歩行再教育におけるインターナルフォーカスとエクスターナルフォーカス 脳卒中リハビリテーションにおける理学療法介入場面の観察研究を通して

Johnson L, Burridge JH, Demain SH. Internal and external focus of attention during gait re-education: an observational study of physical therapist practice in stroke rehabilitation.Phys Ther. 2013 Jul;93(7):957-66.

PubMed PMID:23559523

  • No.1403-2
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年3月1日

【論文の概要】

背景

 運動学習において、注意の方向性はパフォーマンスの獲得に重要な役割を持つことが知られている。Durhamらは、上肢のリハビリテーション中に理学療法士の教示やフィードバックを観察し、リハビリ対象者にどのように注意を向けさせているかを区別・分類した。その結果、理学療法介入中に観察された全ての教示のうちの79%、また、全てのフィードバックのうちの96%がインターナルフォーカスであったと報告した。しかしこの研究では、分析対象が上肢のリハビリテーションに限られており、理学療法の介入全体において同様のことが言えるかどうかについては検討されていない。

目的

 本研究では、脳卒中のリハビリテーションの中で、歩行の再学習過程において、理学療法士がインターナルフォーカスやエクスターナルフォーカスをどのように活用しているのかについて明らかにし、脳卒中後の再学習に注意の方向性が与える影響について検証することを目的とした。

方法

 対象者は理学療法士8名(全て女性、脳卒中リハビリテーション従事年数:3-12年)と患者8名(年齢36-85歳、男性5名、女性3名、右片麻痺者4名、左片麻痺者4名)であった。患者は発症後7日~216日、  Modified Rivermead Mobility Indexの点数が15~38点、歩行能力として4名は身体的介助なしで可能、3名は軽介助、1名は歩くことはできなかった。
 理学療法の介入場面をビデオで撮影し、録画した。理学療法士は、歩行の再教育を行うこと以外は、介入内容に関する指示を受けなかった。撮影したデータの分析は二つの方法で行った。一つ目として、インターナルフォーカスとエクスターナルフォーカスを明確に定義しておき、それに基づいて介入場面における理学療法士の教示やフィードバックを同定、分類し、それらの出現頻度について分析マトリックスを用いて量的分析を行なった。二つ目として、どのような教示やフィードバックが使われているかについて詳細な記述を得るために、セラピストと患者との対話を逐語書き出し主題分析を行なった。

結果

 言語的教示やフィードバックの使用頻度は高く、言語的な教示が76%で、フィードバックが22%であり14秒ごとに与えられていた。それらの67%がインターナルフォーカスを示すものであり、22%がエクスターナルフォーカス、残りの11%は両方が混在するものであった。また、注意の方向性とは関係のない言語教示(例:“good”)も定期的に使われていた。また、非言語的教示回数は介入時間内において平均で1.75回であった。言語的な教示のほかに理学療法士はハンドリングを用いていることがすべてのセッションにおいて観察された。しかし、ビデオのみの観察では、ハンドリングの役割(動きに向けられたものか、フィードバックを伝えるものか、もしくは注意を向けさせるものなのか)を明確にすることは不可能であった。

考察

 脳血管障害者のリハビリテーションでエクスターナルフォーカスの効果を示す研究は少ない。しかし、コンピューターを用いた反応時間の研究では、脳血管障害者が特定の指導なしに学習を続けており、実行しようと試みている課題に対する宣言的な知識が学習を低下させうることが示されている。この低下の要因の一つとしてワーキングメモリーに明示的な情報を置くことの増加や、課題を基本的な構成要素に分解することで、自動性を失わせることが仮定される。
 行動制約仮説では特定の運動に注意を向けるように促されたとき(インターナルフォーカス)、動きを自動的にコントロールする過程を制約・妨害するといわれている。一方、運動の効果に注意を向ける(エクスターナルフォーカス)ように促されたときは、運動システムはより自然に自己組織化される。また、近年のMasterらの研究で、脳血管障害者は自己意識が増加していることや、情報を受け取るスピードが遅いことが述べられている。また、脳血管障害者は注意の容量が減少していることによって、技能の分解に作用するインターナルフォーカスの影響を受けやすく、意識的に動きを制御する傾向が強い可能性があると述べている。理学療法士の動きに対する評価や動きの質に対する発言、特定の機能に注意をむけさせることは自分自身で実行する十分な機会を与えず、パフォーマンスや学習の妨げになりうるかもしれない。
 患者には練習する過程で多くの情報が与えられるが、患者の注意の容量の上限が低下しているとすれば、練習中に患者に与える情報量が問題となる可能性がある。このように注意の方向性だけでなく、注意の容量との関係も考慮する必要がある。

【解説】

 注意の方向性はパフォーマンスや学習にとって重要な役割を担っている。注意の向け方に関して、Wulfら1)は、健常人においてスキーシュミレーターの課題で、インターナルフォーカス群(自分の足に注意を向ける)とエクスターナルフォーカス群(プラットホームの車輪に注意を向ける)とコントロール群を比較した。その結果、エクスターナルフォーカス群において、学習が強化されたと報告した。その後、エクスターナルフォーカスは、健常者のゴルフパッティングやバスケットボールのシューティングの課題で有益であることが示されている。また、対象に慢性脳血管障害者を含む研究では、動的なバランス練習においてインターナルフォーカスの情報はパフォーマンスや学習の阻害因子であったとの報告もある。
 本研究では、歩行の再学習の介入時期が、学習過程の認知・連合・自動化のどの段階2)にあたっていたのかが明示されていないため、学習過程に対応した分析は行われていない。また、脳血管障害後の歩行の再学習においてどちらの注意の向け方が有益であるかという結論までは述べてはいない。しかし、実際の理学療法介入場面の分析により、理学療法士の教示がインターナルフォーカスに偏っていることを明らかにしている。そのことが動作の自動性を減少させる可能性があること、理学療法士の教示や指導自体の量が学習の阻害因子になりうることを示唆しており、今後の研究につながる有益な報告であると考える。

【参考文献】

  1. Wulf. G.et al: Instructions for motor learning: Differential effects of internal versus external focus of attention. Journal of Motor Behavior, 30, 169-179.1998
  2. 谷浩明:動作支援と運動学習.理学療法,27(1),73-78.2010

2014年03月01日掲載

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