過剰な扁平足は機能に影響を及ぼすのか?Oxford Foot Modelを用いた症候性・無症候性扁平足の比較

Matthias Hosl, Harald Bohm, Christel Multerer, Leonhard Doderlein. Does excessive flatfoot deformity affect function? A comparison between symptomatic and asymptomatic flatfeet using the Oxford Foot Model. Gait&Posture 2014 jan; 39(1) 23-28.

PubMed PMID:23796513

  • No.1401-1
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年1月6日

【論文の概要】

背景

 扁平足は、柔軟性のないものと、柔軟性のあるものに分けることができる。柔軟性のある扁平足では、症状を認める扁平足(SFF)、症状を認めない扁平足(ASFF)に分けることができる。柔軟性のない扁平足では治療の必要性が唱えられている。
 成人の扁平足は、膝痛や 、軟骨損傷、脛骨ストレス症候群と関連するという知見がある。障害予防のため、重度のASFFではアライメントを整えることが推奨される。しかし、実際に未治療のASFFがSFFになるという確証は得られていない。また、扁平足の評価ではX線写真によるものが一般的だが、静的な評価であり、動的な機能を示すものではない。そのため、三次元動作解析装置を用いた歩行時の足部機能の解析は、機能や変形の程度を知るためのよりよい手段であると考えられる。

目的

 本研究の目的は、三次元動作解析装置を用い、通常発達足(TDF)と比べ、症候性扁平足(SFF )および、無症候性扁平足( ASFF )の歩行時の足部機能を運動学、運動力学的に検討することである。仮説として、SFF群とASFF群では、第一にTDF群との運動学的な違いを認めること、第二に柔軟性の低下、関節可動域の狭小を認めること、第三に機能的な制限と、衝撃吸収や推進の欠如を認めることがあげられた。

方法

 対象は、小児及び若年の症候性扁平足者14名(SFF群)、無症候性扁平足者21名(ASFF群)、正常発達した足部をもつコントロール群11名(TDF)とした。扁平足群は踵骨の外反、アーチの低下、"too many toes sign"の臨床所見のうち少なくとも2つの臨床所見を認めた。また、扁平足者の足部は全て柔軟性を有し、踵骨の内反や、踵挙上時にアーチの挙上を認めた。ASFF群においては何も症状は認めず、SFF群では、6ヶ月以内に片側(2/14)、もしくは両側(12/14)に症状を認めていた。
 対象に対し、口頭による疼痛・不快感・疲労感の聞き取り調査及び、足関節の関節可動域検査、歩行計測を実施した。歩行計測はVicon Nexus Systemおよび8台のカメラ、2枚の床反力計を使用した。マーカーセットはPlug in gait modelに加え、Oxford Foot Modelを追加して添付した。 
 統計処理はMatLabを使用し、一元配置分散分析、ポストホック検定、Hedges’gの算出をおこなった。

結果

 足関節背屈可動域は ASFF群、SFF群に比べTDF群が大きかったが(ASFF11.2°±6.8°、SFF11.0°±6.2°対TDF22.9°±4.4°)、ASFF群とSFF群に有意な差は認めなかった。
 歩行速度は、SFF群は、ASFF群、TDF群にくらべ遅く(SFF0.45±0.06対ASFF0.48±0.04、TDF0.49±0.07)、歩幅が小さかった(SFF76.5±7.2対ASFF81.0±5.8、TDF83.0±8.6)。歩隔はTDF群に比べ、SFF群、ASFF群が大きかった(TDF34.0±7.3対ASFF51.2±10.3、SFF50.7±10.1)。 

 荷重応答期における衝撃吸収エネルギーはTDF群、SFF群に比べ、ASFF群が大きかった(ASFF0.017±0.01対SFF0.013±0.006、TDF0.012±0.006)。推進期における産生エネルギーは、SFF群に比べ、ASFF群が大きかった(ASFF0.279±0.071、SFF0.232±0.048)。TDF群との間に有意差を認めなかった。
 足部に関しては、ASFF群とSFF群間に大きな差を認めなかったが、ASFF群、SFF群はTDF群比べ、後足部の最大背屈角度の減少(ASFF9.0°±5.7°、SFF7.7°±5.7°対TDF15.1°±3.9°)、踵接地時の外反角度の増加(ASFF-5.6°±6.5°、SFF-4.9°±4.3°対TDF0.0°±5.9°)、前足部の最大背屈角度の増加(ASFF10.0°±4.5°、SFF10.9°±5.6°対TDF6.4°±4.5°)、踵接地時の回外角度の増加(ASFF14.7°±6.2°、SFF15.0°±6.4°対TDF8.3°±7.4°)、外転角度の増加(内転角度の減少)(ASFF3.1°±6.8°、SFF3.6°±6.2°対TDF12.4°±6.3°)、母趾の背屈角度の増加を認め、加えて母趾ではSFF群に比べ、ASFF群で背屈角度が大きかった(ASFF30.5°±10.4°対SFF25.2°±9.9°対TDF14.9°±7.9°)。また、アーチの高さには有意差は認めなかったが、push-offの際のアーチの挙上はASFF群、SFF群はTDF群に比べ大きかった(ASFF7.8°±2.0°、SFF8.2°±2.8°対TDF6.2°±2.0°)。   

