慢性腰痛患者における特定部位と非特定部位への脊椎徒手療法の即時効果

de Oliveira RF, Liebano RE, Costa Lda C, Rissato LL, Costa LO.Immediate Effects of Region-Specific and Non-egion-Specific Spinal Manipulative Therapy in Patients With Chronic Low Back Pain: A Randomized Controlled Trial .Physical Therapy. 2013 June ; 93(6):748-756.

PubMed PMID:23431209

  • No.1404-1
  • 執筆担当:
    首都大学東京
    人間健康科学研究科
  • 掲載:2014年4月1日

【論文の概要】

背景

 脊椎マニピュレーションは、腰痛患者に対する有効な治療法であるとされているが、その理論とメカニズムについては議論の最中である。一般的に、徒手療法士は腰痛患者に対して脊椎のどの部位にマニピュレーションを施行するべきかを重要視しており、その脊椎レベルを決定するために詳細な臨床的評価が必要であると考えている。しかしながら、特定の脊椎レベルへの脊椎マニピュレーションが必要であるかどうかは、はっきりしていない。
 先行研究では、特定部位に対する脊椎マニピュレーションは、可動域を増大させ、傍脊柱筋のメカニカルストレスを軽減し、痛みを減少させると報告されている。その一方、腰痛がない健常者においては、疼痛閾値と疼痛耐性の上昇、傍脊柱筋反射の惹起、運動ニューロンの興奮性と温痛覚の変化、時間的荷重の減少といった非バイオメカニクス的効果も明らかになっている。最近のシステマティックレビューでは、脊椎マニピュレーション後、局所と離れた部位の両方において痛覚に変化があったと報告されている。しかしながらそのレビューは、健常者や少数の腰痛患者を対象としている研究論文から行われている。そのため特定部位あるいは非特定部位への脊椎マニピュレーションの効果を明らかにするためには、対象をより大人数の腰痛患者とすることが必要である。

目的

 本研究の目的は、慢性腰痛患者を対象に、臨床的評価により決定した特定部位への脊椎マニピュレーションと、非特定部位(上位胸椎)への脊椎マニピュレーションの即時効果を分析することと、疼痛閾値への影響を比較することである。

方法

 対象は、18歳から80歳までの慢性非特異的腰痛患者148名とし、12週以上痛みが続いており、疼痛強度がNumeric Rating Scale(以下NRS)で3/10以上であることを条件とした。研究デザインは、評価者を盲検化した無作為化比較試験である。対象者は、特定部位へのマニピュレーション群と非特定部位へのマニピュレーション群に、1:1になるように無作為に振り分けられた。特定部位へのマニピュレーション群は、セラピストによる臨床的評価によって決定された腰椎レベルに対し、高速度マニピュレーションが施行された。非特定部位へのマニピュレーション群は、上位胸椎レベル(T1からT5の間)に対し高速度マニピュレーションが施行された。アウトカムは、疼痛強度と圧痛閾値とした。疼痛強度はNRSで、圧痛閾値は腰椎部(L3棘突起の5cm外側部とL5棘突起の5cm外側部の平均)と下腿部(前脛骨筋の中央1/3部位)において、圧痛計を用いて計測された。統計学的分析は、群内の差は対応のあるt検定を、群間の差については混合線形モデルを用いた。疼痛強度の変化と圧痛閾値の変化との関連性については、ピアソンの相関係数によって分析した。

結果

 両群において、疼痛強度の即時的な減少が認められた。しかし、群間には差がなかった。疼痛強度の群間差は0.50ポイント(95%信頼区間=-0.10から1.10)だった。
​ 腰椎部における圧痛閾値の群間差は-1.78ポイント(95%信頼区間=-6.40から2.82)、下腿部における圧痛閾値の群間差は1.19ポイント(95%信頼区間=-2.60から4.98)であった。どちらも群間に統計学的な差はみられなかった。
​ 腰椎部での疼痛強度変化と圧痛閾値変化との間には、弱い負の相関関係がみられた(r=-0.25)。なお有害事象は生じなかった。

考察

 脊椎マニピュレーションについては、慢性腰痛患者に対しその使用を支持する質の高いエビデンスがあり、腰痛治療ガイドラインでも推奨されている。本研究でも、疼痛強度は、両群において治療後にベースラインの30%近くまで減少したことから、それを支持する結果であった。今回の結果への疑問は、徒手療法において、疼痛軽減の即時効果を目的とするのであれば、非特定部位へのマニピュレーションも特定部位へのマニピュレーションも同じ結果であったという解釈をしてよいのかという点である。

【解説】

 本研究は、慢性腰痛患者に対する2種類の脊椎マニピュレーション(以下、STM)の効果を、疼痛強度と圧痛閾値に注目して比較検討している。2種類のSTMとは、臨床的評価に基づき決定した特定部位へのマニピュレーション(腰椎レベル)と、非特定部位へのマニピュレーション(上位胸椎レベル)である。
 今回、両群において疼痛軽減の効果がみられた。Bialoskyら1)は、STMによる機械的応力は、末梢神経と中枢神経系の両方からの神経生理学的反応の連続相互作用を引き起こし、痛みを改善すると報告している。また治療に対する期待や心理社会的要因も疼痛の減少につながるとされており、今回の結果の一要因であるといえる。
 しかし、疼痛強度の変化について、群間には差がなかった。また圧痛閾値についても、腰椎部、下腿部とも群間差がなかった。そのため、今回の結果からは、疼痛軽減のメカニズムについて、2群に共通した効果、すなわち非バイオメカニクス的効果のみによるものなのか、2群それぞれが異なる効果、すなわち特定部位へのSTM群はバイオメカニクス的効果、非特定部位へのSTM群は非バイオメカニクス的効果によるものなのか、あるいはそれらが混在しているのかは明らかになっていない。これらを明確にして理解を深めるためには、コントロール群として非介入群あるいはプラセボ群が必要である。しかしながら、STMのプラセボの方法論は確立されていない2)。よってこれが本研究の限界でもあるといえる。
 それでも、慢性腰痛患者における一番の問題点である痛みに対し、どちらの方法も即時効果があったことは注目に値する。徒手療法の効果に関する臨床研究は比較的少なく、そのエビデンスが十分であるとはいえない現状において、このような研究報告は非常に有意義であると考える。今後は筆者も述べているように、急性期や亜急性期の腰痛患者を対象としたり、効果の持続や長期成績に焦点を当てたりすることも期待される。

【参考文献】

  1. Bialosky JE, Bishop MD, Price DD, et al. The mechanisms of manual therapy in the treatment of musculoskeletal pain: a comprehensive model. Man Ther. 2009;14(5):531-538.
  2. Hancock MJ, Maher CG, Latimer J, et al. Selecting an appropriate placebo for a trial of spinal manipulative therapy. Aust J Physiother. 2006;52(2):135-138

2014年04月01日掲載

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