下肢の選択的コントロール評価(Selective Control Assessment of the Lower Extremity ;SCALE):脳性麻痺患者における臨床評価ツールの発展と妥当性・検者間信頼性

Fowler EG, Staudt LA, Greenberg MB, Oppenheim WL. Selective Control Assessment of the Lower Extremity (SCALE): development, validation, and interrater reliability of a clinical tool for patients with cerebral palsy. Dev Med Child Neurol. 2009 Aug;51(8):607-614.

PubMed PMID:19220390

  • No.1312-2
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    健康福祉学部理学療法学科
  • 掲載:2013年12月2日

【論文の概要】

背景

 脳性麻痺患者における下肢の選択的な運動コントロールの評価は、機能的な能力を予測する因子として支持されているにも関わらず、ほとんど関心をもたれてこなかった。脳性麻痺患者における足関節の運動コントロールに関する研究は行われているが、下肢全体を評価する詳細な評価法は立証されていない。

目的

 臨床的に有用で妥当性・信頼性のある評価として、痙直型脳性麻痺患者の選択的随意運動コントロールにおける下肢の評価が必要である。本研究の目的は、臨床的な評価として下肢選択的コントロール評価(SCALE)を発展させ、その妥当性と信頼性を明らかにすることである。

方法

 内容妥当性の検証は、熟練の臨床家14名(経験年数幅:10~40年、平均経験年数:21年1ヶ月)が行った。患者のビデオや写真を使用した検討会議を行い、SCALEの暫定版を32個の質問項目について、賛成か不賛成かを検討した。SCALEの暫定版の改正は、専門家のフィードバックに基づくように行われた。
 検者間信頼性は、痙直型脳性麻痺患者20名(年齢幅:7歳0ヶ月~23歳0ヶ月、平均年齢:12歳3ヶ月)を対象とし、検査者は経験年数1~29年の臨床家6名が行った。対象者と検査者を2つのグループに分け行った。評価の標準化を図るために、検査者は事前にビデオにて20例の評価練習を行った。
 構成概念妥当性は、SCALEと運動機能の評価である修正版のrevised edition of the Gross Motor Function Classification System(GMFCS-ER)を使用し行った。対象はGMFCSレベルⅠ~Ⅳの痙直型脳性麻痺患者51名(年齢幅:5歳1ヶ月~23歳0ヶ月、平均年齢:11歳11ヶ月)とした。SCALEの評価は、検者間信頼性の実験に参加した2名の療法士によって行われた。

結果および考察

 内容妥当性の検証では、合計448個の回答のうち、賛成が得られた項目は395個だった(賛成率:91.9%、幅:71.4~100%) 。32個の質問項目のうち24項目が90%の賛成基準を超えた。
 検者間信頼性は二群での左右下肢の測定において、それぞれ0.88~0.91と高い値が得られた。
 構成概念妥当性はスピアマンの順位和相関係数にてGMFCS-ERと-0.83という負の相関関係が得られた。GMFCSレベルⅢの者はレベルⅡ・Ⅳの者とSCALEの点数がオーバーラップしていた。下肢随意性は機能的な運動機能を規定する因子の一つであるが、バランスや痙性、拘縮、筋の弱化、肥満などの障害が、運動機能を規定するその他の要因としてある。レベルⅢの者は、上肢機能の程度によって下肢随意性が低い者でも、日常的に歩行器を使用することができた。そのため、レベルⅡ・Ⅳの者とSCALEの点数がオーバーラップしていたと考えられる。
 SCALEは10~15分で測定が可能であり、高い検者間信頼性が得られているので、臨床的に有用と言える。SCALEの測定には言語指示が必要なため、GMFCSレベルⅤの者のように重度の知的障害や運動障害をもつ者、4歳以下の者には適さないであろう。

【解説】

 本論文は、脳性麻痺患者の下肢運動コントロールを評価し、下肢随意性をとらえるという研究である。過去に体系だって下肢随意性の評価法を作成した報告はないことから、参考となる論文である。また、短い計測時間で測定が可能で、専門家が評価を行うことで高い信頼性が得られている点でも参考にできる評価方法である。
​ 痙性や拘縮は、二次的な障害につながることが明らかになっている。選択的な運動コントロールの欠如は、より重度な機能障害につながると考えられているが、その関係を明らかにした研究はない。下肢運動コントロールの程度が機能障害とどのように関連しているのか、本研究は改めて下肢随意性の評価の重要性・可能性を示唆している。

【参考文献】

  1. Lowing K, Carlberg EB. Reliability of the Selective Motor Control Scale in children with cerebral palsy. Adv Physiother1: 1-6, 2008.
  2. Voorman JM, Dallmeijer AJ, Knol DL, Lankhorst GJ, Becher JG. Prospective longitudinal study of gross motor function in children with cerebral palsy. Arch Phys Med Rehabil 88: 871-876, 2007.
  3. Ostensjo S, Carlberg EB, Vollestad NK. Motor impairments in young children with cerebral palsy: relationship to gross motor function and everyday activities. Dev Med Child Neurol 46: 580-589, 2004.

2013年12月02日掲載

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