考察

 本研究において、通常発達足(TDF)から、症候性と無症候性の扁平足群(SFF、ASFF)を区別することはできた。第一に通常発達足に比べ、扁平足群で運動学的な違いを認めた。しかし、症候性扁平足(SFF)と無症候性扁平足(ASFF)を区別することはできず、運動学的な違いは認めなかった。第二に両方の扁平足群で、Segment間の運動には運動制限および過剰運動を認めた。第三にSFF群では推進期の足関節エネルギーが欠如する傾向があり、一方ASFF群では、荷重応答期の衝撃吸収エネルギーが大きかった。
 通常足群と扁平足群の歩行時の運動学的な違いとして、扁平足群では後足部の背屈角度の減少、前足部、母趾での背屈角度の増加を認めた。これは、後足部の背屈制限の代償であると考えられ、また、母趾の背屈角度の増加はアーチ低下に抗するためのものであると考えられる。後足部の外反角度の増加は、前足部の回外にともなって生じたと考えられる。
 ASFF群における荷重応答期の衝撃吸収エネルギーが大きかったのは、扁平足による後足部外反、外転運動が距骨での支持性の低下を招き、急速なフットスラップが生じたためと考えられる。そのため、扁平足者では、前脛骨筋の大きな負担が考えられ、シンスプリントのリスクが考えられる。 

 症候性と無症候性の扁平足において、運動学的な違いを認めなかったことから、症状の出現には組織の摩耗や痛覚閾値の違いが影響している可能性がある。
 本研究の限界としては、サンプルが重症なほうへ偏りが生じていた可能性、症状をアンケートによって聞き取ることで、自己知覚による機能制限をきたしていた可能性が考えられる。

【解説】

 本研究は、足部を後足部・前足部・母趾部の3つのsegmentにわけ運動解析ができるOxford Foot Modelを用い、扁平足の症状の有無と機能に焦点を当てた数少ない研究である。このOxford Foot Modelは小児や成人を対象にした研究により,高い再現性が報告されている1)2)。しかし、このOxford Foot Modelにおいても、足部の各segment間のモーメントなど算出はおこなえない。
 対象を選定するためにおこなわれた"too many toes sign"とは、後方より、立位の足部を観察し、小趾側に観察できる足趾の数をみる検査である。内側縦アーチが低下し、距骨頭の内側移動、踵骨の外反、前足部の外転することで小趾側に観察される足趾は多くなる。
 本研究において歩行速度に有意差がみられたため、足部タイプによるパワーの比較検討は不十分であったと考えられる。足関節に生じるパワーは歩行速度の影響を受ける。パワーとは仕事率のことであり、角速度×モーメントといった計算式によって算出される。歩行では速度の増加に伴い、下肢の速い反復運動が求められ、その分、加速度が大きくなる。そのため、関節に生じるモーメント、パワーの振幅は大きくなる3)。歩行速度を統一または正規化することで、よりよいパワーの比較検討がおこなえたと考えられる。 

 本研究では、扁平足によって生じる症状の出現を機能面から見出すことはできなかった。今後、症状の出現に起因する因子の検索のために、機能的因子としては、各segment間の運動力学の検索、その他因子としては、靴や活動量、活動内容などの検索が必要と考えられる。

【参考文献】

  1. J. Stebbins, M. Harrington, N. Thompson, A. Zavatsky, T. Theologis. Repeatability of a model for measuring multi-segment foot kinematics in children. Gait & Posture 23: 401-410, 2006.
  2. M.C. Carson, M.E. Harrington, N. Thompson, J.J. O’Connor, T.N. Theologis. Kinematic analysis of a multi-segment foot model for research and clinical applications: a repeatability analysis. Journal of Biomechanics 34: 1299-1307, 2001.
  3. 江原義弘, 山本澄子: 歩き始めと歩行の分析. 医歯薬出版株式会社. 東京. 2002. 170-176.

2014年01月06日掲載

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