed PMID:23206311

  • No.1308-1
  • 執筆担当:
    弘前大学
    医学部保健学科
    理学療法学専攻
  • 掲載:2013年8月1日

【論文の概要】

背景と目的

 変形性関節症患者の増加に伴い、人工関節全置換術を受けるまでに待機期間を要するなど、整形外科的サービスに関するさまざまな問題が生じている。このような問題を改善するため、慢性疾患の管理を支援する拡張的な役割を担う保健・健康の専門家として特別に訓練された理学療法士(高度専門理学療法士advanced practice physiotherapists;APP)が、整形外科クリニックに勤務するようになってきている。
​ これまではあくまで手術的治療を前提として、それに関わるAPPの介入効果には着目されてきたが、保存的治療を施行する患者に及ぼす効果についてはほとんど検証されてこなかった。
​ この研究の目的は、整形外科クリニックで変形性股関節症または変形性膝関節症と診断されて保存的療を施行している患者について、6週間の自己管理を試みてもらい、1)APPによる指導内容、自己管理の方法、自己管理を行う上で問題となる点を患者に報告してもらうこと、2)患者の運動への関心と自己効力感の変化を調査開始時と6週間後で比較することである。

対象と方法

 対象はAPPが診療を行っているカナダのオンタリオ州トロントにおける2カ所の整形外科クリニックで​ 保存的治療の適応と判断された変形性股関節または変形性膝関節症の患者である。
調査開始時と6週間後に、電話を利用して患者から直接聴取する方法によって評価を行った。まず、APPによる指導内容、自己管理方法、自己管理を行う上で問題となった点について、自由に回答してもらった。
​ さらに、スタンフォード運動関心尺度(運動関心尺度)と慢性疾患のための自己効力感の6項目尺度(自己効力感尺度)も測定した。
運動関心尺度は、複数の運動項目のそれぞれに対して1週間のうちどのくらいの時間を費やしたか、[なし]、[60分以下]、[1~3時間]、[3時間以上]の4段階で評価する尺度である。運動項目ごとに、費やした時間が調査開始時と比較して6週間後に増加、減少、変化なしの何れに該当するかを求めた。
​ 自己効力感尺度は、患者が感じる自信の度合いに関する6項目を[1;まったく自信がない]から[10;十分に自信がある]までの10段階で評価する尺度である。自己効力感尺度に関しては、対応のあるt検定を用いて調査開始時と6週間後で比較した。

結果

 2007年9月~2008年12月の期間に研究を実施し、対象の取り込み基準に従い、同意を得た者のうち、最終的に継続的な評価を実施できたのは73例(うち女性49例)であった。対象者の平均年齢は58.5歳(範囲19~82歳)であった。疾患の内訳は、変形性膝関節症60例、変形性股関節症12例で、1例のみ変形性膝関節症と変形性股関節症の両方を罹患していた。
 APPによる指導について、65例(89%)は変形性関節症に対する管理を目的とした何らかの指導を少なくとも1種類は受けていると回答した。指導内容は、運動の推奨(52例・71%)、変形性関節症に関する情報の再確認(47例・64%)が多かった(重複回答あり)。運動を推奨された65例中43例(83%)は、6週間の期間中に指導内容を思い出して実施したと報告していた。
 自己管理の方法については、56例(76%)が運動と回答し、次いで多かったのは減量または体重管理27例(37%)、変形性関節症に関する情報の再確認27例(37%)であった。
 自己管理を行う上で問題となった点として、時間がないと回答した者が最も多く(27例・37%)、次いでサービス・設備にかかる費用(18例・25%)、健康に関する他の問題(18例・25%)という結果であった。
 運動関心尺度における調査開始時と6週間後との運動に費やす時間の比較では、ストレッチング(増加49%、減少23%、変化なし28%)、筋力強化(増加41%、減少12%、変化なし47%)、歩行(増加42%、減少17%、変化なし41%)、他の有酸素運動(増加34%、減少15%、変化なし51%)であった。  自己効力感尺度では、調査開始時の平均6.3から6週間後には平均7.2となり有意な改善が認められた(p < 0.001)。差の平均は0.95で、差の95%信頼区間は0.43~1.62、効果量は0.51であった。

結論

 保存的治療を受ける整形外科疾患患者にとって、APPが介入することにより自己管理を行う際の自己効力感が改善するとともに、運動に費やす時間が増加する有益な結果を得た。理学療法士が保健・健康の専門家としての新しい役割を担うことによって、増加している慢性疾患患者への対応策の発展に寄与し得る可能性が示された。今後は、長期的な患者のアウトカムに関して、さらなる検討が必要である。

【解説】

 スタンフォード運動関心尺度は参考URL[1]、慢性疾患のための自己効力感の6項目尺度は参考URL[2]を参照されたい。自己効力感とは最近よく耳にする言葉だが、もともとは心理学の用語で(この訳が適切であるかどうかも疑問視されている)、「自分が行為の主体であると確信すること、自分の行為について自分がきちんと統制しているという信念、自分が外部からの要請にきちんと対応しているという確信」という意味をもつ。わかりやすくいえば何らかの課題に対して「これなら自分はできる、自分なら達成できている」のような意味合いとなる。
​ 本邦における変形性関節症患者に対する理学療法は、関節機能の改善に主眼をおいた手段となりがちであるが、慢性進行性の疾患であるという特性から、言語による介入、すなわち患者教育による自己管理能力の育成には大きな関心を示していない。そうした意味で、本論文のような研究が貴重な資料となるのはいうまでもない。日整会診療ガイドライン[3]では「変形性股関節症に対する患者教育は有効か」というリサーチクエスチョンに対して、「患者教育は変形性股関節症の症状の緩和に対して有効であり、行うべきである(推奨グレードA)」といわれるものの、「患者教育の長期的な病期進行予防効果に関しては不明である(推奨グレードI)」という曖昧な部分もある。
​ 実際に本論文の結論でも述べているが、長期的な治療効果としての検討が必要である。確かに運動を継続することが“健康への関心”という意味では効果的であろうが、疾患固有の治療効果として成立するかどうかは不明な現状である。こうした分野の研究は今後蓄積され、確たるエビデンスとして提供されるべきである。

【参考文献】

2013年08月01日掲載

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